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夏祭りでの出来事の後、
春香とのメールは毎日続いていた。
メールでのやり取りの中で、
当時、『サスケ』という歌手の曲を
自分はよく聞いているという話になり、
春夏は興味を示してくれてCDを貸すことになった。
その次の日に、春香の下駄箱にCDを置くことにした。
亀山中学校は男女別々の出入口ということもあり、
サッカー部の練習終わりに誰にも見られないよう、
恭平に監視役を頼み、無事ミッション達成。
吹奏楽部の部活終わりに春香がそれを
持って帰ってくれた。
自分のことを知ってもらえるのが
とても嬉しかった。
「素敵な曲だね。」
と曲を聞いた後の春夏にメールで言われ、
『サスケ』を褒めているだろうに、
なんでか自分が言われたみたいで
照れてしまった。
CDをいつ返すかという話題になり、
お盆にある地元の小さな納涼祭で
返してもらえることになったのだが、
春香と一緒にその納涼祭に行く訳では無い。
亀山中学校の吹奏楽部は、
夏の納涼祭で最後の演奏をする
というのが言わば恒例だった。
つまりは、彼女達にとって最後の演奏を
俺は見に行き、演奏後に春香から
CDを返してもらう。そんな感じだ。
ちなみに納涼祭の2日前、
8月13日は俺の誕生日だった。
いつもお盆で学校も部活も休み。
友達も墓参りやらなんやらで、
毎年祝ってもらうのも家族だけ。
「先祖が祝ってくれてるよ。」なんて
歳の数だけ家族に言われたし、
そこまで気にしていなかったが、
学校で祝ってもらう人を見ると、
やっぱり少し羨ましかった。
だが今年は違う!
今年の俺には携帯電話というツールがある!
朋華、優希、そして春香がメール越しで
「誕生日おめでとう!」と言ってくれた。
(恭平は携帯電話を持っていない)
当日に祝ってもらうという美酒を噛み締めた。
まぁそんなことは置いといて、
納涼祭の日付となった。
俺の家から歩いて5分ほどで会場には着く。
春香に会えると思い、胸を弾ませながら
納涼祭へと向かう。足取りは軽い。
辺りも少し暗くなり始めた夕方6時。
吹奏楽部の最後の演奏が始まった。
年に1度学校行事で吹奏楽部の演奏を見ていたが
いつも恭平や優希と話していて
ほとんど真面目に聞いたことは無かった。が、
今回は流石に俺の耳は吹奏楽部の音色を捉えていた。
フルートの奏でる音色が聞こえる。
というかこれがフルートの音色かと、その時知った。
春香のソロパートもあった。
どの音よりも綺麗で繊細で、
ボーッと立ち尽くす俺に、
その優しい音色は心に染みた。
30分ほど経った所で演奏は終わり、
拍手と共に彼女たちは泣きながら退場し、
裏方へと入っていく。
俺は余韻に浸りながらボケっとしていると、
春香からメールが届いた。
「20分後に会いに行くから待っててね!」
ニヤケ顔を殺してもまたニヤける。
一体さっきの余韻はどこに消えたのだろう。
辺りはもう暗くなっていた。
照らすのは会場の真ん中にある街灯と、
屋台の光だけだった。
何気なく周りを見ていると、子連れの親子や
カップルが点々と歩いている。
「ごめん、遅くなった!」
突然声が聞こえて振り向くと、制服姿の春香がいた。
少し顔を赤くした春香を見て、体温が上がる。
「全然大丈夫!演奏お疲れ様。」
「ありがとう、やっぱり人前だと緊張するー。」
「凄かった。俺、全然楽器の事とか詳しくないけど、凄いと思った!」
「なんか照れるね。そうだ、借りてたCDとこれ!」
そう言い、春香は貸していたCDと
小さな四角い箱を俺に渡してくれた。
「なにこれ?」
「誕生日プレゼント!」
微笑むその顔にまた恋をした。
受け取る際にCDを落としてしまい、
CDケースがバキバキになったが、
その『箱』が落ちなくて心底安心した。
「ごめん!ケースボロボロになっちゃった…」
「ケースだけだし、別に大丈夫だよ。落としたのは俺だし気にすんな!」
確かに大事なCDではあったけど、
正直今はどうでもいい。
この『箱』と春香の笑顔さえあれば、
他のことなど二の次だ。
春香の迎えが来たようで、手を振り別れた。
短い時間の短い会話だったが、
もうニヤけ顔を殺す気さえない。
丁重に『箱』とボロボロになったCDを持ち帰り、
『箱』の中身を開けた。
中にはドナルドダックのマグカップが入っていた。
そのマグカップは俺の大事な宝物になった。
好きな人から誕生日プレゼントを
貰うことがこんなに嬉しいなんて…
それ以上に言葉が見つからない。
そのマグカップは目視できる棚に飾り、
以後、1度もマグカップの機能を
果たすことなく飾られた。
「演奏お疲れ様!あと、マグカップありがとう!
めちゃくちゃ嬉しかったし大事にします!」
と春香へメールを送り、眠りにつくことにした。
今日も今日とて安眠できそうだ。
好きな人が自分のことを想い、
選んでくれたプレゼント…
そう思うだけで、胸が踊る。
幸せとは、こういうものなのだろうか。
ありがとう、ありがとう、ありがとう…
誰に言うわけでもなく、心の中で感謝を誰かに伝え、
眠りに入った。
おやすみ世界。