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古流斬
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87
チタコロ
323
短編「師匠の本音」
休日。
古流斬は花束を手に、防衛軍本部を出ようとしていた。
「……今日は一人で行くか。」
すると後ろから声がした。
「父さん!」
振り返ると、黒のユーマが立っていた。
「どこ行くの?」
古流斬は少し笑う。
「師匠の墓参り。」
「師匠?」
「誰なの?」
古流斬は静かに答えた。
「世間では悪人と呼ばれている人。」
「元マフィア幹部、ザッドさんだ。」
ユーマは少し驚く。
「悪い人だったんでしょ?」
古流斬は首を横に振った。
「確かに罪は犯した。」
「でも、俺にとっては違う。」
「マフィア時代、唯一優しく接してくれた人だった。」
「剣も、戦い方も、生き方も教えてくれた。」
「俺にとって、大切な師匠なんだ。」
二人は静かに墓へ向かい、花を供えた。
しばらく手を合わせたあと、帰り道を歩き始める。
その時、ユーマがゆっくり口を開いた。
「父さん。」
「実は俺……ザッドさんに会ったことがある。」
古流斬の足が止まる。
「……どういうことだ?」
ユーマは静かに話し始めた。
「あの時、借り物の身体で現れたんだ。」
「そして、父さんのことを話してくれた。」
ユーマはザッドの言葉を、そのまま伝える。
⸻
『……全部じゃない。』
『だが、思い出した。』
『古流斬と過ごした日々を。』
『まだあいつがマフィアだった頃だ。』
『よく俺を気にかけていた。』
『「無理するな。」』
『「一人で抱え込むな。」』
『そんな言葉を何度もかけてくれた。』
『俺は口にはしなかった。』
『だが、心の中では尊敬していた。』
『……あいつのことを。』
『マフィア社会にそんな感情は要らない。』
『仲間を信じれば裏切られる。』
『情を持てば命を落とす。』
『だから最後まで言えなかった。』
『……一度くらい、もう一度会いたかったな。』
⸻
古流斬は何も言わない。
ただ静かに聞いていた。
ユーマは続ける。
「最後にね。」
「ザッドさん、こう言ったんだ。」
⸻
『ありがとう……古流斬。』
⸻
その一言を聞いた瞬間。
古流斬の目から涙がこぼれ落ちた。
「……そうだったんですね。」
「師匠。」
「そんなふうに思ってくれていたんですね。」
何年も心の奥に残っていた後悔。
「最後まで本音を聞けなかった。」
そう思っていた。
だが違った。
師匠もまた、自分を大切に思ってくれていた。
古流斬は墓へ向き直り、静かに頭を下げる。
「ありがとうございました。」
「師匠。」
「あなたが教えてくれたことは、今でも俺の支えです。」
「俺は、あなたに恥じない生き方をします。」
風が優しく吹き抜ける。
その風はまるで、師匠が最後に微笑んだ時と同じように穏やかだった。
ユーマは黙って父の隣に立つ。
古流斬は涙を拭き、小さく笑う。
「……行こうか。」
「ああ。」
二人は並んで歩き出す。
師匠から弟子へ受け継がれた想いは、これからも古流斬の心の中で生き続けていく。
コメント
1件
うわあ……第124話、心に沁みました。 ザッドさんの本音をユーマが伝える場面、涙が出そうになりました。「ありがとう……古流斬」の一言に、何年もの後悔が救われる感じがして。師匠もあおいさんを見ていてくれたんだなって思うと、胸が熱くなりました。墓前に花を供えるシーンの静けさも、すごく良かったです。いいお話をありがとうございます🌷