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「……!!」
薄暗い洞窟の中、誰もいない後ろを振り返るニティア。
「どうしたの?」
横を歩いているエラリスが、肩を押さえながらニティアに視線を送り、前を歩いているルシオも同じく足を止めた。
「また厄介ごとか……?」
ため息混じりに振り向くルシオに、ニティアは小さく首を横に振った。
「いや……なんでもないわ。先を急ぎましょう」
そう言って正面を向き直るニティアに、何事もなく一安心したルシオが再び前に向かって歩き出した。
「フィニス達もそろそろ世界樹のところに着いてるかもね」
エラリスが小さく笑いながらそういうと、ルシオの後に続いて歩き始める。
「ん……そうだね」
少しだけ感じた嫌な予感を拭うかのように、胸元にしまってあるネックレスを一度だけギュッと握りしめた後、ルシオ達に続き洞窟内を進んでいった。
⸻
数日前
「さてと……うちらもそろそろ行きますかね」
フィニス達を見送り、出発の準備を済ませたルシオがギルドの前で大きく伸びをする。
「紅炎龍の鱗はちゃんと持った?」
馬車に食料や酒の入った袋を積み込みながら、エラリスがルシオに視線を送る。
「馬車の奥に赤い印の入った箱があるだろ?そこに入ってない?」
ルシオの声を聞き、馬車の奥へと姿を消すエラリス。どうやらちゃんとあったらしく、中から”あったー”という声が聞こえてきた。
ニティアはそんなやりとりに苦笑いをしながら、馬車の前で大人しく待っている馬の顔を優しく撫でる。
「少し賑やかかもしれないけど、よろしくね」
ブルルンと鼻を鳴らす馬。そこへ、ヴェスパとアオがギルドの中から姿を現した。
「それじゃ気をつけて。こっちもお前らが戻ってくるまでに色々と準備をしておく」
「準備?」
ヴェスパの言葉にニティアは首を傾げるも、ルシオが馬車に飛び乗り笑顔でヴェスパに答える。
「あいよ、そっちは頼んだわ」
「お姉ちゃんもいってらっしゃい!」
ルシオの言葉に軽く腕を上げて反応をするヴェスパの隣で、アオが馬車の中から顔を出しているエラリスに向けて大きく手を振っている。
「うん。アオもお利口に待っててね。多分私たちよりお母さん達の方が先に帰ってくると思うけど」
そう言いながら、アオに向けて小さく手を振るエラリス。
「ほら、ニティアも乗れって。行くぞ!」
首を傾げたままのニティアが、そっと馬から手を離す。そしてそのままジャンプするかのように一瞬だけふわりと身体を浮かせ、ルシオの隣に飛び乗った。
「まぁいいか。こっちもさっさと終わらせて帰ってきましょ」
先ほどの疑問のことは忘れ、顔を正面に向けると、先を急ぐようルシオの背中を叩き、出発を催促をするニティアであった。
⸻
穏やかな天気の中、カタカタと馬車の車輪の音が響き渡る。心地よい揺れに、ニティアは馬車の荷台の中でウトウトし始めていた。
「ねぇルシオ。ノーマン渓谷ってどんなところ?」
馬車の荷台から顔を出し、地図を見ながら運転しているルシオに尋ねるエラリス。
「このまま東に行くと、ノーマン山岳っていう山岳があるんだ。そんでその山岳の中腹に渓谷が……あるらしい」
「らしい……ルシオも行ったことないんだね」
エラリスの声に乾いた笑い声で反応するルシオ。
「まぁ……特段用もないからな……。観光とか名産品みたいなのがあるわけでもないし、かと言って山岳の向こうに行くのなら、わざわざ山を越えなくても近くに安全な道もあるからな。護衛の依頼とかでもこの山岳を通ることなんてほとんどないんだよ」
「ふ〜ん。あ、じゃあゼフィリアに……」
エラリスが手をかざしかけたところで動きを止める。
「ん?どうした?」
てっきりゼフィリアを呼ぶと思っていたのだが、その気配を全く見せないエラリスを横目に見るルシオ。
「お母さんも今フィニス達と向こうにいるから。ゼフィリア呼んでるかもしれないなって」
フィニスという単語に、ほぼ飛びかけていた意識が戻ってきたニティアが、大きく背を伸ばしながらあくびをする。
「あ〜なるほど……っていうかさ。それってどうなんの?」
「ん?なにが?」
ルシオの言葉に小さく首を傾げるエラリス。
「ほら。ゼフィリアはエラリスとエレノアさん2人が契約しているわけだろ?」
「うん」
「片方が呼び出してる時に、もう片方が呼ぼうとしたらどうなるのかなって。ゼフィリアが2人になったり?」
冗談混じりに笑うルシオ。
「あんなうるさいのが2人もいたらたまったもんじゃないわよ」
その冗談にあくびの涙を目尻に溜めながら反応するニティア。その言葉に一度ふっと笑い、顎に指を当てながら、うーんと唸り始めるエラリス。
「あくまで私のイメージの話だけどね」
そう前置きをし、話を続ける。
「呼び出したい精霊……例えばゼフィリアの魔力の波長に合わせて、最初にその魔力で……なんて言うんだろう。精霊達と繋がるための門の鍵を開けるの」
「精霊達とリンクさせるための道を作るみたいな感じかしらね」
「そんな感じ。で、道を開けると次に精霊達の家の前に立てるんだよ」
「ふむふむ」
目を閉じて、ゆっくりと手をかざすエラリス。
「精霊達の家の玄関が開いていれば、そのまま呼び出すことができる。でも、玄関の扉が閉まっているときは、お母さん……他の契約者に呼び出されていて外にいるのか、精霊達が今は呼び出されたくないって鍵をかけているかって感じなのかな」
「そこまで行って初めて呼べる呼べないがわかるのか」
エラリスの手が薄い黄色味を帯びた光に包まれる。
「玄関が閉まっていても、より魔力を込めれば……玄関で叫ぶ感じになるのかな?たくさん魔力を込めれば込めるほど、より大きな声で叫べて、それで家の中とか、外にいる精霊が気づいてくれるかも……みたいな。それに気づいてくれれば、こっちに来てくれる時もあるけどね」
「来てくれなかったら、魔力が無駄になると」
「そんな感じ」
そう言いながら、ゆっくりと目を開けるエラリス。次の瞬間には、馬車の荷台の中にモラティが召喚されていた。
コメント
1件
うわあ…ルシオたち、ようやく出発したんだね。洞窟の中でのニティアの“嫌な予感”、あれすごく気になる。何か彼女だけ感じ取ってるものがあるんだろうな…。 精霊召喚の仕組みをエラリスが説明してくれたところ、世界観がしっかりしてて好き。契約者ごとに“違う玄関のドア”かもしれないって比喩、すごくわかりやすくて想像が膨らんだよ。それにしてもゼフィリアが2人になったら確かにうるさそう(笑)。 アオがお留守番してるシーンもほっこりしたし、フィニスたちの動きも気になる…次が待ち遠しいです🌙