そしていよいよ挙式が始まった。
「皆様ご静粛に。そろそろお時間になりましたので、高城壮馬様と藤野花純様の挙式を始めたいと思います。それでは新婦のご入場です!」
この庭園のリニューアルオープンの時に司会を務めた有名アナウンサーが今日の司会も務めている。
司会者が声を張り上げるとそれまで談笑していた参列者達が一斉に静まり返った。
静かな会場にはワーグナーの結婚行進曲が流れ始める。
参列者達がバージンロードのスタート地点を見るとそこには純白のウエディングドレスに身を包んだ美しい花純の姿があった。
デザイナーの戸崎が花純の為にデザインしたドレスは胸元とドレスの裾に沢山の花モチーフを散らした華やかなデザインだった。そのドレスは若い花純に良く似合う。そして植物好きの花純にはピッタリのデザインだ。
祭壇の前に立っていた壮馬は花純の美しさに目を奪われていた。
(まるで天使のようだ……)
壮馬は純真無垢な花純のドレス姿を見てそう思った。
花純が腕を組んでいる相手はなんと壮馬の父・雄馬だった。
結婚式の打ち合わせをしている時に誰が花純とバージンロードを歩くか議論になった。
最初は花純の母・涼子が候補に上がったが、人前に出るのが苦手な涼子はそれを辞退する。
そこで祖母の雅子という案も上がったが歩くスピードが遅すぎるので却下される。
そこで話し合いの最中ずっとウズウズしていた雄馬が名乗り出た。
「どうせ私の娘になるんだ。だから私と歩いたって構わないだろう?」
雄馬の言葉を聞き花純は涙が出そうになる。
「娘になる」という言葉に花純は感激していた。そして花純は雄馬の事がますます好きになった。
義理の父と花嫁の入場はとても微笑ましい光景だった。参列者たちからも温かい眼差しが注がれる。
いよいよ二人で歩き出そうという時花純の身体は緊張でガチガチだった。
そんな花純に気付いた雄馬は、
「大丈夫だ、落ち着いて。しっかり私の腕につかまっていなさい」
雄馬が安心させるように言ったので花純は小さく頷いた。
「さぁ、行こうか」
雄馬の一言で二人は一礼をしてから歩き始めた。
バージンロードの両サイドには壮馬と花純にゆかりのある人達が大勢集まっていた。
皆が満面の笑みでお祝いの言葉を投げかけてくれる。
途中美咲の「花純ちゃん綺麗ー!」という声が聞こえた。その声で花純は少し緊張がとけ美咲へ笑顔を投げかける余裕も生まれた。
すると美咲の隣にいた水森が「おめでとうー!」と言いながらカメラのシャッターを押していた。
更に前へ進んで行くと今度は右手に優香と優斗がいた。
「花純ちゃんすごく綺麗よー! おめでとう!」
優香がそう声をかけると、
「いやー壮馬には勿体ないくらいの花嫁さんだなー」
と優斗が言う。
するとそれに対して優香が言った。
「ハハッ、あんたが言わないのー!」
そんな二人の楽しいやり取りが耳に入る。
花純は二人に向かって「ありがとうございます」と声をかけると前を向いて壮馬が待つ祭壇の前へと進んで行った。
祭壇の前では花純を待つ壮馬が優しい笑みを浮かべて立っていた。
シルバーのタキシードを着た壮馬はまるで王子様だ。
(こんな素敵な人のお嫁さんになるのね)
花純は改めて思う。
壮馬の傍へ行くと雄馬が花純の手を壮馬に託しながら言った。
「私には念願の娘が出来たぞ! 壮馬、ありがとうな」
雄馬は息子の肩をポンポンと叩いてから妻百合子の隣へ向かった。
手を取り合って見つめ合う二人は、その後祭壇の前へ進み出た。
そして挙式は滞りなく行われた。
二人は柔らかな木漏れ日が差し込む高原のような庭園で夫婦になる誓いを立てた。
その後指輪の交換をしてから誓いのキスをする。
キスの瞬間参列者からは歓声と指笛が響いた。
式が終わり退場をする際二人は見つめ合って微笑む。そこで再び冷やかしの歓声が上がった。
