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「痛っつぅー……」
聞こえた声に、「ご…ごめんなさいっ!」と、とっさに頭を下げて、急いでまた顔を上げると、
「……なんだよ、あんたかよ…」
こちらを睨むような、黒い瞳とかち合った。
「あなた……もしかしてカイなの?」
事務所のそば近くなので出会っても不思議ではなかったけれど、こうして個人的に顔を合わせるのは実際初めてで、ついぶしつけに見てしまった。
「……なに、じろじろ見てんだよ?」
不服そうに口にするカイに、「あっ、ごめんなさい」と、もう一度謝る。
「顔に、傷とか付かなかったよね…?」
もしアイドルの顔に傷を付けてはと、頬に手で触れようとすると、「触るなよ…」と、振り払われた。
「お詫びに、コーヒーくらい奢らせてくれない?」
彼とプライベートなんかで話せるめったにない機会を、みすみす逃す手もないからと、そう誘いをかけてみるけれど、
「いらねぇ…」
と、素っ気なく断られてしまった。
だけど彼のそんな冷めた性格は、もう何度も取材をしていることもあり、既にわかり切っていた。
「いいから、ちょっとだけ付き合って」
ここであっさりと引き下がったら、あとあと悔いるのが必至にも思えて、近くのカフェにやや強引に彼を引っ張り込んだ。
入ってしまえばこっちのものとばかりに、中へ背中を押し出すようにすると、カイは親指を噛むようにして、仕方なさげに「ちぃっ…」と、小さく舌打ちをこぼした。