テラーノベル
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気が付けば空が白んでいた。
私はそっとベッドを抜けて、重い瞼をこすった。
(……2日連続で寝不足だと、こうも体に力が入らないものなんだ)
朝の光が目に染みる。
レイにキスされたかもしれないと思うと、頭の中がめちゃめちゃでほとんど寝られなかった。
(もう、どうしよう……!)
レイは3か月もいるのに、この先どんな顔してればいいの?
頭をかかえたい気持ちで階段を下りれば、台所にはけい子さんしかいなかった。
伯父さんは昨日から出張らしく、まだ早い時間だからかレイの姿もない。
(よかった……!)
私は心底ほっとして、けい子さんに「おはよう」と声をかけた。
「どうしたの澪、今日はやけに早いのね」
「あぁ、うん。 たまには早起きもいいかと思って……」
はは、と曖昧な顔で笑うと、私は冷蔵庫から牛乳を取り出した。
コップに注ごうとした時、けい子さんが尋ねた。
「そういや昨日はレイはいつ帰ってきたの?
私が出ていってすぐ?」
危うく牛乳をこぼしそうになった。 けど、なんとか堪えて笑う。
「えっと……わりとすぐ……かな」
「レイは今日もどこか出かけるのかしらねー。
そうそう、澪。 今日はお弁当忘れていかないでよ」
差し出されたお弁当を受け取り、私は「ごめんなさい」と頭を下げた。
その時かたんと音がして、思わず身がこわばる。
「おはようございます」
つたない日本語が聞こえた。
ゲストが日本語で挨拶をしてくれることは珍しくない。
普段なら微笑ましいのに、私は返事ができなかった。
「まぁ、レイ。おはよう」
けい子さんが目を細めて挨拶を返す。
『早いのね、今日もどこか出かけるの?』
『ええ、行きたい場所が多くて』
ふたりの会話をよそに自分の席につけば、レイも向かいに腰をおろした。
(あぁぁ、どうしよう)
絶対に目が合いたくない。
というか、目なんて合わせられない。
うつむき気味にトーストをかじる私の心情なんて、レイにはなにもわからないんだろう。
「おはよう、ミオ」
なにも言わない私にも、覚えたての日本語で挨拶をしてくるんだから。
「……おはよう、レイ」
けい子さんの手前、挨拶をしないわけにはいかない。
本当に小さな小さな声で言うと、私は急いでトーストをほおばった。
(なんなの、いったい……!)
いくら二重人格だからって、どうしてそんな平静としてられるの。
けい子さんの前だから?
それとも、あのキスは私の勘違いなの?
動揺から挙動不審になってしまいそうで、私は慌てて席を立った。
「ご、ごちそうさま! じゃ私はもう行くね」
「えっ澪、もう行くの?」
「うん、行ってきます!」
私はお弁当を掴むと、台所を飛び出す。
玄関へ向かいながら、何度か大きく息をして気持ちを落ち着けた。
(だめだめ、しっかりしなきゃ)
レイに気をとられて動揺してる場合じゃない。
今日は佐藤くんに返事をする、大事な日なんだから。
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