テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
数か月前から、あるラジオ番組で一緒にお仕事をしている夏貴さんが、最近とってもきれいになった。いや、初めて顔を合わせた時から、可愛いお姉さんだなと思っていたけれど、そこにキラキラ感が上乗せされたような、そんな感じなのだ。
次の電話待ちの今、私は真正面に座る彼女をじっと見つめた。短絡的かもしれないけれど、思ってしまう。
もしかして彼氏でもできたのかな――。
電話を終えた夏貴さんは、聞き取った内容を受付票にメモし始めた。書き終えて顔を上げたところで私の視線に気がついて、小首を傾げる。
「梨乃ちゃん、どうかした?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「ふぅん?」
不思議そうに瞬きをし、彼女は書いたメモを机の端のボックスに入れた。そこに受付票をまとめておくのだ。
曲が流れ始めたところで、番組ディレクターの辻さんが私たちの元へやって来た。
「今日は結構多いね」
ボックスの中身を取り出し、ぱらぱらとめくる。
「ここから二曲、選ぶか。これと、この曲にしようかな」
彼は受付票の中から二枚を抜き出し、他のものは別のボックスの中に入れた。捨てるのではなく、一定期間保管しておくらしい。
「番組終わりまで一時間切ったか。二人とも最後まで頼むね」
彼は言いながら、夏貴さんの肩にぽんと手を置いた。
二人は同じ大学の同じサークル出身者。だから親しいということは知っている。けれど、どうしてだろう。急にもやっとした気持ちになる。
自分でもよく分からない気分のままスタジオ側に目をやって、気づく。パーソナリティの矢嶋さんが不愉快そうな顔つきでこちらを見ていた。たどったその視線の先には、辻さんと夏貴さんがいる。
矢嶋さん、もしかして?
三人の関係性を想像して、どきどきともやもやで落ち着かなくなった。
***
番組が終わった。
技術さんはいつものように早々と出て行き、辻さんはスタジオの方で矢嶋さんと話をしている。
「辻さんたちに声をかけて、私たちは出ようか」
帰り支度を終えた私に、夏貴さんがにこりと笑いかける。
その時、彼女の耳元で何かが光った。
「夏貴さん、それってピアスですか?髪に隠れてたから気づきませんでしたけど」
「あぁ、うん。ちょっとね」
指先で耳たぶにそっと触れながら、彼女は照れたように言う。微笑ましく見えるその様子に、からかいたくなってしまった。
「もしかしてプレゼントですか?」
にやにやする私に、夏貴さんはただ曖昧に笑っただけだった。
彼女の表情に、自分の最初の予想が正しかったことを確信する。
やっぱりね。だからこんなにキラキラしてるんだよね。どんな人なんだろう。矢嶋さんは知ってるのかな。明らかに夏貴さんのこと、気になってるよね。それにしても、幸せそうでいいなぁ……。
彼女を羨ましく思った次の瞬間、心の声がするりと口から出てしまった。
「私も恋したいなぁ」
夏貴さんが目をぱちくりと瞬かせ、くすっと笑う。
「梨乃ちゃんなら、すぐにも素敵な彼氏ができそうだけど。いいなって思う人、身近にいないの?」
「身近に、ですか?どうだろう……」
自分の周りの人たちの顔を思い出してみようとして、真っ先に浮かんだ人物に焦る。
いやいやいや、そんな訳ないし。さっきのもやもやした気持ちだって、そういう意味のものじゃないから――。
頭の中からその人の顔を消そうとしながらも、私の目はスタジオに向く。真剣な様子で矢嶋さんと話している辻さんの横顔にどきりとした。
(了)
#独占欲