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鋼谷が冥王会の本拠地にたどり着いた時、すべてを飲み込むような存在感が空間を支配していた。その中心に立つのは冥王会の会長――通称「冥王」。彼の姿は黒く染まったローブに包まれ、その顔は影に隠れて表情が読み取れない。しかし、その周囲には異様な静けさが漂い、誰も近づくことすらできない雰囲気があった。
「来たか。」低く冷ややかな声が、広い空間に響いた。冥王は静かに片手を掲げる。その手は黒く、空気がまるで引き裂かれるような感覚を醸し出していた。
「それが…“虚無の手”か。」鋼谷は冥王の手を見据え、ぞっとする感覚を覚えた。それは単なる殺傷の異能ではない。冥王の「虚無の手」は、触れたものを霊体も物体も関係なく「無」に返す絶対的な力だった。物理的な存在、魂、記憶、そして存在の痕跡すらも、すべてを消滅させる異能――虚無の手。その力の前には、どんな抵抗も無意味であるかのように感じられた。
冥王は冷笑を浮かべると、軽く手を振った。すると、遠くの柱が音もなく消えて無くなり、空間がわずかに歪んで見えた。
「理解したか?お前の“抵抗”は、無意味だ。」
鋼谷は息を呑んだが、恐怖を振り払うように拳を握りしめた。これまでの経験が語りかけている――「逃げるな」。だが、目の前にいる相手は、それまでの敵とは桁違いだった。虚無の手の力が、自分の存在すらも容易く消し去る可能性を感じていた。
「…俺が、無意味かどうかは、俺が決める。」
鋼谷の視線には、かすかに決意の光が宿っていた。彼の体は既に戦いの準備が整っている。しかし、その一歩一歩が、虚無の手に触れられた瞬間に消し去られる可能性を秘めている。
「ならば、試してみるがいい。」冥王は冷笑を浮かべ、ゆっくりと鋼谷に向かって歩み寄る。
運命の戦いが、今ここに始まろうとしていた。