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『どうかしたか?』
「急にごめんね。ノーマン渓谷のことについて聞こうと思って」
揺れる馬車の中に呼び出されたモラティの前に、腰を下ろすエラリス。
『ノーマン渓谷はノーマン山岳の中腹にある渓谷だ』
「どんなところなの?」
『ふむ』
足をモゾモゾとさせながら、モラティが続ける。
『植物もあまり生えていない。ライナのいたクロレス山脈……みたいなところではあるが、あそこの岩山とは異なり、ノーマン山岳は火山で出来た山岳だ』
「へぇ……」
『……そして人間には知られていないのだが、渓谷の奥深くには良質な鉱物が埋まっている』
「もしかして、ドワーフがそこにいる理由って?」
『うむ。火山のマグマの熱も利用でき、材料も豊富。鍛冶職人からしたらまさに最高の職場と言うわけだ』
「なるほどねぇ〜」
馬車が揺れるたび、ソワソワと足を動かしているモラティ。爪の音が馬車の床面とぶつかり合い、コツコツという不規則な音が気になったのだろう。ニティアがモラティの側に近づく。
「もしかして……地面が揺れるの苦手?」
『うむ……どうも不規則に固い地面が揺れるというのが落ち着かなくてな……』
それを聞いて少しだけ顔が綻ぶニティア。
「もしよければ乗る?」
そう言い、座って自分の太ももをポンポンと叩くニティアに、モラティは首を左右に小さく振った。
『いや、問題ない』
「そう……」
少しだけ悲しそうに項垂れるニティアを他所に、エラリスがモラティに小さく頭を下げた。
「急にこんなところに呼んじゃってごめんね」
『気にするな。この間も話したとおり……職人気質の頑固な奴が多い。ちなみに酒は持ってきているか?』
モラティの言葉に、馬車の運転をしているルシオが笑いながら答える。
「持ってきてるぜ。仕事を頼むのに手ぶらってわけにもいかないからな」
『ふむ。ドワーフ達は仕事の後に飲む酒が好きだからな。それに……』
チラッとニティアを見た後に、すぐさまエラリスの方をじーっと見つめるモラティ。
「?」
『いや、まぁ何でもない……洞窟自体は渓谷の崖の中にある。お前達ならすぐわかるだろ。もし依頼に手こずった時はまた呼んでくれ。あそこには知り合いのドワーフもいるからな』
「うん、ありがとね」
『それではさらばだ』
そう言葉を残すと、全身から黄色い光を発するモラティ。その光が消えるとともに、姿を消してしまった。
⸻
モラティを呼んでから2日後。ノーマン山岳にたどり着いた3人。
ドワーフへの手土産や紅炎龍の鱗を入れた馬車の荷台をニティアの魔法で浮かせながら、日が沈み、薄暗くなった山道をしばらく登り続けていた。
「なぁ……ニティアの魔法で登れば……もうちょい楽なんじゃないか……?」
息を切らしながら一歩一歩地面を踏み締めるように歩くルシオ。
「よほどのことがない限り、飛行での移動はしないって決めてるのよ」
そう言いながらも、時折ふわりと軽やかに宙を舞うように飛び上がるニティア。
「まぁ、そもそも長時間物を飛ばしていられること自体が凄いことなわけだしね」
馬に乗りながら涼しい顔をしているエラリス。
「そんなに重いなら盾も荷台に乗せといてくれればいいのに」
重そうに歩くルシオ。そんな彼を見ながら少しだけ険しい顔をするニティアに、ルシオは笑って答える。
「それだと……何かあったときに対処できないでしょ……」
「既に私達の後ろにいる時点で、何かあった時の対処が間に合うかどうか怪しいところだけどね」
「うぐ……」
エラリスの言葉に苦しそうな顔をするルシオ。そんなやり取りをしていると、正面に大きな地面の裂け目が見えてきた。
裂け目の下を覗き込むニティア。
「水の流れる音が聞こえる……ここかな?近くに洞窟が無いか見てくるね」
そう言うと同時に、ニティアがふわりと渓谷の真上まで飛び上がった。
「だいぶ暗くもなってきたし……このまま今日はここで休憩かな……」
小さく肩で息をしながら、大きな岩に座り込むルシオ。エラリスも何かをしようと手をかざしていたが、その腕をすぐに引っ込めた。
「ん?モラティか?」
ルシオの言葉に小さく首を左右に振るエラリス。
「ゼフィリアを呼んで向こうの話を聞こうと思ったんだけど、今はお母さんが呼んでるみたい」
「まぁあっちは世界樹でエレノアさんの身体を癒すだけだし。大丈夫でしょ」
そう言いながら大きく身体を伸ばすルシオに、エラリスも小さく頷いた。
「うん」
⸻
「モラティの言った通り、もう少し進んだ崖の真ん中あたりに洞窟があったわ……ただ……」
エラリスとルシオが一息をついているところに、谷底からふわりと登ってきたニティア。2人の前に着地し、ローブを軽く叩きながら話を続ける。
「……少しだけ変な魔力を感じたけどね」
「変な魔力?」
「魔物とか……魔族……?」
首を左右に振るニティア。
「そこまでは分からなかったわ。魔族や魔物が魔力を抑えてるかも知れないし、ドワーフ達の魔力や、彼らが作った魔道具とかの魔力とかかも知れないし」
そのままふわりと2人と馬車を馬ごと浮かび上がらせるニティア。
「でもまぁ……行くでしょ?」
「この状態で行きませんとは言えないでしょ」
「ドワーフに会ってみたい」
2人の言葉にふっと笑うニティア。2人を連れ、川の流れる音が響き渡る渓谷の中へと降りていった。
コメント
1件
読み終わりました〜!今回の話、モラティが地面の揺れにソワソワしてるの可愛かったし、ニティアが「乗る?」って太腿ポンポンしてるシーンにちょっとドキドキしちゃった🫣💕 渓谷の雰囲気もちゃんと伝わってきて、それでいて最後の「変な魔力」がすごく気になる…!ドワーフたちにも会えそうだし、続きが楽しみすぎるよ🥺🤍