リハが終わって、楽屋に戻ったときのこと。
ふと、ソファでふっかさんが岩本くんと並んで座ってるのを見つけた。
と言っても、ふっかさんはほとんど岩本くんに“もたれてる”みたいな状態だったけど。
「なぁ、今日さ、家戻る前にあの雑貨屋寄らない?前にふっかが欲しいって言ってたやつ、見に行こうよ」
「……え〜、行かなくていいよ。疲れてるし……」
ふっかさんが小さく笑いながら、少しだけ体を引こうとしたのを、岩本くんの手が逃がさなかった。
肩を抱かれるようにして、耳元で何か囁かれて——
「……はいはい、行きますよ」って、結局頷いてるふっかさん。
(また、か)
俺はそのやりとりを黙って見ていた。
ふっかさんは、いつもそうだった。
岩本くんの頼み事は、絶対断らない。
買い物も、台本の読み合わせも、食事の誘いも、そして——きっと、それ以上のことも。
たとえば。
リハのとき、ふっかさんの首元に赤く残ってた跡。
あれ、メイクで隠してたつもりかもしれないけど、俺には見えた。
(……岩本くんがやったんだろうな)
ふっかさんは押しに弱い。
でも、岩本くんはそれを知ってて、甘える。強引に、だけど優しく。
目をそらそうとしたとき、ふっかさんがふと、こっちを見た。
「あ、めめ。お疲れ」
「……お疲れ」
普段通りに返したつもりだったけど、視線は合わなかった。
どうしてか、まっすぐ見られなかった。
(ふっかさん、ほんとはどう思ってるんだろう)
嬉しいのか。困ってるのか。
それとも——もう慣れっこになってるのか。
「じゃ、あとで集合時間確認しよ」
岩本くんがふっかさんの背中を軽く押して、楽屋を出ていった。
静かに息を吐いて、ひとり残されたソファを見た。
ふっかさんの髪の後ろ、かすかに赤みが残る首筋が焼きついて離れなかった。
(あんなの、断らなきゃだめでしょ)
でも。
ふっかさんは、きっとまた笑いながら言うんだ。
「だって、照には勝てないんだよ」って。
ただの仲良し、のふりをして。
誰も気づかない角度で、ふたりだけの印をつけて。
仕事の合間にキスして、ふっかさんが断れないのをわかってて。
「ずるいな、岩本くん」
それでも、ふっかさんが笑ってるのを見ると、俺は何も言えなくなる。
幸せそうだったから。
ちょっと恥ずかしそうに、首を手で隠しながら。
「……もうちょっと、控えめにしてほしいな」
そう呟いたのが聞こえる。
——それが、なんか、悔しかった。
コメント
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これ🖤は💜に片想い設定かな??