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伊武「もういいです!兄貴なんか大っ嫌い!!」

龍本「…っ!おい!待て!外はまだ雨が…!」

ジャケットを翻して、俺は最愛の人に背を向けて走った。

―兄貴なんか、大っ嫌い―。

嘘だ。そんなわけがない。俺は誰よりもあの人が大好きだった。何にも替えることができないくらいに、あの人を愛していた。


今日はあの人と俺が付き合い始めてちょうど一周年記念の日。俺はこの日をずっと楽しみにしていた。カチコミに行って、どんな大ケガをして帰ったとしても、この日が来るまでは絶対死なないと決めていたくらい、待ちわびた日だった。

それは、あの人も―龍本の兄貴にとっても、そうだと思っていた。

―急な仕事が入ったから、今日は遅くなる。

だから、兄貴からこんなことを言われたことが、巻き返せないくらいショックだった。あまりに衝撃的で、最初は聞き間違いだとも思った。

伊武「…えっ?」

龍本「だから今日は、あんまし一緒にいられないかもしれねぇ」

そう、俺にとって今日という日は、前々から楽しみにしていたものだった。が、同時に二人だけの大切な日でもあった。

それ故に、俺には「兄貴なら、絶対覚えてくれている」という期待じみた強い信頼があった。

伊武「何でですか?『今日は大事な日だから、休みとっておいて』って、言ったのに…」

龍本「っ…!それは」

伊武「どうして…!!覚えてないんですか!」

信頼が強かった分、それを砕かれたダメージは大きかった。

龍本「ちっ、違う…それはな」

伊武「何が違うんですか!覚えておいて、って、俺はあれほど言ったのに!!」

龍本「伊武、少し落ち着け!…話を聞け!」

あまりにも気持ちが大きすぎて、俺の中から溢れ出して止まらない。俺の肩を掴んだ逞しい腕を振りほどき、涙で潤んだ目で兄貴を見据える。

伊武「もういいです!兄貴なんか大っ嫌い!!」

龍本「…っ!おい!待て!外はまだ雨が…!」

俺はドアを開けると、龍本の兄貴に背を向けて走り出した。

兄貴の言う通り、外はまだ雨が降り続いていた。そんな中、俺は傘も持たずにひた走った。

伊武「…!」

ふと、俺はとある店の前で立ち止まった。特に目的があったわけでもない。けれど、何故か俺の足は店の方へと動いていく。ハンカチで充分に顔や首元を拭くと、俺はその店へ入った。

入ってすぐに目に入るレジの方を見ると、蓋の開けられた長い箱があった。その箱に入っている銀の2連ネックレスに、俺は見覚えがあった。

伊武(あれ…俺が前欲しいって言ってたやつじゃ…)

ぼんやりとそれを見つめていると、何か察したのか、レジにいた店員が俺に話しかけてきた。

店員「それが気になるんですか?」

伊武「えっ…?あ、いえ…」

黒いベストのよく似合うその店員は、愛おしそうに箱を撫でながら話し出した。

店員「…これはね、少し前からとあるお客様がご注文されている品なんです。『恋人に渡したい』と言って…ちょうど今日が、その日じゃなかったかな」

伊武「!…」

店員「…『その日は、アイツと付き合い始めてちょうど一周年になるから』…そう、仰っていました」

俺の頬を温かいものが伝った。目の前がぼやけて、何も見えなくなる。店員の話も、そろそろまともに聞けそうにない。

兄貴は覚えてくれていたのだ。今日が記念すべき日だということ、そして、俺がこのネックレスを欲しがっていたことも。それなのに、俺は…

伊武「っ…!!」

店員「あっ!お、お客様?!」

驚く店員を背に、俺は急いで店を出た。激しい雨粒に当たると同時に、横から人影が近付いてくる。

人影は俺の前に来ると―そっと傘を差し出した。

龍本「ここにいたか」

伊武「!………兄貴」

兄貴は傘の中に俺を入れると、優しく抱き締めた。雨で冷え込んだ身体に暖かさが沁みる。

龍本「…悪かった。本当はちゃんと覚えてたんだ。でも、お前にサプライズしてやりたいと思って、わざと忘れたふりして…結果、お前を怒らせちまって」

優しい言葉が胸に刺さって苦しい。

何で、兄貴が謝るんだよ。兄貴は何も悪いことなんかしていないのに。全部、俺が悪いのに。

龍本「風邪、引いてねぇか」

俺は小さく首を横に振ると、兄貴の顔を見上げた。

伊武「違うんですっ…!兄貴は何も悪くない!俺が…あのネックレスを欲しがっていたこと、兄貴が覚えてくれてただなんて、俺…全く知らなくて…!あんなに…ひでぇこと言って…!」

涙がぽろぽろと零れて、言葉が続かない。傘に入れて貰っているから、雨のせいだなんて言い訳にもできなくて。

伊武「ごめんなさい…勝手に勘違いして、兄貴の気持ちを蔑ろにして…っ」

龍本「…何だ、そんなこと。もう気にしてねぇよ。あれは、ただ…俺が好きでやったことなんだからな」


龍本「改めて、これからもよろしく」

そう言って、兄貴はさっきの長い箱を俺に渡した。少し残念なことに、中身はもう知っている。

龍本「…ちょっと、付けてみてくれねぇか」

伊武「え?あ、はい」

俺は箱からネックレスを出して端と端をつまむと、自分の首にかけた。

龍本「…やっぱ、似合ってんじゃねぇか。それと、その…綺麗だな」

伊武「何が…ですか?」

龍本「っ…こっの、鈍感野郎!お…お前が、綺麗だ…って、言ってんだよ」

兄貴は一瞬、恥ずかしそうな顔をした。でも、それもすぐに戻って、愛おしげに俺を見つめる。

その表情に、思わず胸が高鳴った。

伊武「…ありがとうございます。これ…一生大切にしますから」

目に涙を浮かべて、俺は兄貴にそう告げた。さっきまであんなに降り続いていた雨はもう止んでいて、代わりに小さな星達が、夜の空に瞬いていた。


阿蒜「伊武の兄貴!そのネックレス、めっちゃかっけぇっすね!どこで買ったんすか?」

シマの見回りをしているとき、こうして舎弟が人懐っこく聞いてくることがある。

一生忘れることのない、大切な思い出。その話ならば、俺は何度でもいい。

伊武「これか…そうだな…」

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ふぅふぅ、ちょっと待ってください、貴方、私を56す気ですか?最高すぎます、ありがとうございます

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