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#最後はハッピーエンド予定
#衝撃のラスト
山根利広
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あの後白紙さんは、自分で立ち上がることもできなくなった。
これ以上まだ顔色が悪くなるのかと驚くほどに真っ白になったのだ。
僕は白紙さんの腕を肩に回して、必死にあのタワーマンションへと連れ帰った。
「また使ったのか」
足立さんはこの状態の白紙さんを見ても、驚きもしなかった。
「すまないが、白紙を部屋まで運ぶのを手伝ってくれ」
足立さんは僕とは反対の腕を肩に回して、白紙さんを運んだ。
「ご苦労だった」
ベッドに横たわらせると、白紙さんは弱々しい声で言う。
先ほどまでの強かった彼は、急にしぼんで消えてしまった。いつもの偉そうな態度も、強がりにしか見えない。
二週間この家に住まわせてもらっていたのに、白紙さんの部屋に入るのは今回が初めてだった。
てっきり呪物やお札なんかでおどろおどろしい空間になっていると思ったのに、部屋は驚くほど淡泊だった。
ミニマリストというやつなのだろうか。家具は、ベッドと机と本棚しかない。
本棚には、オカルト本が所狭しと並べられていた。
白紙さんの境遇を思い出して、胸がチクリと痛む。
物が溢れているのは、本棚だけで机にはノートパソコンだけが置かれている。
本当にここで生活しているのかと疑いたくなるような部屋だ。
「類君、ここまでありがとう」
足立さんに声をかけられて、僕は気恥ずかしくなった。
家主の前で、じろじろと部屋を見るのは失礼だろう。
そう思って白紙さんに目を向けると、彼はもうすっかり眠っていた。
このまあ目覚めないのではないかと不安になる。
しかし寝返りを打つ姿を見て、僕は思い直した。
足立さんの態度からすると、今までも何度も何度も同じことを乗り越えてきたのだろう。
白紙さんなら、問題ない。
僕は、部屋を出る足立さんを追いかけた。
リビングに戻ってすぐに、足立さんが口を開く。
「よかったら、今日も泊まっていったらいいんじゃないか」
この発言には、意味がある。
続いて足立さんは、ゲーム機を取り出した。
彼は僕の弱点をわかっているし、僕も彼の弱点をわかっている。
「はい、ぜひ」
白紙さんには申し訳ないが、僕と足立さんの激闘は朝まで続いた。
ゴールデンウィークも半ばにさしかかった頃だった。
白紙さんが三日かけて、完全復活を遂げた。
初めはトイレに行くのも大変そうだった。
途中で力尽きたのか、廊下で寝ているところを慌ててベッドに抱えていったこともある。
だがたくさん寝て、驚くほどたくさん食べると次第に回復していった。
そして体を起こすことができるようになって、こうして三人でリビングのテーブルにつくことができている。
「急に体調悪くなったからびっくりしましたよ。あれは、なんだったんですか?」
「この神のせいだ」
白紙さんが憎々しげに言った。
彼の未来を握りつぶすだけでは飽き足らず、まだ影響を与えるのかと怒りが湧く。
「相当な大食漢らしい。普段から生命力のようなものが吸われているような感覚がある」
彼の顔色の原因が、今わかった。常に何かに生きる力を奪われていれば、そうなるのは必然だろう。
「だが神の力が発動した時は、普段とは非にならないほど持って行かれる」
果たしてそれは、一体どれほどの苦行になるのだろう。
「そんな……。あまり使わない方がいいんじゃないですか?」
「それはお前次第だろう。同行者くん」
「え?」
その時、インターホンが鳴った。
足立さんが立ち上がってモニターを見ると、すぐにオートロックを解錠していた。
来客だろうか。
少しして家の前のチャイムが鳴る。
この家は、エントランスのチャイムと部屋の前のチャイムでは音が違う。
一般的なピンポーンという感じなのだが、音の高さが違った。
エントランスの方が高くて、部屋の前の方が少し低い。
足立さんが玄関に向かった。
てっきり宅配業者で、すぐに荷物でも持って戻ると思っていた。
しかし、僕の予想は裏切られた。
家の中に客人が招かれたのだ。
「ひさしぶり。足立さん、白紙くん」
