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スタートヽ(*^ω^*)ノ
リビングの壁掛け時計が、カチカチと音を立てる。
「……どうしよう……」
ため息を吐いて、ソファに崩れ落ちたレトルトの視線の先には、
半分引き出したままの洋服ラック。
見れば見るほど――
「なんやこれ全部パジャマみたいやん……!」
ずっと在宅勤務。
必要以上に人と会わない生活をして、気が付けばもう何年も洋服を買っていない。
どれもくたびれたシャツや、ゆるすぎるニットばかり。
今日の夜、キヨくんに会う。
たったそれだけのことなのに、心臓は爆音を鳴らして、
手のひらは湿るほど汗ばんでいた。
でも、会いたい。
会いたくて、震えるくらい、恋しくて。
だからこそ、みっともない格好で行きたくなかった。
レトルトは小さく息を吸い込んで、スマホを手に取った。
⸻
【通話/レトルト × 牛沢】
「……なぁ、うっしー。今なにしてる?」
『ゲームしてる』
「あのさ、頼み事あるねんけど」
『ほぉん?なんだよ、急に。
珍しいな、レトルトが“頼み事”とか』
今までの事をうっしーに話したレトルト。
AI彼氏育成アプリに登録した事。
自分が作り出した理想の彼氏「キヨ」が実在した事。
そんな彼に恋をしているという事、、、。
電話越しに一瞬の静寂が流れると、牛沢がふっとトーンを落とした。
『……外出んの、今日?』
「うん……。今日な……会う約束してて。
……その、キヨくんと……」
声がかすれそうになるのを押さえながら続けると、
電話の向こうの牛沢は少し驚いたように「マジか」とつぶやいた。
『で、服がないと』
「うん……。
だから一緒に、服選んでくれへん……? 人混み怖いし、
うっしーと一緒やったら、怖くないからさ…」
少しの間、牛沢は何も言わなかった。
でも――
『いいよ。すぐ行く。また連絡する』
それだけ言って、電話は切れた。
短くて、そっけない言葉。
でも――その中に込められた“親友”の優しさに、胸がじんと熱くなった。
つづく