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ゴォォォォォン……!
辰夫が空を切り裂く咆哮を放ち、天に黒煙が舞う。
その合図に呼応するように──地上が、”動いた”。
「進めええええええええ!!!」
私は辰夫の背から、眼下に向けて叫んだ。
「──魔王軍、進軍開始ッ!!!」
その号令が空に響いた瞬間──
王都の外縁が、咆哮と金属音で震え始めた。
「定時で帰れる魔王軍最高ーーーッ!!」
「全軍行進っ!!
サクラ様の気分が乗ってるうちに終わらせろぉぉ!!」
ズズズズズ……!!
地響きのような足音とともに、
魔物の軍勢が王都に向けて進軍を始める──。
*
◆ 最前列:リズム部隊
カン! ガン! カン! バッコン!!
鍋、盾、街灯の残骸──
ありとあらゆる”叩ける金属”をドラム代わりにした即興音楽隊。
明らかにテンポがバラバラだが、妙に一体感がある。
「カウント取れぇぇ!! 進軍ビートは120BPM固定だッ!!」
ゴブリンの隊長が、指揮棒代わりに骨を振り回しながら叫ぶ。
「隊長! 鍋が割れましたーッ!」
「予備鍋出せェェェ!! フライパンでも代用可!!!」
「そこの看板も叩け!! 音が出ればなんでも良い!!」
ガンガンガン! キンキンキン!
避難しながら振り返った住民たちが、足を止める。
「……なんか、楽しそう……?」
住民の一人が、首を傾げながら呟いた。
「侵略軍って、こんなにノリノリなの?」
隣の住民が同じく首を傾げた。
*
◆ 中段:福祉支援部隊(メイン部隊)
「こちら高齢者対応班! 移動補助、完了しましたァ!」
大柄なオークが、おばあさんを背負いながら報告する。
「子ども班も完了ッス! あやしてたら懐かれました!」
角の生えた悪魔が、泣いていた赤ん坊をあやしている。
赤ん坊はケラケラ笑っていた。
隣では、スライムがベビーベッドになっていた。
「スライムベッド最強だろ!」
「魔王軍カフェテリアポイント貯めて交換するわ」
「迷子保護班、迷子2名確保!」
「よーし! しっかりと親御さんに送り届けろよー!」
「おい、新人! もっと笑えよ! 子供が怖がるだろ! 顔の形変えてやろうか!?」
「ペット避難班、報告します! 猫15匹、犬8匹、インコ5羽、ハムスター、金魚、全員無事です!」
「よーし! 命は大事にしろよー!」
「次はゴミ拾いだぁーーーーーッ!」
「おい! ゴブリンのお前! 今何を捨てた!? 鞭打ちの刑だ!」
避難しながら振り返った住民たちが、
今度は足どころか動作まで止めた。
「えっと……これって侵略……?」
「違うだろ……これは……なんだ? 新しい公共サービス?」
「なんか……悪い人じゃないのかしら……」
「人じゃないけどね……」
*
◆ 後方:装備搬送部隊
「パジャマ姿の亡霊兵が混じってます!」
「いいんだ! 奴は夜勤明けでそのまま来てるんだ!!」
「……おはよーございまーす……」
ふわふわの亡霊が眠そうに手を振っている。
「寝てないのに戦争参加すんの?」
「夜勤明けなら明け休みを使えば良かったのに?」
「でも残業代出るし……」
亡霊がうっすら笑った。
*
◆ オーク遊撃部隊
「あの、その……ありがとうございます……」
八百屋のおじさんが、落とした野菜を拾ってくれたオークに頭を下げる。
「いえいえ! 重そうでしたから! あ、明日のゴミ出しもやっときましょうか?」
筋骨隆々のオークが優しく微笑んで、ついでに重い野菜箱まで運び始めた。
「おい、これで良いのか?」
「なんか……気持ち良いよな、感謝されるって」
「ああ……生きがいを感じる」
オークたちが顔を見合わせながら頷き合う。
避難しながら振り返った住民たちが、
今度は立ち止まって話し合い始めた。
「親切すぎない!?」
「侵略軍よね!? これ!?」
「避難する必要あるのこれ!?」
*
◆ 悪魔カウンセラー
「人生相談3件受けました」
悪魔のカウンセラーが、
手帳にメモを取りながら淡々と報告する。
「”悪魔に相談”って言葉があるけど、本当に相談されるとは……」
相棒の悪魔が、どこか感慨深そうに呟いた。
*
◆ 空中支援部隊:竜騎兵(辰美指揮)
ワイバーン部隊がアクロバット飛行で空に♡を描いていた。
「いけぇぇえ!! 火の輪くぐれ!!!」
辰美の号令で、空中に魔法の炎の輪が出現する。
「え、意味あるんですかそれ!?」
小型竜に乗った魔物が困惑した。
「無いけど! カッコいいだろ!!」
辰美が嬉しそうに答える。
炎の輪を潜る小型竜たち。
見た目は完全にサーカス。実態は空中散歩。
*
◆ サクラ、空から総覧
私は辰夫の背から、この光景を見下ろしていた。
「見てるか……王よ……これが私の”魔王軍”だ……!」
王城の窓から、青い顔をした王が覗いている。
「叩く奴もいれば、支える奴もいる。
荷物持つ奴もいれば、赤ん坊をあやす奴もいる」
魔物たちの行進は続く。
カオスな光景が眼前に広がっていた。
「……くくく……人間どもの……”ありがとう”とかさぁ?
