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これは高校の宿泊研修での話。


私の入学した高校での宿泊研修は、山林に囲まれたとある宿泊施設に泊まるのが伝統だった。


その場所は地元から少し離れた位置にあり、到着してバスから降りると、なんだか周囲の山林から多くの視線を感じた。


自然の多い場所には、何故か霊も沢山集まってくる。近くにいる訳ではないが、気配が多いと内心察したのを覚えている。


正直修学旅行と違って、決まったレクレーションや野外授業を受けるだけなので、細かいところはあんまり記憶にない。


ただどうしても忘れられないのが、班の皆と泊まった夜の話である。


高校に入学して間もない時期で、中学から一緒だった女子は2人しかいなかった。クラスもバラバラで、私は馴染みのない新たな友人と班になった。


私の班は4人だったが、他の班の女子が集まって合計8人で部屋の中で恋愛話やらトランプをして盛り上がった。


風呂なども済ませて、自由行動を満喫していると、ある1人の女子が急に「怖い話しない?」と、お泊まり定番の話題を振ってきた。


消灯時間まであまり時間もないので、皆各々に1つずつ聞いた話や体験談を語ろうという流れになった。


1人、2人と見聞きした怪談話を簡潔に終えて、私の番になる。確かその時は、過去に友人と一緒に体験した奇妙な怪談話をしたと思う。


怖い話を語ると、大体その辺の浮遊霊が寄り集まる。なので私は視えていることを伏せて、心霊ではあるが軽めの内容であまり多く霊が寄り付かなさそうな話を選んだ。


それでも雰囲気のせいなのか場所のせいなのか、山林に立っていた浮遊霊が窓辺から覗き込み、数体は部屋に入ってきた。もちろんその時は言わず、友人達には黙っていた。


4人目の友人がかなり怖い心霊話を語り終えた頃、誰かが「なんか寒くなってきた」と怖がる素振りをした。実際に、室温が僅かに下がっていたと思う。


4人目の友人が語り終えた時、私達を取り囲むように浮遊霊が集まっていた。


せっかく先程控えたのに。私は目を合わせないように注意しつつ、次の人の話を待った。


5人目、6人目の話が終わり、7人目。彼女はクラスの中でも美人で陽キャの分類だった。男女問わず人気があったが、私は彼女がなんだか苦手だった。


もしかしたら、彼女の背後に憑く背の高い赤いコートを着た女の存在感が強くて、なんとなく嫌だったのかもしれない。


以下、彼女を涼(すず)ちゃんと呼ぶ。


涼ちゃんは別の班から混ざってきた子で、怪談話が好きなのか、浮き足立った様子で「実は私、霊感があるんだけど」という一言発した。


私があえて言わなかったその一言に、皆が顔を見合わせて興味津々といった表情で涼ちゃんの話に注目する。


十分惹き付けたところで、涼ちゃんは自分の家族の話を始めた。


涼ちゃんには2歳上の兄がいるそうで、どうも彼女と正反対の陰キャだそうだ。昼夜逆転の引きこもり状態で、数年まともに家の中でも顔を合わせないのだとか。


ただ、その兄の様子が最近どうもおかしい。涼ちゃんは兄と隣り合わせの部屋なのだが、22時頃になると隣の部屋から低い女の声が聞こえるという。


女の子を連れ込んだのかと思って涼ちゃんは思い切って兄の部屋のドアを開けて隙間から覗いてみたのだが、そこには兄が1人でヘッドホンを耳に当ててゲームに勤しんでいるだけだったそうだ。


その日を境に、ずっと兄の部屋から22時頃になると低い女の声でボソボソと何かを喋っているのが聞こえるようになった。なんて言っているのかまでは聞き取れないが、兄に向かって話しかけているようにも感じる。


「それが最近ずっと続いていて怖いんだよね~」と、元のテンションの高さ故かあまり怖そうな声質ではない明るい雰囲気で言う。


他の女子は皆「えー!めっちゃホラーじゃん」などと怖がる中、突然空気がドンと重くなった。


明らかに先程より周囲の霊が増えている。そしておかしなことに、全員涼ちゃんを凝視している。


しかし、涼ちゃんは全く感じ取っていないのか「引きこもりの兄もキモい」などと茶化していたが、周囲の霊達は半ば睨むような目で涼ちゃんを凝視し、涼ちゃんが「兄がね……」と更に続けようとした時、急に背後の赤いコートの女が涼ちゃんを指さした。


