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#一次創作
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「ふえぇ……」
レイラは絶望した。
彼女は魔法使いで、冒険者をしている。
このたび懸賞金の懸かった魔物を討伐すべく、この街に来たのだが――
……パーティの他メンバーが、いつの間にか逃げてしまったのだ。
「私、どうすれば……」
とりあえず冒険者ギルドに行ってみるも、冒険者の人数に対して、職員が少ない。
ぱっと見、他のパーティに入るには空きがない……と、彼女は思った。
むしろ内向的な性格が、そう思うことを結論付けていた。
「ここの空気、やっぱり苦手……」
ぼそりと零して、レイラは教会に行くことにした。
教会というものは、来るもの拒まずの精神がある。
しかも基本的にはシスター……女性が多く、また優しい性格の人も多い。
「すいません、こんにちは……」
「ようこそ、教会へ。今日はどうされましたか?」
「あ、はい。……えぇっと……お祈り、いいですか?」
「もちろんですとも。席はどちらでも構いませんよ」
そう言うと、シスターは礼拝堂を案内してくれた。
レイラは祈りに来たわけではなかったが、まずはシスターが良しとする行いをしておきたかったのだ。
……この辺り、彼女は自分に嫌気が差してしまう。
「あの……私、この街の魔物を討伐に来たのですが……」
「え?」
レイラは、シスターの言葉にびくっとした。
……こんなにびくびくとした自分が、あんな魔物を討伐するなんて。
やっぱり可笑しいと思われているに違いない……。しかしシスターは、逆の反応を見せた。
「ありがとうございます!
……本当に、感謝いたします」
「わ、わぁ……頭を上げてくださいっ!?
……私はそんなに強くなくて。パーティのみんなに、置いてきぼりにされたくらいで……」
「でも、残って頂けたのでしょう? それだけでも、とても素晴らしいことだと思います」
シスターは真っすぐに微笑んでくれた。
しかしレイラは複雑な気持ちになった。この街に残るだなんて、考えてもいなかったのだ。
この教会には、孤独な自分を慰めてもらおうとして、ふらっと来ただけ。
だから、それをはっきり伝えなくては――
「……あの。私でお手伝いできることがあれば、何でも……」
「ありがとうございます!」
……レイラは結局、情けない自分に負けてしまった。
言いたいことも言えずに、ただ流されるだけ。
振り返ってみれば、この街に来たのだって、単純に流されただけ。
……自分は変われない。自分では変われない。
何かのきっかけがあれば……とも思うが、結局はそれも、自分で考えることを諦めているだけなのだ。
――街の様子を心配するシスターに付いていき、何度か魔物を見に行った。
魔物は少しずつ、その腕……触手? を街の外側に向けて伸ばしている。
しかし、すぐに街の外まで届くわけでもない。その前には人の営みが広がる、大きな街をひたすら通る必要があるのだ。
「この魔物、どこまで大きくなるんでしょう……」
「分かりません……。他の街に要請を出しているそうなのですが、あの魔物を見てすぐに帰ってしまいますし……。
国の方でも、まだ動きが無いようですし……」
国が見捨てるような問題を、この街だけで解決できるわけがない。
だからこそ、他の街から来た人間も、何もせずに帰ってしまうのだ。
冒険者はそれなりに集まってはいるが、だからといって即座に解決に向かうこともない。
冒険者だって、無駄死にはしたくない。安全になった上で、最大限の成果を得たい……というのが大半だろう。
たまに無謀に先陣を切る者もいるらしいが、どうやれば討伐できるのか、そもそも判明していない。
「――でも」
「はい?」
「大聖堂の方は、しっかりやってくれているんですよ。
進みはやはり遅いのですが、それでもこの街に、しっかりと滞在してくれていて」
「へぇ……。さすがは神職者様、ですね?
