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流石に、正門を使うのはためらわれるのか、琵琶法師は、西門から、現れる。
「上野様は、西門でお出迎えしてください」
「だ、だがのぉ、晴康《はるやす》殿よ。声は、男で、姿は、女房とは、まずくござらんか?今から、何か、男物に着替えた方が、よいのではなかろうか」
「ふふふ、そのままが、よろしいのですよ」
「よろしい、と、言われてもじゃなぁ」
また、うっかり、喋ってしまったと、息を飲む上野は、べそをかきかけていた。
「上野様、そうお気になさるな。結構、その声、似合っておりますから」
「なんじゃとっ!!」
晴康のからかいに、上野は、再び声を挙げたが、自分が発したものに恥ずかしくなり、ついに、袖で顔を覆ってしまう。
「おや、愛らしいお姿」
どこか、呑気な晴康を恨みがら、上野は思う。
どうせ、晴康は、術を解こうとはしないだろう。このからかい具合は、そうだ。
では、これから、男物の衣装を用意するか?しかし、下手すれば屋敷の他の者に、怪しまれてしまう。そして、この声の調子が、バレてしまえば、ここぞとばかりに、笑い話のネタになるだろう。
そもそも琵琶法師は、盲目──。
上野の姿を、その目で捉える事はできない。ならば、女房の装束を纏う上野の出で立ちを黙ってさえいれば、琵琶法師には、誰か下男の出迎えとしかわからない。
いや……。
盲目なのに。
なぜ、晴康は、上野をわざわざ男の声に……。
「!!」
慌てて、晴康を見入る上野へ、
「お静かに。さあ、西門へ向かいましょう」
晴康の目付きは、険しいものに変わっていた。