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相変わらずむさ苦しいとか、ああいう所苦手だなあと思う。
「エトワール様、気分悪いんですか?」
「あ、あ、あ、えっと、ちがくて!」
ヒョコリとブライトに顔をのぞき込まれ、変な反応をしてしまって、一気に羞恥心がこみ上げてきた。何というかいきなり声をかけられるのは苦手で、その時思わず変な、というか素で反応してしまう。こういうのやめた方がいいんだろうな、と思っても癖でなおらない。
まあ、それはいいとして医ン敗してくれるブライトには感謝だ。
私は咳払いをしブライトを見た。あの後、少しだけ魔力の出し方をおさらいして、あの時の胸に集まるような感覚を思い出していた。だが、あれほど強力には集まらなかったし、まだ何か足りていないようにも思った。練習あるのみだと思うが、そんな時間は無いようにも思う。
「グランツさんいるか、聞いてきましょうか?」
「え、いいの? でも、そんな私の護衛だし」
「いえ、エトワール様にはお世話になっていますし、いるのであればプハロス騎士団長にもお話があるので」
と、ブライトはにこりと笑っていってしまった。
話を聞いてからにしてよ、と思いつつも彼も彼で忙しいし、率先していってくれるといったのだから引き止める義理もないと思った。
とはいえ、一人きりにされると心細い。
訓練場で声を出しながら訓練に励む騎士達を遠目で眺めていた。リュシオルなら、ああやって切磋琢磨して剣を振るう男の人を見るだけで妄想がはかどるのだろうが、私には生憎そういう趣味はない。別に、彼女の趣味を否定するわけでも、気持ち悪いとは思わないが、そういうジャンルという感じで積極的には見ない。まあ、流れてきたらへーという感じで、流し読みする程度だ。
(グランツが、私に用事……か)
あの子は、私の実年齢より年が下だし、まだまだ口べたというか、言いたいことをはっきり言わない癖があるため、用事といってもそう長くはないんじゃないかと思った。実際、グランツとの会話は続かない。あっちがどう思っているのか、自分は平民上がりの騎士で、ただの護衛だから主人に口出すのも話すのもおこがましいと思っているのか。グランツの事はよく分からない。
彼との出会いは、訓練場で彼を探しているときに木剣が飛んできたという命の危険を感じたもの、初めから素っ気ないし、冷たいし、無表情だし、あの時から何を考えているかよく分からなかった。
リュシオル曰く、安心キャラ。らしいが、それはゲームの話であって、好感度が上がりやすくても、それがいいとは限らない。彼の好感度は最近確認していないけど、まあまあ高い方だとは思う。
上がりやすいというのは変わらない。
ただ、何というか話しにくいし、今関係が複雑なのだ。
(グランツが、トワイライトのことどう思ってたかってしりたいし……私も少し大人になったから、あの時のこと、そこまで引きずらないようになったし)
トワイライトが現われて、彼女の護衛になるといったグランツの事を今でも覚えている。あの時は目の前が真っ白になったし、グランツの事が訳分からなくなって、酷く当たってしまった。でも、今そんなのを彼にぶつける怒りも何もないため、ようやく落ち着いて話せるのではないかと思った。
彼が、私の知っている彼のままでいるなら。
「というか、ブライト遅いし……私も探しに行っちゃおうかな」
私は、座っていたベンチから立ち上がって背伸びをした。新調して貰った聖女専用の修道女に寄せたドレスは相変わらず動きやすかった。耐久性もこの間より上がっているらしいし、魔力の籠もった糸で紡いであるらしいから、簡単なことでは破れない。戦闘用の服といっても過言ではない。
「可愛いのに、強いって最強だよね」
そんな独り言を言いながら歩く。
前世だったら、可愛いものに目が合っても、オタ活の為にお金をすり減らしたり、貯金していたりしていたわけだし、服を買うなんて事あまりしなかったけど、ここに来てからファッションだったり、ドレスだったり兎に角キラキラしたものに惹かれるようになった。聖女だし、有り余るほどお金が貰えるわけだけど、かといってドレスは一人で着れるほど簡単な作りはしていない。肩がこるときだってある。後はコルセットは痛いし。
そんなことを考えながら私は、訓練場とは違う方向に歩き出した。さすがにあそこには行きたくない。あそこにグランツがいたとしてもびびって話しにいけないだろう。
