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羽海汐遠
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初期設定の言葉
資料は、
いつの間にか届いていた。
紙の束は薄く、
角がきれいに揃っている。
床に座り、
背中を棚に預ける。
ベージュのカットソーは首元が少し伸び、
袖は肘で止まっている。
ズボンは柔らかく、
膝に沿って布が落ちている。
髪は短く整えられているが、
切りたてではない。
ページをめくる。
年齢。
環境。
推奨。
選択、ではない。
決定、でもない。
成長過程で、
自然に付与される言葉。
効果は最初から有効。
そう書かれている。
読んでいるはずなのに、
記憶が追いつかない。
選んだ覚えはない。
触れた覚えもない。
同意した場面も浮かばない。
それでも、
一覧を開くと、
確かに印がある。
付与済み。
最初から、
ここにあった。
だから、
疑わなかったのかもしれない。
速さ。
受け取り方。
反応の仕方。
自分の性質だと、
思っていた。
ページを閉じる。
レキシリーダに触れなくても、
その言葉は動く。
切れない。
薄れない。
設定は、
変更不可。
初期状態として、
ずっと有効。
床に置いた紙の束を、
そっと重ねる。
自分で選んでいない言葉が、
一番深く根を張っている。
それに気づいた今でも、
取り外す場所は、
どこにも見つからない。
初期設定の言葉は、
今日も、
何事もなかったように、
内側で働いている。
コメント
1件
読み終えました…なるほど。このエピソード、「初期設定の言葉」というタイトルがずしりと効いてきますね。「自分で選んでいない言葉が、一番深く根を張っている」—この一文にすべて集約されている気がします。同意も選択もないまま、気づいたら自分だと思い込んでいた性質が実は外部から付与された設定だったと知る、その静かな不気味さと諦念が、登場人物の何気ない所作の描写と合わさってとても鮮烈でした。特に「切れない。薄れない。」「変更不可」という冷淡な事実が、柔らかな日常描写の隙間から顔を出すバランスが絶妙です。これは物語の根幹に関わる伏線でしょうね…続きが気になります。