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「なあ、本当にここなのか?」
守口の案内でやって来たのは都内のホテル。
「間違いないはずですが」
一華の携帯の位置情報を追跡したらこのホテルにたどり着いたらしい。
さあ、この先はどうしたものか。
ここは客室だって1000を超える。
「このホテルのどこにいるのかなんて、わかるのか?」
「大体のフロアくらいはわかりますが、完全に特定するのは無理ですね」
「じゃあ」
やっぱり一部屋ずつ聞いていくしかないのか。
まあ、俺はそれでもかまわない。
これが単純な一華の家出なら良いが、もし事件に巻き込まれているとしたらと考えただけで恐ろしい。
「まあ、任せてください。だてに浅井の秘書をやっていませんよ」
いかにも自身ありそうな守口。
一体何を考えているんだ。
俺は、守口に連れられホテルのフロントに向かった。
「あの、私こういうものですが支配人はいらっしゃいますか?」
言葉こそ優しいが、威圧的な態度。
フロントで応対に出たスタッフは一瞬名刺に目をやって
「申し訳ありません、本日は退社しております」
と頭を下げた。
「では、責任者の方を呼んでください」
「は、はい。少々お待ちください」
その間に守口もどこかに電話をしている。
5分ほど待って、
「大変お待たせいたしました。私マネージャーでございます」
40代くらいの男性が現れた。
「守口です。突然お邪魔して申し訳ない」
「いえ、本社の方が急用とのことで驚きました。先ほど支配人からも電話がありまして、すぐにこちらへ向かうとのことです」
「いや、それはわざわざすみません」
言いながら悪びれる様子がない。
「早速ですが、お願いしたものを見せていただけますか?」
「はい、こちらへ」
***
俺たちは事務室へと通された。
「これが、東棟の10階から15階までの顧客名簿です」
「ありがとうございます。データを本社のシステムルームへ送って下さい」
「はい」
テキパキとデータを送信し、怪訝そうに守口を見るマネージャー。
そりゃあそうだろう。
何の説明もなくいきなり顧客データをよこせって言われてもな。
確か、ここは浅井の系列ホテル。本社の人間って言うだけで多少の融通は利くと思うが、ここまでとは・・・
「鷹文さん、この中に心当たりの人物がいますか?」
見せられた顧客名簿に、一華の名前はなかった。
「鈴木一華さんと、鈴森商事、あと、鷹文さんに関係する人がいないか検索させていますので、」
だから、本社にデータを送ったのか。
ピコンピコン。
守口の携帯が鳴った。
「鷹文さん、どうですか?」
見せられた画面に、数人の名前と、会社名。確かに鈴森商事と取引があった会社だ。
でも、心当たりはない。
「違うな」
「そうですか」
ピコンピコン。
次々に送られてくるメール。
「これはどうでしょう?」
「ああ。えっと・・・」
画面を目で追っていた俺は1人の人物で目がとまった。
「こいつ」指さした先を守口が見る。
「海山商事の長男ですか」
「ああ」
海山商事は、セクハラ接待事件で一華がひどい目に遭わされた会社。
もちろん部長は首になったが、あんまり腹が立った俺は色々と裏で手を回した。
今はかなり経営状態が悪いと聞いているが。
「逆恨みですかね」
「そうだな」
守口のことだ、俺が何かしたのはすでに知ってるんだろう。
「行ってみますか?」
「ああ。急ごう」
相手が海山商事の人間となれば、
一華が危ない。
俺は事務室へを飛び出した。
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