『今度いつ逢えますか?』
そんなメールがしょっちゅう送られてくる。あいまいな返事をするのももう疲れてきた。でも、もう少し。もう少しメールのやり取りを続けてから。
『ごめんなさい、なかなか忙しくて。きっと、この展示会が終わったら、時間ができると思います。』
冴子は、パンフラワーの教室を開いていた。その生徒さんたちの展示会が、年に一回行われる。だからその展示会の前後は準備で相当忙しい。でも、今はその時期ではない。また嘘をついてしまった。
『加奈子さんの作品をぜひ見てみたいな。展示会はいつなの?』
『フフッ、それはヒミツです^^』
『とても素敵な職業ですね〜』
『どうもありがとう。私はとても充実しています〜』
『そうですか、そんなところもとても魅力的です。・・・』
ちょっとしたメールのやり取りで、良彦の心が冴子に傾いてくる。でも決してそれは、愛情なんかではない。そんなことは初めからわかっている。
『好きな食べ物は何ですか?』
『パスタが好きです。』
『そうですか。では今度ご一緒にお食事でも・・・』
『まあ、ありがとう。嬉しいです』
(みんな決まっていつも大体同じ誘い方ですね。)
冴子は良彦に対して、全く恋愛感情を持っていない。好意すら抱いていない。でも良彦は、確実に冴子に心を奪われつつある。冴子は、決して良彦の気持ちをもて遊ぶつもりなどない。そんなことではないのだ。気持ちもないのにメールをやめない理由。それは、冴子がいい加減な男を許せないからだった。身勝手な男への怒りからだった。
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