きっと真面目で勇敢な、素晴らしい方なんでしょうね」
「……えっと。ふふふ、お会いすれば分かりますよ」
「はぁ……」
シスターの微妙な言い方に、レイラは少し戸惑いを見せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな日々を過ごす中、突然、魔物が大きく動いた――との連絡があった。
他の冒険者の影に隠れるようにして向かってみると、魔物は以前よりも一気に大きくなっていた。
それに巻き込まれて、崩された建物の生き埋めにされた者もいるようだ。
「大変……! 怪我人がたくさん出そうです……」
教会で治癒魔法を使えるのは、このシスターを含めて3人しかいない。
怪我人が多くなるほど、彼女たちの手だけでは足りなくなってしまう。
「ど、どうしましょう……!?」
「……落ち着いてください。まずは、落ち着きましょう」
シスターは自分に言い聞かせるように、そう言った。
「おそらく治癒魔法は足りなくなると思いますが、治癒薬ならたくさんあるんです。
この街出身の商人の方が、こうなることを見越してたくさん準備してくれて」
「そ、それなら良かった……!」
「だから、あとは生き埋めになった人を見つけられるかどうか、ですね」
そこに、突然男性の声が割って入ってきた。
この街出身の商人、カーティスである。
「シスター!」
「あ、カーティスさん……! 今、大変なことに……!」
「ええ、まずは怪我人をどうにかしないと! この街に来てくれた人を、死なせてはいけません!
私は冒険者に掛け合って、生き埋めになった人をどうにかします! シスターは教会で治癒の準備を!」
「はい、分かりました!
……レイラさん、私は教会に戻ります。あなたも……もし良ければ、少しだけ勇気を出して頂けると……」
シスターはレイラの両手をぎゅっと握ってから、教会に走っていった。
レイラが次に見たとき、カーティスの動きは速く、近くの冒険者たちに声を掛けて誘導を始めていた。
臨時のボーナスを出すということで、冒険者たちは不安の中でも活気づいているようだった。
……結局は、お金。お金が目当ての冒険者は、結局はお金によって動く。
どこか悲しい気持ちを抱えながら、レイラはひとりで慎重に、魔物の体躯の外側……瓦礫の山に沿って歩いていった。
――生き埋めになった人の、小さな気配を感じる技術なんて持っていない。
小さな音を聞き分ける、繊細な耳というのも持っていない。
瓦礫の中を探す腕力も無ければ、まずは手を出す度胸も無い。
――私は無力だ。
人間という種族だからでも、腕力が弱い魔法使いだからでもない。
私だから、無力なのだ。
……ふと、瓦礫の下から赤茶けた色が見えた。
そこで、レイラの感情は切れてしまった――
「――力が欲しいの?」
不意に、少女の声がした。
地面に泣き崩れたレイラが顔を上げると、そこにはアリアが優しそうに覗き込んでいた。
「あなたは……大聖堂、の……?」
「あれ? あたしのこと、知ってるの?」
「はい、シスターから……ここに滞在しているってことだけ、聞いていました」
「なるほど。……まぁ、まずは落ち着こうか。飴でも舐める?」
そう言うと、アリアは小さい包みを手渡してくれた。
「――ふむ」
レイラの感情の吐露を受け止めると、アリアは一息ついた。
「こんな状況じゃ、それこそ得手不得手が分かれるよ。
だから、何もできなくても……自分に合わないことばかりでも、気にしない方が良いよ。
あたしだって、大聖堂の人間だーって言われるけど、そんな理想的には動けないし」
「そうですか……? でも、あなたの存在は……とっても、輝いていると思います……」
どこにいても、その片隅でいつまでもいじけてしまう自分。
そんな自分より、ダメなものがあるわけない。そう考えてしまうのが、レイラの思考回路だった。
「そんな自分を、変えてみたい?」
「……はい。私は自分で、一歩も踏み出せない弱虫です……。
でも、きっかけが欲しい……とも言えません。言った時点で、それは私の責任に……。
きっとそれには、耐えられない――」
「その責任、あたしが負うよ」
「え?」
「――ならば祝福を与えよう。
汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」
アリアはレイラの涙の跡を拭ってから、優しく額を指で触れた。
レイラは今は亡き家族の面影を思いながら、流れに身をまかせる。
「――神の祝福はここに在り。
望みと共に、その魂から発芽せよ――」
レイラは、鼓動が遅くなるのを感じた。意識は朦朧としてきている。
理解が及ばない感覚が一斉に押し寄せてきたが、悪い気分はせず、むしろ――
……そう思ったところで、意識が急にはっきりしていった。
「君が手に入れたギフト――才能は、『直感の才能』だね?
どう、何か変わった?」
「ふわぁ……。うわわわぁ……?」
「だ、大丈夫!?」
レイラの言葉に、アリアは慌ててしまう。
こういった反応は、なかなか珍しいのだ。
「何か……ぱーっと、見えるものが増えた、ような……?
……私、もともと鈍い子だったから、やっと普通になれた……の、かも?」
「確かに、おっとり型だったもんね」
「――あ!
