テラーノベル
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「姉ちゃんは、綺麗だよ」
そう言って抱き締めてくれたあの日。
神様、誰にも内緒にして下さい。
「お前、負けたまま逃げんなよ」
そんな事、言ってもらえる価値は無い。
「欠陥品同士、仲良くしようか?」
気持ちは、加速する。止まらない。
拝啓 神様。
貴方がついた嘘、むしゃむしゃ食べて良いですか?
返事は要りません。
私が欲しいのは返事じゃありません。
私についた嘘、むしゃむしゃ食べて良いですか?
数年振りに地元に帰ってきた。
いつの間にか、大分駅は改装され綺麗になっていて、
学校帰りによく寄っていたパルコは閉店し建物が残っているだけだった。
県内で一番大きいはずの駅なのに、昔は何にもなくてボロくて、田舎の象徴みたいであまり好きでは無かった。
だから高校を卒業してすぐに福岡の短大に進学した。
あれから帰ってないから、七年ぶりになるのかな……?
『君に、欠陥部分が見つかったんだ』
あの言葉を聞くと、未だに心がもやもやする。
「みなみっ!」
大声で呼ばれて、そちらを見ると、ロータリーにバイクに股がった長身の男が此方に手を振っていた。
「侑哉(ゆうや)」
ブンブンと無邪気に手を振る弟に、苦笑しながらも近づく。
新品のバイクでドライブしたいとの要望で、わざわざ降りる駅を乗り過ごし、こっちに来たわけだけど。
「な……なに、このバイク」
明らかに不良が乗りそうな、ゴツくて真っ黒で大きなバイクに苦笑いしかできない。
「あんた……もしかして不良だったの?」
2年もバイトして頑張った弟に、バイクを褒めてやらねば、と思うのだが、褒める場所が見つからない。
「失礼な! 俺のどこが不良だよ!」
どこがって。
180はある身長?
ツーブロックに刈られた髪型?
外人みたいな彫りの深い顔は、睨まれると金縛りに合いそう。
――全部怖いじゃん。
私も弟じゃなきゃ目も合わせないかも。
というわけで、敢えて突っ込まないで置こう。
「ドラッグスターは俺の好きな漫画で主人公が乗ってるんだよ。愛称は星ちゃん! 倒れたら起きない我が儘野郎だから、優しく接してくれ」
ほい、とヘルメットを渡されながら苦笑しておく。
そしてベラベラとバイクの蘊蓄(うんちく)を語りだした。
あの日以来、久し振りに会ったのに、気まずくならないで済む反面、居心地が悪い。
気にしていないような雰囲気が、少し申し訳ない気分にさせる。
「しっかり捕まっててよー! 風ヤバいからー!」
大はしゃぎでそう言うと、バイクは別大道路に向けて一直線。
ちょっと緩やかなリアス式海岸を通り抜けながら、
ちょっぴり変わってしまった町並みが見えてくる。
小さい頃よく行っていた水族館は、うみたまごと名前が変わり、日曜の今日は駐車場に車が溢れている。
弟と学校で聞いた、別大道路の怖い話の名物地蔵を通過したが、いっぱい花束が添えられていても、もう怖くなんて無かった。
町並みも変わったけど、私も一番変わっている気がする。
こんな風に弟を抱き締めていなければ、あの日の事が蘇りそうで嫌になる。
「そーいや、車買うの?」
「えー?」
風がゴーゴー当たるので、侑哉の声がよく聞こえない。
「通勤に車ー!! 買うのー?」
「……そりゃーねぇ」
ここじゃあ、車が無いと生きていけない自信がある。
バイクが向かった先。
大分県民なら知らずと知れた温泉の観光名所、別府。
泉都とも呼ばれている
山の方からは、もくもくと白い湯気が出ている。
観光に来るならば、三日かそこらだから、きっと快適に過ごせると思う。
海沿いにも、温泉の近くにも、ホテルや旅館はいっぱいあるから。
ただ、住むとなると車は欠かせない。
坂ばかりの別府は、斜面に学校やマンションが建てられている。
私も学生時代は、朝は坂を登らなくてはならず、苦痛だった。
もう少し海沿いの平野のマンションを買ってくれたら良かったのに、安い土地付き戸建てに飛びついた親が憎い。
自転車は行きは押して、帰りは乗って、で面倒臭かったので、最終的には乗らず、遅くなったら迎えに来て貰っていた。
侑哉は市内の高校だったから電車通学だったけど。
「今日は引っ越し祝いに飲みに行こうよ」
「えー?」
「オシャレなとこ知ってるんだ」
そう振り返ると、生意気そうに笑った。
いつの間にそんな所行けるようになったんだか。
そういや、泣いた私を抱きしめたあの日も、慣れていた気がする。
大きな背中、ごつごつした指、大人っぽくなった目元。
――今日から私たちは、一緒の家で暮らす。
お母さんは、侑哉が成人すると同時に、大好きなお父さんが単身赴任している東京に行ってしまったし。
出戻った私と、お金がない学生の身では、持ち家に住む選択肢しか無い。
結婚退職する予定だった私は、実家に逃げ込みしかないんだから。
あの日の、現実は、……侑哉が全て包んで抱きしめてくれたから、私も頑張らないと。
もう暫くは、結婚しようとか彼氏が欲しいとか思わない。
ってか、一生考えたくないかもしれない。
「どーしたの? 怖い顔してるよ、みなみ」
侑哉が不思議そうに覗きこむから、プイッと慌てて目線を逸らした。
もういいんだ。大切な弟が居ればそれで。
分かってくれる弟がいてくれたらそれで。
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