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翌日も俊は現場で指示を出していた。ほぼ完成に近い店内はあとは細かい造作を残すのみだ。

客が快適に過ごせるスペースを生み出す為には最後の仕上げが最も重要だ。

だから俊は完成間際にはいつもこうして現場を訪れ最終チェックをしている。


俊が矢口と照明の位置についての微調整を終えた直後俊のスマホが鳴った。

電話は元妻の麻美からだった。


「もしもし?」

「俊? 今大丈夫?」

「ああ、今現場にいるからちょっと待って」


すぐ傍では金槌の音や電動工具の機械音が響いていていたので、俊はビルの廊下へ移動した。


「ごめん、どうした?」

「ううん、あのね、結婚が決まったから報告しようと思って」

「そうか、それはおめでとう! 良かったな!」

「ありがとう。でね、簡単なパーティーをやろうと思っているんだけれど俊も来られる?」

「もちろん行くよ。お祝いさせてくれ」

「嬉しいわ! パーティーは12月を予定しているの。もうすぐ招待状を送るからよろしくね」

「わかった」

「本当におめでとう! 今度は幸せになれよ」

「フフッ、元夫に言われるのもなんか変な感じね」

「俺が幸せにしてやれなかったからこれでも責任を感じているんだよ。でももう心配ないな。いや、本当に良かった」

「フフッ、相変わらず優しいんだから。でもありがとう。あ、あとね、うちの店、今月から三島デパートの本店へ出店しているのよ」

「凄いじゃないか! 三島デパートは老舗の一流だからなかなか入り込めないんじゃないか? そこへ店を構えるなんて凄いよ。仕事も私生活も絶好調だな」

「そう思うでしょう? それがねぇ今物価が高騰しているでしょう? だからオープン早々売り上げがイマイチなのよー。俊、今恋人とかいないの? いたら彼女を連れて来て売り上げに貢献してよー。結婚祝いだと思って!」

「ハハッ、この電話は営業も兼ねているのか?」

「フフッ、そうよ。本当はそっちがメイン」


麻美は楽しそうに笑った。


「実はさ、俺も最近付き合い始めたんだよ」

「えーっ、そうなのっ? 一体どんな人?」

「今までとは全然違うタイプかな?」

「っていう事は私とは真逆のタイプね? フフッ、じゃあ優しくておとなしい感じの人なんだ!」

「どうかな? 実は彼女、昔三島デパートの横浜店に勤務していたんだよ。だから本店へ行くと顔見知りがいっぱいいると思うんだよなぁ。一応誘ってはみるけれどあまり期待しないでくれよ」

「わかったわ。でも来てくれると嬉しいなぁ。その方にもお会いしたいし! あっ、じゃあ結婚パーティーには是非彼女も連れて来て! 2人で出席してよ!」

「うん、ありがとう。彼女に聞いてみるよ」

「よろしくね! 最後に俊のいい話が聞けて良かったわ。じゃあね!」

「ああ、本当におめでとう」


俊は電話を終えてしばらく考える。


三島デパートの本店といえば雪子の元夫と不倫相手がいる店だったような? そんな場所に果たして雪子が行ってくれるだろうか?

俊は少し悩みながらも雪子へメッセージを送ってみる。


【お疲れ様! 一つ頼みがあるんだけれど、今度一緒に三島デパート本店に行って貰えないかなぁ? あ、嫌だったらはっきり断ってくれて構わないから無理しないで】


雪子がメッセージを見たのは仕事を終えてロッカールームへ行った時だった。


(三島デパートへ? どうして?)


雪子は不思議に思いながら俊に返事を送る。


【どうしてデパートへ行くの?】


するとメッセージはすぐに既読となり返事が来た。


【俺の元妻が今度再婚するんだよ。そのパーティーに是非君も招待したいって言ってるんだ。で、その時に着る服をプレゼントしようかなと思って】


雪子はびっくりした。

俊と元妻が今でも良い関係を続けている事は聞いていた。その元妻が再婚する。そしてそのパーティーに雪子まで招待してくれるというのだ。

雪子の事まで気にかけてくれる元妻の心遣いに雪子は感動のようなものを覚える。

でもそれがなぜ三島デパートなのだろうか?


