コツコツと、行く先を探る音がする。
琵琶法師がやって来たようだ。
目の代わりとなる、杖を器用に操りながら現れた男は、確かに、女房達の視線を釘付けにするほど、容姿は整っている。
三十路手前だろう盲人は、誰か、側仕えがいるのか、皺ひとつない衣に身を包み、一目で分かる程、手入れの行き届いた琵琶を背に結わえていた。そして、我が屋敷に戻って来たかの様に、悠々と、西門を潜ってくれた。
予め、門の扉は開かれていると、分かっていたのだろう。惑うことなく、杖の助けを借りる訳でもなく、足を踏み入れて来たのだ。
そもそも、正門ではない、西門、であるとはいえ、市井に住む身分の者が、気安く使えるものではない。
それを、我が物顔で利用するような態度は、出迎えの為に門の脇で控えている上野を不快にさせていた。
「さぁ」
と、上野を急かす小さな声。
晴康《はるやす》は、植わる低木の茂みに隠れ、上野へ指示を送っている。
また、自分の口から、髭モジャの声が流れると思うと、上野は、気が重かったが、ここで、案内がいないと、琵琶法師に騒がれては、もっと、厄介なごとになる。よしっ、と、心を決めて、上野は、動いた。
「これは、これは、お師匠様、ようおいでくださりました。それがしが、案内いたします。ささ、足元にお気をつけて……」
「おや?常春《つねはる》殿では、ないのですか?」
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