TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する




***





私にとって特別な一日は、本当に普段と違う始まりだった。



電車が大幅に遅延していたせいで、あれだけ早く家を出たのに、学校に着いた時にはSHRが終わりかけていた。



(「話がある」って、朝一番に言おうとしてたのに……)



遅れて席についた私は、脱力しつつ斜め前を見つめる。



(佐藤くん……)



勇気を振り絞る準備はできてたのに、思いっきり出鼻をくじかれてしまった。



だけどめげちゃだめだと自分に言い聞かせる。



なのに神様はイジワルだった。



今日に限って移動教室ばかりで、声をかけるタイミングを掴ませてくれない。



(あぁ、なんでなの……!)



あっという間に昼休みになり、私はお弁当を食べつつ佐藤くんの様子を窺う。



「……ねぇ、澪。


 昨日のことなんだけどさ……」



私の視線に気付いた杏が、遠慮がちに口を開いた。



「うん、考えたんだけどね……。


 昨日の返事、今日するつもりなんだ。

 だけどなかなか話すタイミングが掴めなくって」



困ったように笑うと、杏は眉を下げたまま尋ねた。





「澪はさ……佐藤くんが好きなの?」



その問いに急に頬が熱くなった。



実は杏とコイバナをしたことがない。



杏も話さなかったし、私も照れくさくて言えなかった。



ほかのことならなんでも話せるのに、どうしていいかわからず真っ赤な顔で頷けば、杏は「そうだったんだ」と笑う。



「そっかぁ……。よかったね」



その時チャイムが鳴り、杏はお弁当を片付けて席を立った。



「ありがとう」と言った私は、頬を押さえつつ佐藤くんに目を戻した。



彼は友達と話をしている。



このまま手をこまねいていたら、すぐに放課後になるのは目に見えていた。



私は迷った挙句、5時間目が始まる直前にメモを渡した。



《放課後、少しだけ時間をください》



それを読んだ佐藤くんは、怪訝な顔で私を見る。



だけど「いいよ」と頷き、「中庭で待ち合わせよう」と言った。







(……えっ)



あまりにも普段通りの反応に、私は拍子抜けした。



(もしかして、緊張しているのは私だけ?)



私は目が合うだけで心臓が飛び出そうなのに、佐藤くんはそうでもないらしい。



(それならやっぱり、明るく笑顔で、だよね)



重たい空気になるより、絶対そっちのほうがいい。



(よしっ)



ここまできたら前進するのみだ。



もう一度気合いを入れなおした私は、気もそぞろに残りの授業を受けた。







それから数時間後、HRが終わるとすぐ杏と目が合った。



(杏……)



その瞬間、ふっと逃げたい自分が顔を出した。



本当は「怖い」と言って、杏に泣きつきたい。



だけど絶対に笑顔を崩さない決めたから、私は笑って手を振った。









杏も笑って手を振り返してくれた。



口をパクパクさせて、「がんばって」と言ってくれる。



「……ありがとう、杏」



やっぱり持つべきものは親友だ。



なによりも心強いエールに、しぼんでしまいそうな勇気が膨らんだ。



私は心からの笑顔を向けて、中庭に向かう。



中庭は体育館と校舎の間にあるからか、普段人がいない。



案の定だれの姿もなく、私は木陰に入って何度も深呼吸した。



「広瀬、どうかした?」



その時、佐藤くんの声がした。



振り向くと佐藤くんが近付いてくるところで、心の準備ができていない私は、鼓動が痛いくらい騒いだ。



臆病風に吹かれそうになるけど、どうにかして微笑む。



(大丈夫、大丈夫)



覚悟を決めたんだから、ちゃんと言える。



私は自分に言い聞かせて、佐藤くんの目を見つめた。












チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