【服だったら自分で用意するわ。それになぜ三島デパートなの?】

【彼女のセレクトショップがそこへ出店しているんだよ。で、結婚祝いの意味も兼ねて売り上げに貢献してくれってさ。ちゃっかりしてるだろう?】


その説明に雪子はなるほどと思った。


でもデパートに入っているセレクトショップだとかなり高価な服しか取り扱っていないはずだ。

三島デパートの本店に出店出来るのはそれ相応の格のあるブランドじゃないと出店出来ない。


【凄く嬉しいけれどそんな高価なものをプレゼントしてもらうわけにはいかないわ】

【そんな事は気にしないでいいよ、俺が勝手にプレゼントしたいだけだからさ。ここはなんとか俺の顔を立てると思って頼む】


珍しく俊が頼み事をしてきたので雪子は考える。そこまで言われたら仕方ない。

それにせっかくめでたいお祝いの時にあれこれ言って水を差すのも申し訳ない。


【わかりました。じゃあお言葉に甘えて】


雪子はそう入力しながらなるべく安価なを服を選ぶようにしようと思った。


【ありがとう! じゃあ来週の木曜日で大丈夫?】

【はい、大丈夫です】

【それと、たしかあの店には君の元夫と不倫相手がいるんだよね。それでも大丈夫?】

【大丈夫です。私は何も悪い事はしていないので堂々としています】


雪子の返事を見て俊は驚く。そこには雪子の強さと覚悟のようなものが滲み出ていたからだ。

そして思わずフッと笑った。


【了解。また近くなったら連絡するよ】

【はーい】



スーパーからの帰り道、雪子はなぜか闘争心のようなものが湧き出て来るのを感じていた。

それは今まであえて目を背けていた問題に対峙するような感覚だ。


三島デパートの本店には俊之と不倫相手の河合みなみ、そして新たに俊之と関係を持ったもう一人の女性がいるのだ。

今までだったらそんな誘いは即断っていた。雪子はその人達と顔を合わせたくないからだ。

しかし今の雪子は違った。自分は何も悪い事をしていないのだから堂々としていればいい。今までのように自分が逃げ隠れする必要はないのだとはっきり思えた。


そして雪子が強くなった理由がもう一つある。それは息子和真から聞いた衝撃の事実だ。

離婚後の父子の面会の場にあのみなみが来ていたという事実だ。それに対して雪子はかなり強い憤りを感じていた。

絶対に許さない。それは奇妙な手紙を送ってきた俊之に対しても同じ気持ちだった。

もし二度と息子を苦しめるような事があれば、雪子は絶対に許さないと心に誓っていた。


「人の不幸の上に幸せは成り立たないのよ」


雪子はそう呟くと、しっかりとした足取りで自宅へ向かった。

その後ろ姿には母として、そして一人の女性としての凛とした強さが滲み出ていた。


51歳のシンデレラ

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コメント

3

ユーザー

雪子さん、そうですよ❗️👍️♥️ 貴女は何も悪くない‼️ 愛する人と手を繋ぎ 堂々と来店し、素敵なお洋服を買って貰い ラブラブ幸せなところを あの連中に見せつけてやりましょうね✊‼️

ユーザー

雪子さん強くなったな〜✨ もちろん和真くんから聞いた例の事でもその1つだろうけど、それは母としての強さで。 今の強さは母としてだけではなく夢の実現と、頼れて対等に接してくれる愛する人がいるという両方が合わさっての強さよね。 堂々と凛とした美しさを放ちながら乗り込んで欲しい✨

ユーザー

麻美さんから俊さんはの結婚パーティー🎉🥳連絡で急遽元夫と愛人2人がいるデパートにいくことになった雪子さん。 憎むべき3人から逃げずに正々堂々と俊さんと行くと決めた母の強さと元嫁としてのプライドも感じるわー‼️ 明らかに俊さんに会う前と今の雪子さんは心に秘めた力強さやプライドが格段に違うと思う👩‍🦰✨ せっかくの機会に2人で乗り込んでベストカップル👩‍❤️‍💋‍👩アピールして浅はかな3人の鼻をへし折って欲しい‼️

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