TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


「……で、では、我は、文字通り、仮、と、いうやつ……か」


崇高《むねたか》は、紗奈の言ったことを受け、涙目になっている。


「崇高様、これは、良い機会ではございませぬか?夫婦になる約束をしていると、紗奈のご親族様に告げることができるのですよ。そのまま、知らぬ顔で、居座ったらよろしいんですよ。皆の手前、紗奈も、あからさまに追い返すこともできず、そして、あちらの、方々に気に入られてしまえば、話は早いでしょうし、もしかして、一緒にいたら、情が移って、紗奈だって……すんなりと……」


大きな包みを持った、橘が、二人を追いかけ、やって来ていた。


「そう、悲観なさる必要はないと思いますが?」


と、止めを刺すかのように、崇高を後押しした。


「なるほど!」


「そうそう、物は、考えようですわよ!」


「あー!ですよねー!橘様!やっぱり、お相手を連れて行った方が、皆を丸め込めますよねー」


紗奈は、橘の言い分に、なぜか、反論しない。


「あら、紗奈ったら、いつも通りの勘違いね。でも……」


と、言い含み、橘は、崇高へ、囁いた。


「……あの調子、その気になるのは、近いかも。崇高様、徳子《とくこ》と、呼んでおやりなさいな」


「おお!好いた者通しなのじゃろ?名を呼び合う方が、より、らしく見えるぞ!」


髭モジャまで、横から、口を出しをしてきた。


「あー!髭モジャ!そうだよねー!その方が、それっぽく見えるわ、確かにー!じゃー、崇高様、お願いしますっ!」


紗奈は、別段、気に止めることもなく、好きあった者の、振りを、始めようとした。


「ほれ、ほれ、崇高、今じゃ、この隙を突いて、女童子に取り入るのじゃ!」


髭モジャに、小突かれる崇高様だが、どこか、不思議そうな顔をしている。


「うむ、それは、わかった。そうしよう。いや、ぜひに。しかしだな、徳子殿というのは、一体……」


あーー!と、紗奈が、やっぱり呼ばないでくれと、恥ずかしそうに叫んでいる。


「常春《つねはる》様?意外と、上手く行きそうじゃないですか?」


橘が、言って、目配せしてきた。


「確かに。崇高様なら、諸々の問題も、検非違使の経験から、上手く処理できそうですし、官位も、ほぼ同等ですから、親族も、文句は言えないでしょう。が、自分達で、誰か用意していたなら……さて」


常春は、うーん、と、唸り、考え込んだ。


「あらあら、心配性の兄様だこと。常春様、なるようになります。あっ、そうだわ!常春様が、あちらで、誰か娶られると、上手くいくのではないですか?」


「え?!橘様!わ、私は、嫁など、まだ!」


焦りきる常春へ、橘は、キリリと顔を引き締めて、


「常春様、妹が、心配なのは、分かりますよ。特に、二人は、幼い時から助け合ってきたのですからね。でも、ご自分の事も、しっかりと見据えなければ。何より、敵地、に、向かうのでしょ?」


厳しい言葉をかけつつも、都から、新しい書物をお送りしますから。と、紗奈の為に、大学寮で博士《きょうじゅ》になることを目指していた夢を断念している常春へ、労うように微笑んだ。


その紗奈は……。


「いやーーー、やっぱり、無理ですっ!!」


「女童子よ!そこを、堪えなければ、ならぬのじゃ!崇高よ!ほれ、呼んでみろっ!」


なぜか、髭モジャに、指南を受けていた。


「おお、それでは、いきますぞ、女童子殿!」


「いや、崇高よ!そこは、女童子、じゃなかろうがぁ!」


発破をかける髭モジャへ、非常に、かしましい、声がかかった。


「やっぱり!髭モジャだわっ!紗奈ちゃん!おばちゃん達の言った通りだろ?!この男は、あんたのこと遊びだったんだよっ!!で、何かいっ?!結局、他の男を、すり付けようとしてんのかい?!」


現れた、おばちゃん達が、一斉に、髭モジャを非難した。


「いや、なんのことじゃ?!」


驚いたのは、髭モジャで、あわてて、おばちゃん達を見た。


「あっ、そうか、私、髭モジャと駆け落ちする事になってるんだ!おばちゃん達、まだ、覚えてたんだー」


はぁ、と、紗奈は困り顔で息をつく。


「あらまっ、また、ややこしくなりそう……」


呟く橘に、おばちゃん達が、即、食ってかった。


「橘さん!いいのかい!まあ、あんたらは、なんとか、収まったと、でも、変わりに、紗奈が!そりゃあー、あんたの、気持ちもわからないでは、ないけどね、ちょっと、これは、あんまりじゃないかい?」


「ああ、そうだよ、別の男をすり付ける、それも、また、モジャモジャを……」


おばちゃん達は、髭モジャと崇高を、交互に見た。


「ん?おばちゃん達、モジャモジャって??」


意味がさっぱりわからぬと、紗奈が、おばちゃん達へ確認すると……。


「あーれーまあー!」


「紗奈ちゃん!」


「ほれ、あんなに、モジャモジャ!」


おばあちゃん達は、崇高を指差して、


「まあ、毛深い男は、情が深いって言うじゃないか?」


「そういうやーそうだ」


「ちょいと!じゃー、髭モジャは?!極悪非道じゃないかい?」


「毛深さは、関係ないのかねー」


と、意味深な顔をしている。


「毛深さ?」


言われて、紗奈は、再び崇高を見る。


その脇では、極悪非道と呼ばれた、髭モジャが、どうゆうことじゃと、橘へ、おろおろとした視線を送っていた。


「おばあちゃん達、何をそんなに……」


橘も、話が飛びすぎて、どう答えれば良いのやらと、とりあえず、崇高を見る。


「うそっーーーー!!!」


「あれっ!モジャモジャ!」


紗奈と橘は、同時に叫んでいた。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

11

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