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「学食! 行ってみたかったんだよな! こういう雰囲気なんだな」
「俺は苦手だ」
昼休みになり、強引に手を引かれ学食に連れてこられた俺は、その人の多さや賑いにまいってしまっていた。人が多いところは苦手だ。だが、空澄を1人で行かせるわけにもいかず、綴は空澄に直接かかわろうとはしてこなかったが、あいつが校内をうろついていると思うと、危険で空澄から片時も離れてはいけないと思った。
「やりたいことリストこれで、一つ埋まったな!」
「そんなものがあるのか」
「いや、ない! 今作った!」
と、空澄は相変わらずの抜けた発言をし、俺を驚かせる。
だが、前々から空澄は高校に入ったらやりたいことがいっぱいあるから付き合ってほしいと言ってきた為、その一つが埋まると思えばまあいいかとも思う。俺は別にやりたいことも、したいこともないし。
そんな風に考えていると、空澄がぐいっと俺の腕を引く。
学食には、五〇〇円で食べられる昼食と、一〇〇円で買えるパンが売っている購買の2種類があり、どちらも行列を作っていた。完全に出遅れたと思い、今から並んで昼休みが終わる前までに食べ終わることが出来るのか不安になった。一応、昼食に自前のパンがあるし、それを空澄に譲ることもできたため、今回は諦めようと空澄を見ると、目を輝かせていた。クリスマスプレゼントを目の前にした純粋な子供のようにキラキラと輝くルビーの瞳を見ていると、あきらめようなんて言葉いえないと思った。
(……ああいう顔に弱いんだな)
絆されている自覚も、依存している自覚もあった。だからこそ、空澄の顔を見ているとなんでもかなえてあげなくてはという強迫観念に似たものを抱いてしまう。
「あずみん、あずみん、俺様ラーメン食べたい」
「……い、いやでもあの行列に並ぶのは」
それでも、時間効率を考えたときあの行列に並ぶのはちょっとと思ってしまい、遠回しにやめようということを伝えようとした。だが、空澄は全く俺の言葉の意味を理解てくれていないようで、それどころか勝手にいいように解釈をする。
「一緒に並べるって楽しいってことだな!」
「いや、俺はそんなこと言って……」
そう言いかけている最中にも空澄は俺の腕を引っ張り行列の最後尾に並んだ。本当に勘弁してくれと思いつつ、鞄の中にあるパンを恋しく思った。この距離から、メニューは見えるが、どれも食べる気になれず、500円は俺としたら痛い出費だった。だが、空澄に合わせてあげなければと、買うものを仕方なしに選ぶ。
ケチャップがたっぷり絡められている特製ナポリタンが目につき、俺はそれにしようと財布から五〇〇円を取り出した。以前、というか空澄と出会った当時、自動販売機に金を入れるということも分からない空澄のために500円を遠くから渡したことがあった。そういえば、あの五〇〇円はどうしたのかとふと気になり、あの頃の話をぽろりとこぼす。
「そういえば」
「うん?」
「そういえば、あの五〇〇円。ほら、お前と出会って間もないころ、お前が自動販売機のまえにいたとき渡した五〇〇円結局どうしたんだ?」
「うーん、えっと、交番に届けたぞ!」
「……」
純粋だ。というか、落し物を届けることが出来るのなら、自動販売機で飲料水を買う方法ぐらいわかっていたんじゃないかと思った。あれは俺をひっかける罠だったのかもしれないと、今になっては思う。だが、そんな高度な技術あいつにできるものかとも、結局真相は闇の中だった。
そうこうしているうちに俺達の番になり、空澄はラーメンを頼んだのだが、あわあわと震えながら俺の方を見た。
「あずみん、これ0、一個少ないだろ!?」
「……いや、間違ってないし、お前の金銭感覚がやばいだけだ」
誰が五〇〇〇円のラーメン何て学食で売るかという話である。大盛りのラーメンの大食い大会なら、食べきれなかったからと五〇〇〇円払わされるのならわかるが、普通5000円のラーメン何てない。
空澄はおかしいともう一度つぶやいて、一万円札を出して、大量の千円札をもらっていた。
学食のスペースは広いために、二人座れる席があり、ちょうど座ることが出来たが、移動の最中空澄がラーメンをこぼしそうになるなどアクシデントが発生し、早めに座れてよかったと思った。俺のナポリタンは空澄のせいでかなりひどいことになっている。
「う~ん、美味しい!」
「そりゃよかったな」
舌が肥えているだろうに、よくも美味しいといえると、別に学食に文句を言うつもりはないが、思ってしまうわけで。俺は別に美味しいと思うし、量もそこそこあっていいほうだとは思うが、空澄からしたらただ飯と変わらないだろう。
「あずみん、ナポリタン口の周りについてるぞ?」
「……ッ、自分でふけるから。ラーメン伸びるぞ」
食べるのはそこまで上手ではない為、ナポリタンのケチャップが口の周りにつき、それを空澄に指摘された。そうして、あいつはハンカチを取り出して拭こうとしたため、俺はそれを全力で止めた。さすがに恥ずかしすぎる。
そうか。と空澄は諦めてくれたようで、俺に高そうなハンカチを渡した後、熱そうにふーふーと息を吹きかけながらラーメンを食べていた。
(ほんと……こいつは)
相変わらずかき乱されてばかりだなと、俺は空澄のハンカチをポケットにしまい、自分のハンカチで口の周りを拭いた。