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〈城の上空 サクラ SIDE 10:05〉
私は巨大な黒竜・辰夫の背から、
眼下の王城を見下ろしていた。
怒りと請求書だけが、今の私の翼だ。
「高いところって、気持ちいいよねぇ?」
私は大きく、ふわっと息を吸い込んで──
「王様ぁ!聞こえる?
今日ぉは!私の愉快なお友達を連れてきましたぁ!!」
「……軍勢を、ってことか!?」
城壁の向こうから、
マメツブみたいに小さな王の怒鳴り声が聞こえた。
「ううん! 違うの! これは──」
私は空に向かって、両腕を大きく広げた。
「”私の恨みを晴らし隊のみんな”なの!!
どいつもこいつも私の怒りを一緒に背負ってくれる──
素敵な、加害者たち!!」
『天の声:魔王軍も被害者だろ。』
天の声が何か言ってるけど無視無視。
「は……?」
窓から身を乗り出している王が、思わず間抜けな声を漏らした。
冗談じゃない。こっちはどこまでも本気だ。
「聞いてよ!まずはさぁ!
ギルドが壊されたの!ユリ様が暴れてね!!」
城の窓辺に立つユリシアが、びくりと肩を揺らした。
何かを言いかけて、気まずそうに下を向く。
「その請求書が、3265万リフル!!
しかも私宛て!!なにそれ!?意味わかんなくない!?」
『天の声:お前も壊してたから請求されて当然だろ。』
「それは……いや、その……ユリシア……?」
王がユリシアに震える声で視線を向ける。
ユリシアも震えていた。
私は眼下に向かって、一拍置いてから言い放つ。
「──請求書が来ました。送り主は”現実”でした」
空気が、静かになる。
「私はギルドを壊していません。
……壊したのは──不条理です」
もう一拍。
「この世が私を”請求対象”とした瞬間、私の心は死にました」
そして──
「もういい……
世界ごと燃やすわ……その3265万で!!!!
まずはお前の王冠を買い取ってやんよォォォォォ!!!!」
私は叫んでから笑った。目は一切笑っていない。
「ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」
ピタリ。と、私は笑うのをやめた。
代わりに、声が震え始める。
「……ふ、ふふ……ふざけるなよ……。
こっちはさぁ、黙って引き下がってやろうと思ってたんだよ……!」
『天の声:交戦する気満々で、ユリシアを煽ってました。』
その瞬間、私の頬を何かが伝った。
それは──涙。
「でもさぁ……ッ!」
目の奥が熱い。
「”ラウワ王の命令で行った”って言われてさぁ……!
私、”魔物だから”って全部押しつけられてさぁ……!
いきなり斬りかかってきてさぁ……!」
『天の声:先制攻撃したのはお前だ、サクラ。』
私は心の底から叫んだ。
「ふざけんなよあァァァァァァッ!!!!」
──一方、その頃の地上。
鍋、盾、街路の鉄板──。
叩けそうな金属を手当たり次第に打ち鳴らしながら、モンスターたちが騒がしく行進してきていた。
その騒音たるや、もう軍隊というより”音の暴動”だった。
カン! ガン! バッコォォン!(鍋が割れる音)
「定時で帰れる魔王軍最高ー!!」
「飯が出るって聞いたー!!」
「交通費ちゃんと出るって聞いたー!!」
「予防接種打たなくて良いってマジー!?」
〈王都・玉座 王 SIDE 10:12〉
玉座の間では、王が呆然と立ち尽くしていた。
「こ、これは一体……なにが起こっている……」
「陛下……これは、債権回収です」
側近のバルドスが、いつになく落ち着いた声で答えた。
本人もすでに何かを諦めた顔をしている。
「戦争じゃ……ないのか……?」
「請求書の口火を切った……
世界初の”訴訟型侵攻”でございます……」
「いやいやいやいやいやッ!!!」
王が玉座を蹴って立ち上がり、そのまま猛ダッシュで窓際へと駆け出した。
〈城の上空 サクラ SIDE 10:15〉
城の大きな窓から身を乗り出した王が、天を仰いで大声で叫んできた。
「じゃあ戦じゃなくて……裁判では……どうだ!?」
「そんな正規の手順なんてどうでもいいんだよォォォ!」
私は上空から怒鳴り返した。
「もう滅ぼさないと気が済まないんだよォォォ!!
全部壊すって決めたんだよォォォ!!!
燃え盛る炎で凍った心の暖を取るんだよぉおおおォォォ!!!」
眼下で、王の顔が青ざめていくのがハッキリと分かった。
──私は最後の宣告を放つ。
「だから私は来た!!
泣きながら!!
怒りながら!!
請求書を破って!!
王都とお前のクビでチャラにしてやりに来たんだよォォォ!!」
一息ついて、続ける。
「住民の避難も呼びかけたし! あとは燃やすだけでしょ!?