あそこに……何か、ぞわぞわします!」
レイラは少し離れた瓦礫の山を指した。
レイラとアリアは、とりあえず急いで向かってみる。
そこは建物が崩れたばかりのようで、何となくそんなにおいが感じられた。
「ここ? ちょいちょい~、っと」
「はわわっ!? アリアさん、女の子なのに何でそんな瓦礫を動かせるんですか……!?」
「神様の意思ぃ~」
「えぇ……」
その後、レイラの案内によって、4人の怪我人を見つけることができた。
レイラはその夜、ひとりになったあと……宿屋で一晩中、泣いてしまった。
自分でも何かができる。自分でも人を助けることができる――
それは彼女にとって、初めての体験だったのだ。
翌日、レイラはシスターから聞いて、アリアがいつもいる建物を訪れた。
そこは今回の魔物の対策室……のようなところで、彼女は広い部屋の片隅の、大きなテーブルのところで考え事をしていた。
「あの、アリアさん!」
「あ、おはよう。ちゃんと眠れた? 目、腫れてるよ?」
「あわわ……。こ、これは……!」
レイラは気まずそうにしたが、アリアの微笑みは全てを見通しているかのようだった。
照れ隠しをするため、レイラは慌てて話をすり替える。
「あ、あの。アリアさんが持ってるそれって、天球儀……ですか? 珍しいですね」
「うん。先日、手に入れたものなの」
レイラが改めて見ると、そこからは何か感じ取れるものがあった。
危ない感覚は無い……。むしろ、それとは逆の――
「……あの、アリアさん。その天球儀、触ってみていいですか?」
「え? これ、ちょっと危ない……その、魔導具なんだよね。
だからあんまり――」
「いいえ……! 私、その天球儀に触らなきゃいけない気がして……!」
「それって、君の直感力? うーん……まぁ、少しだけだよ?」
「はい、ありがとうございます!」
レイラはテーブルに置かれた天球儀を、ぺたぺたと触っていった。
魔導具……とはいうが、自分では動かせなさそうだ。
しかし、何か違和感が……。何か、隙間のような――
「おーい、アリア――……あれ? その子は誰?」
「うん。昨日ね、外で知り合った子なんだけど――」
アリアとザインが話し始めた横で、しばらくしてから突然……天球儀が輝き始めた。
それは一瞬で収まったが、部屋中の目線を集めてしまう。
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!?」
「……はい」
レイラは一瞬、光の中で……何かの記憶を見た、ような気がした。
それは、遠い遠い、薄れかけた記憶。
しかし頭の中で繰り返すたび、思い出すたび、もっと奥底から、何か別のものが――
「……う」
「……う?」
レイラの小さな言葉に、アリアはそのまま返してしまう。
そして、レイラとアリアの目が合った。
アリアの姿を確認すると、レイラの目からは大粒の涙が零れ始める。
「――アリア様!! ずっと、ずっと会いたかったですゥ!!!!」
「は、はぁ!?」
レイラはアリアに抱き着こうとしたが、何故かそれが出来なかった。
しかしレイラは諦めず、アリアのまわりをうろちょろと動く。
「アリアはこの子と、前に会ったことがあるの?」
「昨日が初めてだよ!?」
「そうです、確かに昨日初めてお会いしました……。
しかし私とアリア様は、前世からずっと繋がっているんですッ!」
「え? いやぁ、それは無いと思うなぁ……」
レイラの突然の言葉に、アリアは呆気に取られる。
ただ、次に言葉を続けたのもアリアだった。
「――ちなみにその前世って、いつ頃なの?」
「1000年前くらいです!」
レイラの答えを聞いたアリアは、ザインの方をゆっくりと振り向く。
「……大変、情報屋。この子、本当に前世で会ったかもしれない!」
「お前、自分の前世覚えてるの?
……っていうか、そんなボケをしてる場合か!」
「きゃーんっ♪ 2段ツッコミ、ありがとう★」
「きーっ!! そこの男!
アリア様とイチャイチャしないでください!!」
「……あ、あれぇ? もしかして、性格まで変わってる?」
地面を足でバタバタと、テーブルを手でバシバシと、レイラは音を立てながらザインを威嚇する。
アリアの積極的なボケは、レイラに油を注ぐ形になってしまった。
「アリアぁ……。やっぱりその魔導具、危険なんじゃない……?」
「そうだねぇ……。やっぱり、危険だよねぇ……」
目の前のアリアとザインが通じ合う姿に、レイラはさらに苛立った。
何でこんなに苛立ってしまうのか。いつもの臆病な自分はどこに行ったのか。
……ただ、口を突いて出てくる言葉が止まることはなかった。