「……なんで涼太あそこいたの?打ち上げ行かなかったの?」
グラスを揺らしながら、半分ふてくされたように聞くと、涼太は涼しい顔で笑った。
「疲れてたから帰ろうかなって思って。でタクシー待ってたら、翔太が歩いてきてさ。壁にもたれて泣いてた」
「……泣いてねーし」
「うん、泣いてなかったな。じゃあ、あれは汗?」
「うっさいな……」
やけにオシャレな隠れ家バー。
涼太が「俺の行きつけのとこ」と言って連れてこられた店は、落ち着いた照明と静かな洋楽が流れている。
テーブル越しに座る2人だけの時間が、なんだか妙に心地よかった。
もう三杯目のハイボール。
いつもならあまり酔わないのに、今日は少し違っていた。
「……なあ、涼太。人ってさ、どれくらい本気になっても、フラれるときはフラれるんだな」
「……うん」
「俺、けっこう…がんばってたんだよ?仕事も、彼女とのことも。だけど“寂しい”って言われちゃったら……もう、どうしようもないじゃん」
グラスの氷がカランと鳴る。
俺の瞳が、グラス越しに潤んでいた。
「翔太さ」
舘様がぽつりと、テーブルに手を置いた。
「辛いことあったら、メンバーの前では隠さなくていいんだよ。」
「……見せらんねーだろ。心配かけたくないし」
「でも俺には見せてくれるんだ?」
涼太の視線が俺の方へ射抜くように向いた。
涼太の声はやわらかいのに、妙にズルい。
言葉の奥で、全部見透かされてる気がした。
しばらく沈黙が流れて──涼太がふいに、少しだけ口元をゆるめた。
「翔太……。」
「……ん?」
「今日、うち来る?」
「──え?」
「1人で家に居るのしんどいでしょ」
ふっと笑ったその横顔に、なんとなく安心する。
ずるいくらい優しくて、やたらとタイミングがいいこの人は、いつだって“救い”のような存在だった。
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