良心的だよね!? ねぇッ!? ねぇッ!?」
声が、また震え始める。
「なあ王様ァァァ!? なんで私がッ!!
泣きながら請求書と睨めっこしてッ!!!
財布の中身と残高計算してッッッ!!!!」
喉の奥が熱い。
「……こちとらな、限界まで我慢したんだよ……!!
だけどさぁ? “あと何回ご飯を我慢する”とか”モヤシいくらだっけ?”とか考えてたら殺意しか沸かなくてさぁあああああ!?」
「……あ。全部燃やそ?……って。」
『天の声:親領主のジルの家で3食昼寝付きだっただろ。』
ぐるん。
──私の瞳が、白目になった。
ぷつん……!
何かが切れる音が、──世界に響き渡った。
「あああああああ”◯▲◇†☆◆#$%&$$%☆ッッ!!!」
「ぐぉおおおお”◎†%¥+▲£ッ!!!!」
「きゃあああ€~×&*◇◎@$☆あああッッッ!!!!!!」
私は髪をかきむしりながら、辰夫の背でのたうち回った。
『天の声:とうとう言語じゃなくなったぞ!?』
辰美の背中で、エスト様が「お姉ちゃん……怖い……」と、
引き気味にこちらを見ていた。
足元の辰夫は「これはもう理屈ではない……」と、
遠い目をしている。
辰美だけが「狂ったサクラさんも好き」と、
目を輝かせていた。
「──もういい!!!」
私は叫んだ。
「知らねぇ!!!!!
灰にしてやるわああああああああああ!!!!!」
辰夫の背で仁王立ちし、右手を高く掲げる。
「ムダ様も言ってたのよ……
『借金が10万円なら自分の問題だ。
だが、借金が100万を超えたら、
それはもう俺を怒らせた世界の問題だ。』
ってね……」
「ムダ様出てきた。もう止まりませんな……」
戦慄する辰夫。
空気がピリついた。
モンスターたちが、地上で一斉に息を止める。
「辰夫、いけ」
満面の笑みで言った。
「……ほんとにやるんですか……」
「辰夫、いけ」
満面の笑みに陰り。
「……いやしかし……」
「ねぇ辰夫ぉ?お前の鱗って何枚あるんだろうね?
1枚1枚剥がしながら数えたいから降りて?」
これも満面の笑みで言った。
「任せてください! すぐにいきます!!」
ゴゥゥゥォォォンッッ!!!!
黒き竜の咆哮が天を突き、空が震えた。
「ちょっと待てええええええええ!!!」
王の叫びが城に響く。もう遅い。
「──魔王軍、進軍開始ッ!!!」
──王都上空を、火の粉が舞う。
街の外れから、小さく火の手が上がった。
合図を受けた者たちが、次々と鬨の声を上げる。
空からは怒れる翼竜軍。
地からは”リズムにノってる魔物たち”。
住民の避難誘導をするアンデット。
荷物を持ってあげるオーク。
お年寄りをおんぶする悪魔。
子供をあやすスライム。
まさかの理由で始まった”征服戦争”。
そのきっかけは──たった一枚の請求書だった──。
*
──その直前。
地上のモンスターたちが──一瞬、ざわついた。
「……あの、やっちゃっていいんすか?」
「いや、支配しに来たんじゃ……?」
「ってかこのあと住む予定なんじゃ……?」
なにか聞こえたけど、うるせー。知らない。些事だ。
「終わったあとで!!
魔王軍が!! お前たちが!!
徹夜してでもちゃんと建て直せばさあああ!!!
いいよねぇええええええええええッ!?!?」
一瞬の静寂。
「「「ええ!? ブラック企業じゃね!?」」」
『天の声:お前ら、気づくの遅くね? サクラだぞ?』
「はい黙れ!
これが魔王軍だッ!!
文句ある奴ァ……ここでちょっと殺し合いをしてもらいます」
私は右肩をクイックイッとやりながら言った。
「「「ハイィィィィィィィィィ!!!!」」」
火の手が上がった。
ノリと勢いと押し切りで、侵攻開始である。
──これは戦争じゃない。”感情”だ。
請求書に泣かされた女の、怒りの弁明──。
「街を建て直す金?
王に出させろやぁあああああああ!!!!!」
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『借金が10万円なら自分の問題だ。
だが、借金が100万を超えたら、
それはもう俺を怒らせた世界の問題だ。』
解説:
俺は一回、クレカのリボ払いが限界突破して、
とんでもない額の請求書が届いた。
その時、俺は悟ったね。
「こんな額、俺一人で背負えるわけがない。
つまりこれは俺の責任じゃない。
資本主義のバグだ」と。
だから俺はカード会社に電話して、
「一緒にこの狂った資本主義をぶっ壊しませんか?」と、
熱く勧誘した。
担当者は「……お気持ちは分かります」と少し泣いていた。
あの時の彼も、きっとブラック企業で働いていたんだと思う。
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