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「……で、では、我は、文字通り、仮、と、いうやつ……か」
崇高《むねたか》は、紗奈の言ったことを受け、涙目になっている。
「崇高様、これは、良い機会ではございませぬか?夫婦になる約束をしていると、紗奈のご親族様に告げることができるのですよ。そのまま、知らぬ顔で、居座ったらよろしいんですよ。皆の手前、紗奈も、あからさまに追い返すこともできず、そして、あちらの、方々に気に入られてしまえば、話は早いでしょうし、もしかして、一緒にいたら、情が移って、紗奈だって……すんなりと……」
大きな包みを持った、橘が、二人を追いかけ、やって来ていた。
「そう、悲観なさる必要はないと思いますが?」
と、止めを刺すかのように、崇高を後押しした。
「なるほど!」
「そうそう、物は、考えようですわよ!」
「あー!ですよねー!橘様!やっぱり、お相手を連れて行った方が、皆を丸め込めますよねー」
紗奈は、橘の言い分に、なぜか、反論しない。
「あら、紗奈ったら、いつも通りの勘違いね。でも……」
と、言い含み、橘は、崇高へ、囁いた。
「……あの調子、その気になるのは、近いかも。崇高様、徳子《とくこ》と、呼んでおやりなさいな」
「おお!好いた者通しなのじゃろ?名を呼び合う方が、より、らしく見えるぞ!」
髭モジャまで、横から、口を出しをしてきた。
「あー!髭モジャ!そうだよねー!その方が、それっぽく見えるわ、確かにー!じゃー、崇高様、お願いしますっ!」
紗奈は、別段、気に止めることもなく、好きあった者の、振りを、始めようとした。
「ほれ、ほれ、崇高、今じゃ、この隙を突いて、女童子に取り入るのじゃ!」
髭モジャに、小突かれる崇高様だが、どこか、不思議そうな顔をしている。
「うむ、それは、わかった。そうしよう。いや、ぜひに。しかしだな、徳子殿というのは、一体……」
あーー!と、紗奈が、やっぱり呼ばないでくれと、恥ずかしそうに叫んでいる。
「常春《つねはる》様?意外と、上手く行きそうじゃないですか?」
橘が、言って、目配せしてきた。
「確かに。崇高様なら、諸々の問題も、検非違使の経験から、上手く処理できそうですし、官位も、ほぼ同等ですから、親族も、文句は言えないでしょう。が、自分達で、誰か用意していたなら……さて」
常春は、うーん、と、唸り、考え込んだ。
「あらあら、心配性の兄様だこと。常春様、なるようになります。あっ、そうだわ!常春様が、あちらで、誰か娶られると、上手くいくのではないですか?」
「え?!橘様!わ、私は、嫁など、まだ!」
焦りきる常春へ、橘は、キリリと顔を引き締めて、
「常春様、妹が、心配なのは、分かりますよ。特に、二人は、幼い時から助け合ってきたのですからね。でも、ご自分の事も、しっかりと見据えなければ。何より、敵地、に、向かうのでしょ?」
厳しい言葉をかけつつも、都から、新しい書物をお送りしますから。と、紗奈の為に、大学寮で博士《きょうじゅ》になることを目指していた夢を断念している常春へ、労うように微笑んだ。
その紗奈は……。
「いやーーー、やっぱり、無理ですっ!!」
「女童子よ!そこを、堪えなければ、ならぬのじゃ!崇高よ!ほれ、呼んでみろっ!」
なぜか、髭モジャに、指南を受けていた。
「おお、それでは、いきますぞ、女童子殿!」
「いや、崇高よ!そこは、女童子、じゃなかろうがぁ!」
発破をかける髭モジャへ、非常に、かしましい、声がかかった。
「やっぱり!髭モジャだわっ!紗奈ちゃん!おばちゃん達の言った通りだろ?!この男は、あんたのこと遊びだったんだよっ!!で、何かいっ?!結局、他の男を、すり付けようとしてんのかい?!」
現れた、おばちゃん達が、一斉に、髭モジャを非難した。
「いや、なんのことじゃ?!」
驚いたのは、髭モジャで、あわてて、おばちゃん達を見た。
「あっ、そうか、私、髭モジャと駆け落ちする事になってるんだ!おばちゃん達、まだ、覚えてたんだー」
はぁ、と、紗奈は困り顔で息をつく。
「あらまっ、また、ややこしくなりそう……」
呟く橘に、おばちゃん達が、即、食ってかった。
「橘さん!いいのかい!まあ、あんたらは、なんとか、収まったと、でも、変わりに、紗奈が!そりゃあー、あんたの、気持ちもわからないでは、ないけどね、ちょっと、これは、あんまりじゃないかい?」
「ああ、そうだよ、別の男をすり付ける、それも、また、モジャモジャを……」
おばちゃん達は、髭モジャと崇高を、交互に見た。
「ん?おばちゃん達、モジャモジャって??」
意味がさっぱりわからぬと、紗奈が、おばちゃん達へ確認すると……。
「あーれーまあー!」
「紗奈ちゃん!」
「ほれ、あんなに、モジャモジャ!」
おばあちゃん達は、崇高を指差して、
「まあ、毛深い男は、情が深いって言うじゃないか?」
「そういうやーそうだ」
「ちょいと!じゃー、髭モジャは?!極悪非道じゃないかい?」
「毛深さは、関係ないのかねー」
と、意味深な顔をしている。
「毛深さ?」
言われて、紗奈は、再び崇高を見る。
その脇では、極悪非道と呼ばれた、髭モジャが、どうゆうことじゃと、橘へ、おろおろとした視線を送っていた。
「おばあちゃん達、何をそんなに……」
橘も、話が飛びすぎて、どう答えれば良いのやらと、とりあえず、崇高を見る。
「うそっーーーー!!!」
「あれっ!モジャモジャ!」
紗奈と橘は、同時に叫んでいた。