テラーノベル
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モニターの中の奈緒は
背後で燃え盛る炎さえも自らのアクセサリーであるかのように
不敵に、そして神々しく微笑んでいた。
『健一さん。あなたが自ら膝をついたということは、ようやく自分の正体を認めたということね。…さあ、最後の仕上げよ。……蓮、用意してある「鍵」を使いなさい。……三人で、誰にも邪魔されない場所へ行くのよ』
「……鍵?」
健一が呆然と呟くと、蓮は事も無げに
自分の首にかけられていたペンダントの中から、小さな銀色の鍵を取り出した。
それは、奈緒がかつて
「いつか、本当の自由が欲しくなったら使いなさい」と蓮に預けていた、ある貸金庫の鍵だった。
◆◇◆◇
深夜
蓮の運転──
といっても、自動運転機能のついた高級車を蓮がタブレットで操作しているだけなのだが
その車は、都会の喧騒を離れ、人跡稀な海岸線へと向かっていた。
「ねえ、パパ。おばあちゃんが言ってた場所、もうすぐだよ」
助手席に座る健一の頭には、今も「犬の耳」が乗せられたまま。
彼はもはや
自分自身の意志でそれを外すことすら忘れてしまったかのように、虚ろな目で窓の外を流れる闇を見つめていた。
到着したのは、断崖絶壁に建つ、古びた別荘。
そこは、奈緒が健一と出会うずっと前
彼女の「不倫相手だった父親」が、彼女と母親を隠すために使っていた、呪われた始まりの場所だった。
別荘の中には、大量のガソリンと、そして――
奈緒がこれまでに稼ぎ出した「ナオミ」の全収益を現金化した、山のような札束が積み上げられていた。
「……これ、を……どうするんだ、蓮」
「燃やすんだよ、パパ。……ママが言ってた。お金も、過去も、名前も、全部燃やして灰にしたら『私たちは本当の家族』になれる』って」
蓮は無邪気に札束の一つを手に取り、それを暖炉の火へと投げ込んだ。
一万円札が炎に巻かれ、黒い灰となって消えていく。
「パパも手伝って。……これが、最後のお掃除だよ」
健一は、震える手でお札の束を掴んだ。
自分の人生を、誇りを、魂を切り売りして得た、汚れた金。それを自らの手で灰にする。
その時、健一のスマホに一斉に通知が届いた。
ナオミのアカウントが、自動的に「最後のライブ配信」を開始したのだ。
タイトルは『ナオミ、完結:さようなら、汚れた世界』
画面の向こうでは、数千万人の観客が
一億円を超える現金が次々と炎に投げ込まれる狂気の光景を、息を呑んで見守っていた。
「…ああ、奈緒。…奈緒の言う通りだ。……これで、やっと、地獄から解放されるんだ……っ」
健一は、泣きながら笑った。
炎の熱気が室内を満たし、蓮の瞳が黄金色に輝く。
二人の背後で、ガソリンの入ったポリタンクの蓋が、蓮の手によってゆっくりと開けられた。
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