そんな中優香の声が響いた。
「ちょっとーラブラブのお二人さん! 早くブーケトスしてよぉ」
優香がからかうように言ったので参列者達からどっと笑いが起こる。
そこで隣にいた優斗が優香に聞いた。
「ブーケトスって…まさか参加するのか?」
「はぁっ? なんか文句ある? ブーケトスに年齢制限なんてないんですからねー」
優香はそう言うと優斗の足を思い切り踏んだ。
「イデーーーッ」
「フフッ、罰が当たったわね!」
優香はクスクス笑っている。
その後、新婦によるブーケトスが行われるので司会者がマイクを持って声を張り上げた。
「式に参列されたお嬢様方はどうぞ前へお集まりくださーい」
花純の同期の美香子や美咲がキャアキャア言いながら前へ進み出る。フローリストの彩、そしてもちろん優香も前に出て来た。
そしてなぜか既婚者の寺田洋子までが前に並んでいる。
洋子曰く、
「私がキャッチしたら優香さんにあげるのよ!」
という事らしい。
準備が整ったところで司会者が花純に合図を送った。
「では新婦様どうぞ―!」
その声を合図に花純は「エイッ!」と後ろへ思い切りブーケを投げた。
花純の投げたブーケは大きく弧を描くように舞い上がると、女性達の上を飛び越えてさらに奥へと飛んで行く。
そしてひらひらと落ちて来たブーケをガッチリした手が掴んだ。
なんとブーケをキャッチしたのは優斗だった。
それを見た壮馬が笑いながら、
「次はお前の番だー!」
と大声で叫んだので驚いた顔をしていた優斗は急に恥ずかしそうに苦笑いをした。
そして右手でブーケを高く持ち上げると、
「あざーっす!」
と言った。
ブーケをキャッチ出来なかった女性陣はあからさまにがっかりした様子でその場を後にする。
もちろん優香もふてくされた顔で優斗の傍へ来た。
「なんであんたが受け取るのよーまったくもう」
ご機嫌斜めな優香は一言だけ言い残すとくるりと踵を返して次の披露宴会場へ向かおうとした。
その時優斗が優香の腕を掴んで引き寄せる。そしてブーケを優香に渡した。
びっくりした優香は、
「え? くれるの?」
「ああ、欲しかったんだろう?」
「えー、ありがとう」
優香は急にニコニコとご機嫌になる。
そして言った。
「でもさぁ、このブーケを作ったのは私なんだけれどねー」
優香はそう言って舌をペロッと出した。その瞬間優斗は優香を抱き締めた。
「ちょっ、ちょっと優斗…お花が潰れちゃうわ」
しかしそんな事は気にしないといった様子で優斗は更に強く抱き締める。
二人が抱き合う様子を微笑んで見つめながら参列者達は次の披露宴会場へ移動していった。
その時遠くから二人を見つめていた壮馬と花純は目を見合わせて言った。
「近々もう一度結婚式があるかもな」
「うん、楽しみ!」
二人はニッコリ微笑み合うと手を繋いで披露宴会場へ向かった。
結婚式を終えた空中庭園にはスタッフが入り後片付けを始めた。
それと同時に一般客がちらほらと訪れる。
小さな子供を連れた家族連れやカップルが赤や黄色に染まりつつある木々を眺めながら深まりゆく秋を堪能していた。
空中庭園は素晴らしい季節を迎えていた。
そしてあと一ヶ月もすれば華やかなクリスマスイルミネーションの季節を迎える。
<了>
コメント
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瑠璃マリコ先生🎉 最優秀賞🏆 おめでとうございます㊗️ 🎉🎉🎊🎊💐 ハッピーエンドの作品 読む度に癒されて💐 います🌸
テノコン最優秀賞おめでとうございます!🎉 マウントリベンジも入賞されてすごい!! いつも素敵なお話ありがとうございます♡
あちらで私が初めて瑠璃マリさんに触れた作品でした😊 そこから瑠璃マリさんの世界にハマりました❣️ 今でも壮馬と佳純に会いに来てます🥰 大好きな2人です💕