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会社に着いた俺は、パソコンを立ち上げた。いつも通りのソフトを使っていつも通りの仕事をする、ただそれだけだ。それだけのはずだ。しかし__
自分で言うのもなんだが今日はやたらと仕事の進みが遅い気がする。マニュアルさえあればすぐに動けるはずの俺が、操作一つに手間取っている。同僚や上司の視線がチクチクと刺さった。少し痛い。これもあの肖像画のせいだろう、区切りがついたら休憩して気分をリセットすればいい。
出勤直後の流れ作業が終わったところで、俺は休憩室に向かった。俺のオフィスの休憩室は給湯室とセットになっていて、温かい茶やコーヒーがすぐに飲める。コーヒーは今朝飲んだから茶にしようか、茶葉の種類はどうしようか、頭の考えがぐるぐると巡ってしまう。俺は飲み物は結局何も準備せずにソファへと沈んだ。
そういえばイタリアにしか電話してなかったな、フランスはどうだろう。ああ、しかもイタリア以外の国がやったかもしれないじゃないか。俺はほんとうにどうかしている。
有給が溜まっているし明日は休んでゆっくり考えようかと思ったその瞬間、俺のスマホが鳴った。発信元はポーランド。テキストメッセージアプリの通話機能を使ってかけてきたようだ。
「ね、ねえニエムツィ。今すぐ帰ってこられる?」
「突然どうした、今は仕事中だ」
「え、えっと、仕事より大変なことが起きてるの。顔が長方形の知らないやつが、ニエムツィの家で暴れてて……」
その瞬間、俺は顔から血の気が引いていくのを感じた。わかった、身の安全を確保していてくれ、とポーランドに伝えて電話を切り、俺は走って帰宅した。
俺は家に着いた時、正確には家のあった場所に着いた時にはもう、周辺がぐちゃぐちゃになっていた。俺は慌てて例の長方形の奴を探した。奴の身長は俺より少し高いくらい。日本と同じくらいだろうか。だがポーランドやベネルクス、デンマークの方向に、ブンブンと槍斧を振り回している。
「大丈夫よ、お母さんがついているよ、」
北の方角からか細い声が聞こえた。デンマークのものだろう。恐怖に震えるノルウェーと一緒にいるようだった。だがそんな彼女らにも奴__ライヒタングル《長方形の帝国》と言うべきだろうか、は容赦ない。
ついにはライヒタングルの槍斧はデンマークの暮らしている小さな家に突き刺さる。そのまま家はバラバラと崩れ落ちてしまった。
「危ないッ__!」
俺は咄嗟に走り出して二国を抱えた。なんとか直撃は免れたものの、槍斧が服に掠れて破れかかった。
「おい、じいさんだろ? 俺のことわかんないのか?」
俺はライヒタングルをまっすぐと見上げて言った。すると奴は顔をゆっくりとこちらに向けた。
「俺はお前の先祖では無い。未来から来たお前だ」
ライヒタングルはそのまま容赦無く、俺に槍斧を振り下ろそうとしてくる。せめてデンマークとノルウェーだけは、と思い彼女たちを庇い、死を覚悟した、その瞬間だった。
「お待たせいたしました!」