だから私は彼と最初に出会った場所まで足を運んでいた。まあ、もうそろそろ認められてきた頃だろうし、訓練場で皆と一緒に剣を振っているだろうけど。
そう思っていると、茂みの方からひゅんと音を立てて何かが飛んできた。もう慣れて、反射的に身体が動く。
「デジャブ!」
慣れたといっても命の危険は感じるわけで、私はその場に頭を抑えてうずくまった。
飛んできた木剣は気に突き刺さっている。相変わらずどんなスピードで力で剣を振っているのだろうと思う。力任せに振るだけじゃ成長はしない。
「エトワール様?」
「グランツ、アンタ……」
ざくざく……と草を踏みしめて茂みの方から出てきたのは、予想通りグランツだった。彼は私が何故ここにいるのか理解できていないようで、その翡翠の瞳を大きく見開いて、キョトンとした顔を私に向けていた。
亜麻色の襟足の長い髪も、少し押さないその顔も何も変わっていない。何にも興味を示していなさそうなその翡翠の瞳もだ。
「え、エトワール様、お怪我はありませんか」
そう言って、慌てて近付いてき、私に手を差し伸べるグランツ。
前と違ってしっかり気遣えるようになったのは成長したと思うが、周りが気にならないぐらい集中しているところを見ると、少し危ないような気がした。もっと神経質なタイプだと思っていたから、特訓の邪魔されると怒ると思っていたのに。私が来ても気づかないところを見ると、それぐらい撃ち込んでいたことにはなるが。
私は、グランツに差し出された手を取って立ち上がる。ドレスについた土埃を払いつつ彼を見る。申し訳なさそうに本能S腰眉を下げているが、私に会えたのが嬉しいのか、彼の周りには小さな花がぽんぽんと咲いているようだった。
何がそんなに嬉しいのか分からない。
(アンタの主人はトワイライトだろうに)
本来のゲームであれば、グランツはトワイライトの護衛騎士で、エトワールなんて見向きもしない、主人絶対守るマンなのに。と思いつつ、どうしてこんなに懐かれたのか、その原因が未だに分からないでいる。
嫌かと聞かれれば、一概にそうとは言えないし。
「…………すみません、また」
「ほんと、私はアンタに何回殺されかければいいの?」
「…………」
「怒ってないって言うと、嘘になるけど。まあ、気をつけて」
「怒らないんですか?」
「だから、怒ってないって言ったら嘘になるっていったじゃん」
そう言ってやれば、これ以上聞くのはダメだとようやく察したらしく、グランツは口を閉じた。言い過ぎたかと、彼の耳がしゅんと垂れ下がっているのを見ると、良心が痛む。
私は、大きなため息をついて「怒っていないから」と呟いた。
「すみませんでした」
「分かった、分かったから、そんな顔しないで」
「どんな顔ですか?」
「凄く、可哀相な……捨てられた子犬みたいな顔」
と、私が言うとグランツは首を傾げた。この表現は適切ではなかったかと思ったが、グランツは「捨てられた子犬……」と何度か繰り返し呟いていた。何というか、グランツは子犬みがある。実際大型犬な気もするし、そうなのだが、私に対しては年相応の顔を見せるというか、可愛らしい一面も持っているというか。
そんなことを考えていると、私は当初の目的を忘れそうになっていて、いけないと首を横に振った。
「今日、アンタに会いに来たのはアンタが私に用事があるからって聞いたから」
「用事……ブリリアント卿から、聞いたんですか?」
「え、ああ、うん。アンタが私を探しているって」
グランツは、確かにブライトにそう言った気もするみたいな曖昧な顔を浮べて私をじっと見た。空虚な翡翠の瞳は磨りガラスのようだと思う。あっちからは私のことがしっかり見えているのだろうが、私はグランツの瞳の奥を覗くことは出来ない。
攻略キャラなのに、たまに目が死ぬキャラ。
言い方は悪いかも知れないが、事実である為仕方がない。
(ほんとよく分からない)
どのキャラも基本的に何を考えているか予想がつかないのだが、グランツはとくにそうだ。何かとちゃんと言ってくれるようになったブライトとも違うし、少し押せば話してくれるアルベドや、私にだけ隠し事をしないリースとも違う。
何かを秘めている、隠しているがそれを少しも見せてくれない。それがグランツだった。
そんな風に見ていれば、グランツは何かを思い詰めたように口を開いた。
「用事……思い出しました」
「忘れてたの? まあ、その、特訓に精を出しているのっていいことだと思うし……」
「トワイライト様のことで、話したいことがあったんです」
と、グランツは光を失った瞳で私をスッと真っ直ぐ見つめた。