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【お水を下さい】
「お水を下さい」
そう聞こえたのは、幾つか前の話で滝の親子の件を解決した翌日だった。
今までも浮遊霊が成仏させてくれという縋り方をしてきたことはあった。
しかしやり方も分からず、夫から教えてもらったのは、近寄ってきたのを「うるさい!」とぶっ飛ばす方法のみ。
これまではS兄達が縋ってきた霊に「コイツは何も出来ないから他を当たれ」と言って追い返したり、あまりにもしつこい場合はぶっ飛ばしていたらしい。
あまりの塩対応に、しばらくはただの力のない浮遊霊が来ることはあまりなかったのだが、滝の親子を上に送ったことで、向こうで「あそこに行けば助けてくれる」みたいな噂が立ってしまったらしい。
夫や守護達は「あーあ」と溜息を吐いている。私はそんなん知らないもん。
上に送ると言ってもかなり広く、所謂天国と呼ばれる場所は1箇所らしい。
そこにピンポイントに送らないと大変なことになるので、霊能者がよく上からの使いを降ろすのは、ピンポイントに送り届ける為らしい。
その工程をかっ飛ばして滝の親子をピンポイントに天国へ届けてしまったようで、余計な噂が立ったそうだ。
滝の親子の成仏を手伝った翌日、私は偶然だろうが胃腸炎で寝込んだ。かなり重症で点滴もして、やっと帰宅した矢先。
「お水を下さい」
足首を掴む、熱い感覚があった。
病院で変なのを拾ったか?と一瞬嫌な予感がして足元に視線を落とすと、真っ黒に焦げた手が足首を掴んでいた。
床を這うようにして焼けた女が苦しそうに呟く。
「熱いんです。水が欲しい、水が」
普段ならそのまま金縛りや首を絞められるなどの危害があるので消し炭にして終わるのだが、この霊は足を掴んで縋るだけで何も危害がない。
しかし私も体調が悪い。「ひとまず少し回復するまで待ってくれ」と伝えると、手が離れた。
ずっと近くに気配はあったが、特に害もなく1日を終える頃、寝る前に再び足首に熱い感触があった。
「お水を下さい」
そういえばそうだ、忘れていた。
ちゃんと待っていてくれたのだから、これはそれ相応に対応しないといけないと思い、コップに水を汲んで仏壇に備える。
焼け焦げた女にしっかり座標を合わせる感じで水を贈る。
それを見届けた夫が「今日は上に迎えを頼もう。ただし、毎回成仏の手伝いなんてしてたらこっちがもたないからね。上に頼む時って持っていかれるし」と言いながら、上に使いを頼んでいた。
持っていかれる、というのは、生命力的なものらしい。別に悪いことをしている訳ではないので、罰則で霊力が奪われるとかそういう意味ではないが、生命力を対価に成仏を手伝う感じになるらしいので、当然後日具合が悪くなる。
修行を積んだ人ならもしかしたら対価も少なく済むかもしれないが、私や夫は素人だ。独学状態で試行錯誤しているので、対価がそれなりに大きいのかもしれない。
実際に滝の親子の手伝いをした翌日に寝込んでいるので、何かと持っていかれるのは間違いないのだろう。
でも霊からしたら他人事なので、遠慮なく頼みに来る。こちらからしたら霊の未練こそ他人事なんだが。
【大叔母の話】
これは私の祖母の妹、つまり大叔母から聞いた話だ。
彼女は看護師で、仕事柄数々の人の死を見てきた人だ。
病院での勤務中に起きる不可解な出来事に慣れているようで、本人も霊感が強く見聞き可能だがあまり驚くことはないらしい。
ある時、仕事から帰ってきて自宅の仏壇の前でお経を唱えていると、足元から「ううぅ…」と男の呻き声が聞こえた。
大叔母は1人暮らしで、家には誰もいない。
一瞬驚いて足元を見下ろせば、骸が這うような姿勢で大叔母を見上げていた。
「助けて」と言っているような気がして、大叔母は這い上がってくる骸を小さく手折った。
お経を唱えながら、早く成仏できるよう祈り、ゆっくり丁寧に折っていく。2時間くらいかかったそうだ。
やがて頭蓋骨部分だけになり、最後に一言「もう大丈夫」と声を掛けて頭を撫でると、ほっとしたような空気で骸は消えたという。
大叔母の対応はきっと正しい成仏の手伝い方だったのだろう。
看護師を辞めた今でも、大叔母の元には定期的に助けを求める霊が来るそうだ。その度に、大叔母は霊に対して心を込めて成仏できるよう祈ってあげるのだという。