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狭い通路内に甲高い悲鳴が反響する。僕は今、お化け屋敷の中で迷ってしまっていた。なぜこうなったのか、僕は記憶を呼び覚ます。
雪が弱くなっても、これまで積もった雪が消えるわけじゃない。僕たちはその事をわかっていたハズなのに、今、それを痛感していた。
「……通れないね。」
向日葵モールから黄金ヒマワリ園までの道が、崩れた雪によって塞がれていたのだ。大型の除雪車が何度も雪を掻き分け進んで行くのを、僕らは見ている事しかできなかった。
「君たちココを通りたいのか?残念だったなココはしばらく通れないから、周って行くしかないぞ。」
そう言ってガハハと豪快に笑っていた作業着のおじさんを思い出す。ルートを考え直さなきゃ。僕は頭をひねる。
「2人とも、どこに行くんだ?場所によってはおじさんたちが連れて行っても大丈夫だぞ?」
なんと渡りに船な言葉だろう。僕は場所を告げる。それを聞いた途端、おじさんの顔が曇る。
「ヒマワリ園か…。そこは遠いな。簡単には行けないし、この雪だ。行っても何もないぞ。」
人生、そう都合よくはいかない。やっぱり迂回しよう。僕は踵を返した。その時だった。
「そういや、ヒマワリ園行きのバスがまだ生きてたっけ。確か、遊園地の方から乗れたハズだから、そこまでなら連れてってやるよ。」
それを聞いた春華が嬉々としておじさんにかけよる。
「本当ですか?乗せてってください!」
豪快に笑うとおじさんは、その大きな手のひらで自分の胸を叩くと、任せとけ!と言った。空気が震えるほどの声量はかなりうるさかったけど、足のない僕らにとって頼もしいことこの上なかった。
車窓に雪がぶつかっては流れていく。おじさんの小さな車の中で僕らは遊園地を目指していた。カーステレオから、昭和歌謡が流れていて、それに合わせておじさんが歌っている。あまり上手とは言えなかったが、聞いてて心地よい歌だった。しばらくすると歌い終わったおじさんが不意に言った。
「そう言えば2人は何しにヒマワリ園なんか行くんだ?この雪じゃ向日葵なんか咲かんだろう。」
僕は言葉に詰まる。雪を止めに行く、なんて素直に答えたところで相手にされないのが落ちだ。
「私たちは雪を止めに行くの。向日葵が原因かもしれないから、ヒマワリ園に行ってみようって。」
春華が明るい声で答えた。驚いて春華の方を見ると、まるで子供のような自信に満ち溢れた顔をしていた。ほお、とおじさんは無精髭を撫でながら頷く。まさか、これを信じるわけがないよな?僕はおじさんが大丈夫か心配になる。
「嬢ちゃんたちが雪を止めてくれたら、俺の仕事は減るな。任せたぞ。この平井大造の休日は君たちにかかっている!」
そう言っておじさんこと、平井大造は豪快に笑った。つられて僕たちも笑ってしまう。車内には笑顔の花が咲いていて、なんだか不思議な気分だった。ゆっくりと車が停止する。
「ついたぞ、ここだ。」
大造の言葉で、やっと僕は目的地に到着したことに気づく。車から降りると、眼前には広大なテーマパークが広がっていた。ゆっくりと回る観覧車、付かず離れず進み続けるメリーゴーランド、いくつもの娯楽が広大な敷地に所狭しと並べられている。春華の目がキラキラと輝く。
「ねえ、ちょっとだけだから、遊んでもいい?」
春華が申し訳なさそうに聞いてくる。しかし、僕はすぐには答えられない。すると後ろから頭の上に何かが落ちてくる。手に取るとそれは白いタオルだった。振り向くと頭からタオルを外した大造が立っている。
「雪を止める前に、ちょっとくらい遊んでも罰はあたんねぇよ。どうせなら楽しんでこいや。」
大造はそう言うとゆっくりと僕の隣まで歩いてきた。そのまま少し屈んで僕に耳打ちをしてきた。
「彼女と目一杯楽しんでこいよ坊主。」
顔が赤く染まっている。そんな僕の肩を大造は豪快に笑いながら叩く。受け取ったタオルで赤くなった顔を隠しながら反論する。
「彼女じゃ、ないから。友達です。」
吃驚するほど頼りない声だった。タオルを顔に押し当てているから見えないが、きっと驚いた顔をしているのだろう。
「ねえー、夏輝、早く行こうよ!私、観覧車乗ってみたいんだよね。」
離れたところから春華の声がする。僕は声のする方へ駆けていく。2人で歩いて行くと、急に春華が振り向いた。そして大きく手を振ると声を張り上げて叫んだ。
「車で送迎してくれてありがとう大造さん!雪解けを楽しみにしててねー!」
離れているのに大造がはにかんで笑っているのが簡単にわかった。言いたい事が言えて満足そうな春華と共に歩いて行く。