そして大きな野太い声で「 嘘 つ き 」とハッキリ言った。一瞬、空気が震えた。


その瞬間、私の隣にいた班の子が「待って、誰かなんか言った?」と言って涼ちゃんの発言を制した。


全員黙り込み各々の顔を見合わせる中、指さした赤いコートの霊は大きく口を開けて気味の悪い笑い声を出し始めた。


「嘘つき!嘘つき!嘘つき!」


壊れた機械のように一定の声音で笑いながら涼ちゃんを指さす。つられるようにして、周囲の霊達も笑い声を上げ始めた。


その笑い声は皆に聞こえていなかったのか、誰も指摘しない。


ケタケタ笑う赤いコートの霊は、涼ちゃんの顔の目の前にしゃがむと、突然笑うのをやめて「兄なんていないくせに」と低い恨みの籠ったような声で一言呟いた。


私は絶対に聞いたらいけない台詞だと思って、「ごめんちょっとトイレ行く」と適当に理由をつけてなるべく自然にその場を去った。


去り際、その霊が更に「嘘で人気者になったくせに」と笑いながら言ったのが聞こえた。ぞわっと背筋が寒くなった。


普段からなんとなく避けていたので、その後も涼ちゃんとの接点はあまりなかったが、後に涼ちゃんに兄などいないことが明らかになった。


涼ちゃんは地元の出身ではなかったので、高校に知り合いがいなかったから何でもありだと思ってついた嘘だったそうだ。


それでも他人を傷付ける内容の嘘は言わなかったこと、それから本人の持ち前の明るさが幸いして、クラスの皆から省かれるようなことはなかった。


しかし、あの宿泊研修以来ずっと涼ちゃんの背後には赤いコートの霊の他に、部屋にいた霊が全員憑いた状態だった。


そして彼女を遠巻きに見ていて分かったのは、彼女がひとつ嘘を重ねる度に背後の赤いコートの女が笑い、笑う度に吸い寄せられる霊が1人、また1人と増えていることだった。


学年が上がる頃、涼ちゃんは学校をよく休むようになった。相変わらず性格の明るさからか友達は多かったので、居場所はあった様子だったが、やがて半年ほど顔を出さなくなった頃に転校したと先生から聞かされた。


どうも、体調不良で起き上がれなくなったらしい。


それはそうだろうと思った。最後に校内ですれ違った時、既に200体くらいの浮遊霊が黒い霧のような外見になってまとわりついていた。


うちの守護達のように守っている様子は一切なく、赤いコートの女を筆頭に、調子が悪くなる涼ちゃんを常に嘲笑っていた。


そのことがきっかけで、私も「私霊感があるんだよね」と他言する時は、寄ってきても良い覚悟ができてからするべきだなと学んだ。


視える人というのは、霊からすると縋る対象にもなる。霊感があると公言すれば、霊にとっては助け舟を出したのと同じなのだろう。


それが後から嘘でしたと言えば、霊からすると酷く滑稽で時間を返せと思うのかもしれない。


もちろん霊感というのは年がら年中100%発揮される訳ではなく、体調やその時のコンディションによって変わる。


視えにくい時期は素直にそう言った方が、身を守れるのかもしれないなと思った出来事だった。




これを執筆しながらふと、当時なんだか違和感があったのを思い出した。


架空の兄の話を聞いた時、涼ちゃんは確かに「低い女の声」を聞くと言っていた。


赤いコートの女もかなり声が低かった。そして女が喋っていたのは就寝時間の22時前。


真相は分からずじまいだが、もしかしたら涼ちゃんは聞き取れる霊感の持ち主で、兄の存在こそ嘘だとしても本当に家では22時頃になると赤いコートの女の声が聞こえていたのではないか……?


いつか涼ちゃんに再開する機会があれば、事の真相を聞いてみたいものである。



私が死に呼ばれるまで。

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