”お疲れ様”とか……聞こえたぁ? エスト様? 辰夫?」
「うん!」
エスト様が元気よく答える。
「はい」
辰夫が静かに頷く。
「……この人間どもの断末魔がさぁ……
気持ち良いッ……あぁもう……“ありがとう”……最高……!」
私は肩を抱き、ぷるぷると震えながら、ひとりで身悶えた。
「断末魔……?」
エスト様が首を傾げる。
「エスト殿。聞こえないフリした方が良いですぞ……」
辰夫が静かに、しかし確実に忠告した。
『天の声:断末魔の定義がバカすぎる。なんだよ”ありがとう”が絶叫って。』
「……これが魔王軍の力……私の力……ふふふ……」
私の声が、大きく震える。
「お姉ちゃん! 魔王は私なんだからねー!?」
隣にいた小娘が私の袖を引っ張りながら言った。
「……」
私は無視した。
「お姉ちゃん! 聞いてるの? お姉ちゃん!」
「……」
引き続き無視した。
(……ラウワ王……忘れてないから。私を泣かせたこと)
「お姉ちゃんー!?」
エスト様の声が遠ざかる。
私の目は、王城の窓だけを見ていた。
(つづく)
◇◇◇
次回:#062「福祉活動してたら正義にブチギレられたで御座る」(仮)
お楽しみに!?(作者の気分でタイトルはコロコロ変わります)
◇◇◇
【魔王軍採用情報】
・完全週休二日制
・残業代100%支給
・社会保険完備
・やりがいのある社会貢献活動
・種族問わず歓迎
・温泉等の福利厚生
「あなたも一緒に『侵略』しませんか?」
◇◇◇
おまけ
【綾様観察日記 番外編:福祉と侵略と”あの人”】
私は辰夫の背から、王都を見下ろしていた。
暴走する鍋軍団、泣き止んだ赤子、空に舞う竜の♡マーク──
この狂った侵略劇を、私は少し震えながら見つめていた。
その時、不意に思い出した。
──東京でOLやってた頃。
仕事? してたよ。主に人間観察という名の精神修行をね。
主な観察対象は総務部の最強お局の綾小路綾子様。通称は綾様。
──【綾様観察日記 vol.98】──
東京本社。
季節は春。部署全体で参加した”地域美化ボランティア”。
無理やり参加させられた私は、
やる気ゼロでトングを持っていた。
そのときだった。
遠くから、綾様が歩いてきた。
フルスーツにハイヒール。ネームプレートが光っていた。
……右手に、金色のトング。
彼女は、空き缶を拾った。
その動作は、なぜか正座の所作に見えた。
誰かが冗談めかして言った。
「さすが綾さん! 動きが洗練されてますね!」
その瞬間、彼女は空を見上げてこう言った。
「……地球には、恩があるのよ。捨てるなら、愛を捨てなさい」
全員、沈黙。
風すら、止まった。
トングを持つ私の手が震えた。
「愛を捨てよう……愛を捨てよう……」
花壇に頭を擦りつける班長に、誰も声をかけなかった。
それ以来、”綾様派”と囁かれ──
気づけば、彼は役員になっていた。
ただし、その目からは光が消えていた。
──私は、今でも信じている。
綾様は、”ゴミを拾ってる”んじゃなかった。
この星の秩序を調律していた。
(思い出すだけで胃が痛い)
「……いやほんと、福祉活動ってのは……
こう、魂が削れるんだよ……」
私は小さく呟いた。
地上では、鍋が割れ、オークが子供を抱きしめていた。
──世界征服と美化運動。
実は、紙一重なのかもしれない。