テラーノベル
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翌日から数日は、文字通り目が回るような忙しさだった。
仕事の山に追われ、連日帰宅が深夜に及ぶ日々。
尊さんとも、互いに残業が重なっているせいで、社内で顔を合わせる時間はあってもゆっくりと言葉を交わす余裕さえない。
そんなもどかしい状況下で、俺を支えていたのは
今週末に迫った一周年記念日という確かな目標だった。
(……よし、あと少し。頑張ろう)
自分に言い聞かせながら、残業疲れで鉛のように重い身体を引きずるようにして帰宅する。
這うようにして風呂を済ませ、吸い込まれるようにベッドへと倒れ込んだ。
(今日も疲れたなぁ……)
寝返りを打つ元気もなく、ぼんやりと天井を眺める。
ふと思い立ち、枕元の引き出しにそっと手を伸ばした。
中から取り出したのは、今日届いたばかりの細長い箱。
「……尊さん、喜んでくれるかな…」
静かな部屋に、独り言がこぼれる。
あの凛とした漆黒と、鏡のように磨かれたシルバーの輝き。
大人の余裕を感じさせるあのペンなら、きっと仕事に妥協しない尊さんに似合うはずだ。
使ってくれている姿を想像するだけで、疲れが少しだけ軽くなるような気がした。
けれど同時に、贈る瞬間のことを考えると、心臓が不規則なリズムを刻み始める。
脳内シミュレーションを繰り返すたび、尊さんの穏やかな微笑みが浮かんでしまい
まるで行き先を夢見る遠足前日の子供のような気分のまま、俺は深い眠りに落ちていった。
◆◇◆◇
そして迎えた、運命の記念日当日。
もちろん平日なので会社はあるが、期待に胸を膨らませて過ごしたせいか
仕事も驚くほどスムーズに片付いた。
待ち合わせたデートは夜からだ。
尊さんが予約してくれたという店、それは予約一年待ちとも囁かれる超有名店『Rêve Doux《レーヴ・ドゥ》』という高級レストランだった。
一般の会社員である俺たちにとって、そこへ足を踏み入れること自体が奇跡に近い。
「す、すごい………っ」
高層ビルの最上階。
到着してエレベーターを降りた瞬間、目に飛び込んできたのは全面ガラス張りのパノラマビューだった。
どの席からも宝石のような夜景が望める、あまりにも贅沢な空間。
本当にこんなところ、俺みたいな素人が入っていいのか……。
一流の調度品と洗練された空気に圧倒され、入り口で身構えてしまう。
「ほら、行くぞ」
立ち往生しそうになった俺の手を、尊さんは迷いなく掴んだ。
まるで姫様でもエスコートする王子のように、強く、けれど優しくリードして店内へと連れていってくれる。
コメント
1件
記念日キターーーー!!! 僕にとっても最高の日ですよ(*´ω`*) 僕も尊さんみたいに、エスコートしてくれる彼氏、彼女が欲しいです😭