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「……なんで……その神楽を知っているんですか……山奥にある俺の家にしか伝えられていないはずなのに」
圧倒的な舞の前に放心する炭治郎が溢す。
「それは今は言えん。ただ、私が知っている舞と君が知っているその技が一致しているか確認したかっただけだ」
そう言うと久遠院は炭治郎の前に座り言葉を続ける。
「恐らく、我々黒刀の剣士の適正呼吸はこの神楽だ。そして当主の君の父親は既に亡くなっており、隊内ではそれが失伝している――つまり私以外この神楽を教えることができる者は居ない」
その佇まいは剣士というより侍のそれに近い。その荘厳な雰囲気に炭治郎は思わず背筋が伸びる。
「そこで提案がある……竈門炭治郎。私の継子にならぬか」
「……えっ? 継子ってあれですよね。上級隊士が下の階級の隊士や、まだ隊士になってない人を弟子に取る……」
「ああ」
「俺なんかが良いんですか?それに俺、別に師範が居て……」
「鱗滝殿か。良い、隊士が複数の師範を持つのはそう珍しいことではない。それに稽古をつけてもらっていたのは隊士になる前だろう――入隊後に他の呼吸に切り替える隊士も多い……一応、私もある程度ではあるが水の呼吸も教えてやれる。それに……」
一つ息を置いてから言葉を紡ぐ。炭治郎はその様子を固唾を飲んで見ていた。
「十二鬼月を、鬼舞辻無惨を倒したいんだろう。そして、妹を守りたいんだろう」
「!!」
炭治郎はその言葉にハッとした。
「私も……大切な人を鬼にされたから気持ちは痛い程分かる――共に、無惨を倒さないか」
「……勿論です! 俺は……いや俺たちは無惨を倒して、禰󠄀豆子や久遠院さんの大切な人を救いたい! これからよろしくお願いします!! 久遠院さん……いや師範!!!!」
床に手をつき勢いよく頭を下げる炭治郎を見つめる久遠院の瞳は、先程のまでの威厳を感じさせるものでははなく、まるで我が子を慈しむような優しいものだった。
「……顔を上げろ。蝶屋敷から出る許可を貰ったら鳴柱邸に来い。あと光継でいい」
その視線に気付くと、炭治郎は表情をぱぁぁと明るくさせた。
「はい!!光継さん!」
満足げに顔を綻ばせる久遠院。それを見て、炭治郎は不思議と気持ちが軽くなった。
「ふ、良い。それじゃあ……」
久遠院は壁の低いところに視線を向けた。
「怒らないから出てきて良いぞ。胡蝶と金髪の少年……最初から見ていただろう」
「え!? あっ!!」
炭治郎は驚愕し、久遠院の視線を辿る。その通気口からは見覚えのありすぎる4つの目が覗いていた。
「……すみません」
申し訳なさそうに正面入り口に回って入ってきた2人を迎える。
「すみません……善逸君も私も気になっちゃって」
「別に聞かれても良い内容だった。こそこそせずに最初から入ってこい」
小さくため息をつき胡座を組む久遠院の様子を見て善逸は恐る恐る声を出す。
「あ、あのぅ……炭治郎への用事は終わったんですか?」
「ああ。何か私に言いたいことがあるのか」
体勢を崩しつつも至って真摯な眼差しを向ける久遠院に善逸の心臓が跳ねた。
「えっと俺は……」
「彼は我妻善逸君というのですが、彼も久遠院様の継子になりたいと言っていたので……そのお伺いを立てに参りました。彼は久遠院様と同じく桑島一門の出ですが……壱ノ型以外が使えないんですよね、善逸君」
緊張した様子で口ごもる善逸に胡蝶が助け船を出す。
「あっ、はい……だから、他の型の習得を目指してるんですけど、周りに雷の呼吸が使える奴が居ないのとやっぱり自分だけでは幾ら時間があっても習得が叶わなさそうで……」
震える声で絞り出す善逸の緊張は心臓がまろび出そうな程であった。気配がない不気味な雰囲気、側から見て澄んではいるものの全く感情が無さそうな目、鉄鋼の如くぴくりとも動かない表情筋、そして柱であるという事実。
「それで……現鳴柱の方だったら何か、習得の手がかりをご教授いただけないかと思いまして……」
「ふむ。良いぞ」
だが、心配とは裏腹に久遠院の反応は肯定的だった。そのことに善逸は呆気にとられて思わず情けない声が出る。
「……へっ?」
「今は下級隊士の質が落ちていることが問題視されている。戦力増強が図られる中、向上心のある者を拒む理由などないだろう」
声色は淡々としているが別に拒否反応を示すような音ではない。
「こちらの任務が片付き次第鳴柱邸に案内する烏を飛ばす。これからは鳴柱邸を拠点として動いてもらうことになる」
あっさり継子になることが決まり、久遠院のなんとも言えぬ雰囲も不気味に思い拍子抜けしつつも善逸は
(これ何か裏無いよな……?)
と勘繰ってしまう程だった。