生きてる……生きてる、生きてる、生きてる、生きてる、生きてる、生きてる!
「みんな、生きてる!」
僕は狩場に出るため、《モロシイタケ》の採取依頼を受けて森を全力で走っていた。
……え? 報告前に持ってるのおかしい? まぁまぁ……前回採った分を“もしも”の時のためにギルドに内緒でストックしてただけだし。グレーゾーン? そういうのは“ギリギリ合法”って言うんだよ! みんなやってるし!
「はぁ……はぁ……確か、この辺に拠点が……」
息が切れる。心臓がバクバクで喉が焼けそうなのに、それでも足は止まらなかった。
装備はゴールド級。足装備も上等だけど、さすがに最高級ってわけじゃない。でも普通の走りなんかより、よっぽど速い。感覚で言えば――ロードバイク並み。
そうして辿り着いたのは、濁った大きな泉。名前なんてない。ただ、奥からゆったりと川が流れ出している。
「……」
あたりをぐるりと見回すと、反対側の茂みにテントが張られていた。
「あそこか!」
――そのときだった。
「な、なに……!?」
身体にビリッと走る、異様な感覚。
そして、遠くの方で木々が一斉になぎ倒される音が聞こえてきた。
「え? 僕、出してないのに……?」
出した覚えのない【糸』が、勝手に空中に浮かびあがり、光の矢印のように先を示す。
――まるで、RPGのナビゲーションみたいに。
「この先に……よし!」
俺は水面を駆けた。魔力操作で足裏に滑らせるような魔力の膜を展開し、疾走する。
途中――泉の底から巨大な魔物が飛び出してくるが、
「邪魔すんなぁっ!!」
【糸』を放って即拘束。構ってる暇なんてない。
もうすぐ――もうすぐ会える!
……そして辿り着いたのは、不自然すぎるほど“何もない”開けた土地だった。
草も木も石ころすらなく、ただ灰色の大地が広がるその場所。中心に、二人の人影。
「……ど、どうして?」
そこに居たのは、リュウトと――ヒロユキ。
だが、ヒロユキは美しく光を返す日本刀を手に、リュウトを襲っていた。
対するリュウトは、巨大な黄金のランスを構え、必死にかわしている。
「なんで……勇者同士が戦ってるの……!?」
空気が――変わった。
先ほどまで受けに徹していたリュウトが、距離を取り、構える。
そこから放たれる【殺気】が、肌を突き刺すように伝わってきた。
「この感覚……まさか……!」
来る――明らかに、決めにくる大技。
止めないと……どっちかが死ぬ!
「ヒロユキ! リュウト君っ!!」
叫びながら駆け出す。けれど、二人はまるでこちらの声が届かないかのように構えを崩さない。
やばい! このままだと――!
「止まって!! 【目撃縛』!!」
心の叫びと共に、魔法が展開される。
小さな魔法陣が空間に浮かび、そこから伸びる無数の【糸』が――二人を縛りあげた。
リュウト君の両腕とランスを、ヒロユキの腕と刀の柄を。それぞれ絡め取るようにして、動きを止めた。
「なぁぁぁあにしてるんだ!このバカちんがぁぁぁあ!!!」
「「!?」」
やっと俺の声に反応してくれた!
「え、えと、その声は……まさかアオイさん?」
あ、やばい、涙出てきた……
生きてた!リュウトくんも!ヒロユキも!!
「そうだよ!久しぶり!リュウト君!ヒロユキ!……君!」
二人とも、まだ【目撃縛』で拘束したままだ。
「。。。。。。だれだ?」
ヒロユキが拘束されたまま、まるで初対面の人に向けるような目でそう言った。
――え?ええ!?忘れた!?
嘘でしょ!?確かに山亀討伐から年数は経ってるけど……そんなことある!?
ていうか、召喚された時は下着Tシャツ姿だったのに!?インパクトはあったはずなのに!?
「えーっと……思い出せない?」
「。。。。。。お前なんて知らん」
「ガーーン」
「アオイさん、そいつに騙されないでくれ!ヒロユキの身体を乗っ取ってる――【魔王】の手下だ!!」
「え!?【魔王】!?それなら僕が……」
確かに、【魔王】は倒した……けど、殺してはいない。
だからまた復活して悪さでもしたのか――そう思った次の瞬間、リュウト君の言葉が俺の中に衝撃を走らせた。
「倒したのは知ってる……でも、俺もそうだったんだ。
この世界に【魔王】は、まだ存在する!」
「ぅえ!?……ええええええ!?」
何それ!? え? てかさ、【魔王】だよ? 【魔物の王】が何人も居ていいの!?
「とりあえずその話は後で……この糸はアオイさんから?」
「あ、うん。ごめん、今ほどくね」
リュウト君が拘束されたままこっちに声をかけてきたので、さすがに格好がつかないと思って【糸』を解いてあげた。
あぁもう……なんか、抱きしめたいくらい嬉しい。
「ふぅ……でも助かったよ、アオイさん。もう少しで俺、友達を殺すところだった」
「……その言葉、けっこう物騒だね……」
「まぁ確かに。【日本】にいた頃は、絶対に口にしなかった言葉だよな……フフッ。後で詳細は話すとして──さて」
リュウト君は視線をヒロユキに向ける。拘束はまだ解いていない。
「形勢逆転だな。大人しくヒロユキの身体を返せ」
「。。。。。。ククク。。。。。」
「何がおかしい!」
「。。。。。。その前に、面白いことになったみたいだぞ【勇者】」
「何!?」
その直後、空気がビリッと変わる。
周囲の木々の間から、無数の【水の矢】が俺たち三人めがけて飛んできた!
「危ない! リュウト君!」
俺は即座に【糸』を展開し、円柱状の魔法防壁を形成して三人を包み込む。
矢は全て弾かれ、直後に防壁を解除すると──
目がギョロっとして、緑色の鱗を持った半魚人たちが、こちらを囲んで弓を構えていた。
「。。。。。。ほら、リュウト。良かったな。。。。。。【人魚】共だぞ?」