テラーノベル
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それは、引っ越したばかりの部屋のキッチン棚の奥に挟まっていた。
白い封筒。
宛名も差出人もない。
中に入っていたのは、数十ページの冊子だった。
表紙には、こう書かれている。
**『あなたの取扱説明書』**
「……なにこれ」
遥は思わず笑った。
悪趣味ないたずらだろう。前の住人が置いていったのかもしれない。
だが、自分の名前が印刷されているのを見た瞬間、喉がひりついた。
――対象個体名:高梨 遥
――製造日:1998年3月14日
――型番:HR-0314-JP
「……気持ち悪い」
ページをめくる。
・感情反応:過敏
・孤独耐性:低
・睡眠時、過去の記憶を再生する傾向あり
・朝、アラーム音により自動起動
・声かけ「大丈夫」により安定
遥は凍りついた。
“声かけ「大丈夫」により安定”。
それは、亡くなった母が毎朝言っていた言葉だった。
誰が知っている?
ページを急いでめくる。
・自己否定の増幅
・過呼吸
・夜間、誰もいないはずの空間を注視する
※症状が進行すると「自己分離現象」が発生します。
どくん、と心臓が跳ねた。
昨夜、遥は確かに感じていた。
ベッドの足元に、誰かが立っている気配を。
「……やめて」
冊子を閉じようとする。
だが、最後のページが勝手に開いた。
1. 対象が深夜2:13に目を覚ますのを待つ
鏡の前に立たせる
背後から首元に手を添える
「終了」と宣言する
※廃棄後、外見は維持されます。
「……廃棄?」
その瞬間。
カチ、という音がした。
部屋のデジタル時計。
**2:13**
息が止まる。
鏡は、リビングの奥にある。
ゆっくりと、背後の気配が濃くなる。
誰かの呼吸が、首筋にかかる。
温かい。
「終了」
低い声が、耳元で囁いた。
遥は叫びながら振り向いた。
だが、そこに立っていたのは――
自分だった。
同じ顔。
同じパジャマ。
無表情の“もうひとり”。
それは冊子を手にしている。
そして、静かに言う。
「旧型は、不安定でした」
遥の喉に、冷たい指が触れる。
視界が暗くなる。
翌朝。
高梨遥は、何事もなかったかのように目を覚ました。
完璧な笑顔。
乱れのない呼吸。
不安の影もない。
キッチン棚の奥には、新しい冊子がある。
**『高梨遥(改良版)取扱説明書』**
最後のページには、追記があった。
・意識は内部ログとして保存済み
・必要に応じ、夢にて再生可能
その夜。
改良版の遥は、ふと目を覚ます。
夢の中で、誰かが内側から叩いている。
ドン。
ドン。
ドン。
それは、廃棄されたはずの“旧型”。
取扱説明書には、まだ書かれていない不具合が、確かに存在していた。
By 主
難かった〜!
コメント
2件
かけるだけですごいよー!