「た、橘様、あ、あれは?!」
「ええ!!まあ!!何てこと!!紗奈には、少し刺激が強いかしら?!」
あーー、ちょっと……と、言い渋り、紗奈は、うつむくが、やはり、気になるのか、チラチラ視線を崇高《むねたか》へ向けつつ、橘へ問うた。
「橘様!あんなところが、モジャモジャって、どうゆうことですか?!」
「紗奈、ああゆう殿方も、いらっしゃるのですよ。でも、モジャモジャすぎるわっ!!」
「ですよーーー!!胸モジャすぎますよ!!!橘様!!」
「……胸モジャ……」
紗奈の、一言に、あははは、と、橘は、大笑いした。
「まあ!ほんと、胸モジャだわっ!!髭モジャの友が胸モジャだなんて!!」
笑いが止まらず、橘は涙ぐんでいる。
「うーん、それもだけど、崇高だけに、胸モジャって、できすぎてませんかっ??」
「胸《むね》モジャならぬ、崇《むね》モジャ?!」
橘は、さらに、声を上げ大笑いした。
「た、橘様、いくらなんでも……、崇高様に失礼では?!」
常春が、笑い転げる橘を、やんわり注意するが、崇高へふと目を移したとたん、ブッと、吹き出した。
「おお!崇高《むねたか》よ!女童子に、気に入られたようじゃぞ!よし!髭モジャと胸モジャで、供をするかっ!!」
はっはっは、と、髭モジャは、笑いながら、崇高の背をバシバシ叩いた。
「い、痛いぞ、髭モジャ!し、しかし、なぜ、我の、胸が、わかってしまったのだ?!」
「そりゃ、そんだけ袷《あわせ》がはたけていたら、モジャモジャが、はみだすって!」
おばちゃん達は言いながら、がはがは、笑っている。
崇高は、胸元を確認した。確かに。急いだ為か、袷を止める、結び紐を結び忘れている。その為、胸元が揺るんでいたのだ。
「おお、しまった。一番大事な所が!!」
「やだよぉーー!モジャモジャが、一番大事な所だなんてーーー!!」
おばちゃん達も、涙を流して、大笑いする。
「……こ、これは、失礼つかまつった。女童子殿、誠に、すまん!!!」
頭を下げる崇高だが、前屈みになった為に、胸元袷から、モジャモジャが、ワッサリと、飛び出した。
「うそっ!!モジャが、飛び出した!!!」
あははは、と、紗奈も、大笑いして、場は、すっかり、笑いの渦に包まれた。
「なんだか、わかんないけどさぁー」と、おばちゃん達が、笑いを堪えながら、紗奈へ言う。
「モジャに、耐えられなくなったら、遠慮しないで、戻っておいで。おばちゃん達が、面倒見てあげるから、この子達みたいにさっ」
「ああ、そうだよ!モジャが、偉そうぶったら、モジャモジャを引っ込ぬいて、戻っといで!紗奈の、一人や二人ぐらい、どうにでもなるんだからさっ」
「ああ、猫も、こんだけ引き取るんだ、紗奈ぐらい、軽いもんよ!」
じゃー、橘さん、また、明日手伝いに来るよ!紗奈、達者でな!と、わやわや、騒ぎながら、おばちゃん達は、去って行った。そして、その後を、猫が、ぞろぞろと、ついて行く。
まるで、潮が引くかのように、騒がしさは、消えたのだが……。
「橘様?なんですか?あの、猫の行列は?」
「ああ、なんだか、家のない猫は、おばちゃん達が引き取ってくれるって、あと、飼い主を探してくれるらしいけど」
いつの間に?!と、紗奈は驚いた。
「それが、よくわからないのよ。私も、あれこれ、裏方作業でバタバタしてたから。気がつけば、猫を連れて帰ることになってたの」
「まあ、おばちゃん達のことだから、あの猫達を見て、勝手に引き取るって、仕切ったんじゃないでしょうか?」
困惑する橘へ、常春が、口添えした。
「あーー、兄様、ありえますよねー」
「だろ?おばちゃん達だからなぁ」
そうでしょうね、きっと、だから……と、橘は、これからの裏方について、説明し始めた。
「屋敷の、下働き、裏方達はほとんど、賊の息がかかっていたでしょ?逃げ出してしまったから、当然、人手不足なんだけど、おばちゃん達も、仕事を失ったからって、こちらへ、来てくれるって。だから、たちまちは、どうにかなりそうなの、でも、表方の女房達が、足りないのよ……」
橘は、少し困った顔をした。すると、小さいが、しっかりとした驚き声が、いきなり、上がった。
「橘様!あの、おばちゃん達が、やって来るんですかっ!!」
なぜか、タマが、慌てている。
「あら、タマ?」
皆、タマがなぜ、慌てているのかと首を傾げる。
「だって、タマが、しゃべっちゃったら!もう、大騒ぎになるじゃないですか!それじゃあー、姫猫様とも、静かに暮らせないしーー」
「あーー、そうか、そうだわねー、今さら、タマ、黙っておいで、なんて、そんだけ喋ってんだから、できないだろうし」
「うわっ、上野様、じゃなかった、徳子様、厳しいー!」
だからっ、その名前は!と、紗奈は、相変わらず、焦っている。
「いや、あの、その、騒がせついでに、お聞きするが、徳子、と、呼ばれて、何故に、かように焦られるのか?女童子殿?」
崇高が、理由がわからぬと、グズグズ言っている。その、横で、
「おお!崇高よ!いや、胸モジャよ!徳子、と、呼べたではないか!」
髭モジャが、どこか、ズレた事を言っていた。
「ええ、それ、私も知りたいです!」
一の姫猫を抱いた、童子が、立っていた。
「ああ!晴康《はるやす》!」
常春が、嬉しげに声をかけた。
「え、ちょっと!なんで、猫ちゃん抱いた童子がいるの?!というか、兄様、あの子は、一体?」
あー、もうー。
タマが、呆れながら、紗奈を見た。
「常春様が、晴康って、呼んでるじゃないですかー上野様、じゃなかった、徳子様!」
「……タマ、あんた、わざとでしよ?!いいわよ!訳を話せばいいんでしょっ!」
紗奈は、少し苛立ちつつも、何故に、徳子という名前に、敏感になってしまうのか、語り始めた。
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