TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

7話目もよろしくお願いします!

スタートヽ(*^ω^*)ノ





レトルトはなかなか病室に戻ってこなかった。


『レトさん、まだ戻らないの?』

キヨは看護師に聞いてみる。


「うーん、もう少しかかるかなー」

看護師の答えは曖昧で、キヨの心を満たすことはなかった。


寂しかった。

カーテン越しに笑いかけてくれるあの優しい声も、いつもの励ましの一言も、今は静寂の中に消えてしまっていた。



『でも、俺が頑張れば……またあの声が聞けるかも』

キヨはそう思い、リハビリに向かった。


足の痛みに顔を歪めながらも、頭の中にはいつもレトルトの優しい声がこだましていた。

『早く戻ってきてほしい』

その一心で、キヨは一歩一歩を踏みしめた。


リハビリの時間は辛いけれど、心の奥にほんの少しの希望が灯っていた。

その希望こそが、キヨを前に進ませる力になった。



レトルトがいない日々、キヨは寂しさを埋めるようにリハビリに打ち込んだ。


痛みと戦いながらも、頭の中にはいつもレトルトを思い浮かべていた。

『早く、また声を聞きたい……』

その思いがキヨの気持ちを突き動かした。



時間が経つにつれて、リハビリの時間はだんだん長くなり、帰る頃には足取りもふらつくほど疲労困憊だった。

フラフラになりながら病室に戻ると、いつもなら冷たく静まり返っている部屋に、ほんのり温かい空気が流れていることに気づく。


『……レトさん?』

カーテン越しでも分かる、あの独特の存在感。

目に見えなくても、確かにそこにいることが感じられる。


キヨの声は小さく震えていた。


返事はないかもしれない、そんな恐怖が胸の奥に刺さっていたそのとき——

カーテンの奥から、ずっと聞きたかった声がやわらかく響いた。


「……ただいま、キヨくん」


その瞬間、キヨの胸の奥に張りつめていたものが一気にほどけた。

涙が勝手にこぼれ落ちる。

『レトさん……っ!』


必死にこらえていたものが溢れ出し、嗚咽まじりに名前を呼ぶ。

『心配したんだぞ……!何日も、ずっと……』


カーテンの向こうから、ほんの少し笑うような気配がした。

「ごめんね、キヨくん。キヨくんの声、聞こえてたよ。本当にありがとう。」


その声はかすかに掠れていたけれど、たしかにあのレトルトの声だった。

生きている、戻ってきてくれた——その事実だけで、胸の奥が熱くなった。





キヨの目からは、止めどなく涙が溢れた。

声にならない嗚咽が喉をふるわせ、肩まで震えている。

その姿はまるで子どものようで、必死に隠してきた弱さが一気にあふれ出していた。


そのときだった。


今まで一度として、カーテンの向こうから姿を見せることのなかったレトルトの手が、

静かに、ためらうように、カーテンの隙間からそっと伸びてきた。


白く細いその指先は、月明かりのように淡く光って見えるほど儚く、

しかし確かに温もりを帯びていた。


その手は震えるキヨの頬にそっと触れ、流れ落ちる涙をやさしく拭った。


「……泣かないで、キヨくん」


かすかに揺れる声が、まるで子守唄のようにやさしく響いた。

キヨはその温もりに、胸の奥が締めつけられるほどの安心と切なさを感じ その手に頬をすり寄せた。

レトルトの手のぬくもりが、孤独だった日々の全ての寂しさを、まるで溶かすかのように優しく包み込んだ。




キヨは涙で濡れた頬を拭うレトルトの手に、そっと自分の手を重ねた。

その手は、自分の力強い手とは違って、折れそうなくらい細く、白く、儚い。


しかし、触れた感触は確かに温かく、わずかに震えているのが伝わった。

その微かな震えに、キヨの胸の奥が締めつけられた。


そして、理性を超えた衝動に従い、キヨはそっとその手に唇を寄せた。

無意識の行為だった。けれど、頬に触れていた指先と唇の間に交わる温もりは、二人の距離を一瞬にして溶かしてしまった。


カーテン越しの世界に静寂が満ち、二人だけの呼吸と鼓動だけが響く。

キヨの小さな行為は、言葉以上に強く、深く、レトルトの心に触れた。



キヨはその瞬間、自覚した。

自分の胸の奥でずっと膨らんでいた気持ち――それは、紛れもなくレトルトへの「好き」という感情だったのだと。


そっと触れた唇の感触に、レトルトは小さくピクッと震えた。

けれど、拒絶の気配は一切なく、むしろその手の柔らかさと温もりは、キヨの胸に深く染み込んでいった。


二人の距離が確かに近づいた瞬間だった。




続く

この作品はいかがでしたか?

73

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