やって来たのは、女性だった。僕よりも明らかに若い。
ブリーチでもしているのか、胸まである髪は黄色に近いような金だ。
パーカーにデニムのショートパンツとかなりラフな出で立ちえをしている。
身長も女性では高い方だろう。僕と十センチ程度しか違わないように見える。
すらりと伸びる白い足が眩しい。
一言で彼女を表すなら、ギャルだ。
「はじめまして。|神野祈《かみのいのり》です」
その見た目から受ける軽薄さとは裏腹に、話し方は凜として芯がある。
まるでどこかの政治家の演説でも聞いているようだった。
「配信の手伝いで来てくれてる類くんだ」
「はじめまして、斎藤類です」
足立さんが紹介してくれたので、僕は慌てて頭を下げる。
白紙さんとは違うが、この子にも何か逆らえない格のようなものを感じる。
「祈ちゃんは神社の娘なんだよ」
足立さんが白紙さんの横の席を勧めた。
彼女は、僕の斜め向かいに腰掛ける。
これで四人掛けのテーブルは満席だ。
神社の子と言われて、腑に落ちた。
彼女から発される厳かな雰囲気は、それが理由なのかもしれない。
「また来たのか、ガキ」
隣に座る神野さんに、白紙さんがうんざりしたような言い方をした。
そういえば、どうしてこんなに若い女の子と関わりがあるのだろう。
呪いを解くためと言って、何か変なことをしていなければいいのだが……。
「いつもいつもガキガキうるさい。私もう成人してるのよ」
「へーそれはよかったな」
「この話もう五回はしてる! あと何回言ったら覚えるわけ?」
「さあな」
「聞いてるの⁉」
一瞬で目の前が戦場に変わってしまった。
いや、神野さんが一方的にマシンガンをぶっ放している。
先ほどまでの厳かな雰囲気から一変して、等身大の普通の女性が現れた。
「こ、これは一体……」
「いつものことだから気にしなくていいよ」
言葉を失う僕に、足立さんは優雅にコーヒーをすすりながら答えた。
足立さんのいつものことという言葉を、僕は信じられなくなっていた。
「……ちょうどいい。ガキ、お前同行くんを見ろ」
突然標的が僕に向いて、ぎくりと体を震わせる。
次の集中砲火の的は、僕になるのだろうか。
「は? 同行者くんって誰よ」
「そこにいるだろ」
「あ、僕のことです」
同行者くんでわかるわけがない。
そういう所に配慮がないのも、白紙さんらしい。
「またあんたは人をそうやってラベル化して!」
「いいから早く見てくれ。こいつこの間まで悪霊に取り憑かれてたんだ」
「それを早く言いなさいよ」
途端に神野さんの怒りの炎が消えて、すっと目が細められた。
真剣な表情に変わり、辺りに静寂が訪れる。
神野さんが僕をじっと見つめている間、まるで父親に怒られる直前のような感覚に襲われた。
神野さんだけではなく、何か別の者に品定めされているような気がしたのだ。
「……幽霊はいない」
神野さんは、考えながら言葉を紡いでいった。
彼女は今、所謂霊能者のようなことをしているのだ。
神社の子なら、それができても不思議ではない。
「でも、あなたすごく弱いわ。なんだろう、何か……霊との縁がたくさんできてるのが見える」
通り魔にでもあったような感覚だった。一体僕が何をしたのだろう。
心霊スポットもこの間が初めてだったのだ。
真面目に生きてきたはずなのに、あまりにも理不尽ではないだろうか。
「それって、僕がこれからも怖い目に遭うということですか?」
「残念ながらそうなるわね。別に護りがないわけではないけど……。うーん、なんだか変な感じ」
護りとはなんだろう。それがあれば、僕は縁があっても無事でいられるのではないか。
神野さんは僕の顔を見て、話をかみ砕いて説明してくれた。
「普通人間は、ある程度霊を避けることができる。生きている人間と死んだ人間。どちらが強いかわかるでしょう?」
それは僕でも答えることができる。
「だから基本的には何かをされても影響を受けない。そしてこちらも、その存在を見ることはない」
普通はそういう人生を送るのだろう。僕自身もこんなことが起こるまで、霊という存在は懐疑的だった。
「でも、中にはそっち側と噛み合ってしまう人がいるの。そうなったらどうなると思う?」
僕は少し考えて、口を開いた。
「それが霊にばれたら絡まれそうですね」
「そう。絡まれるなんて生易しいものではないけどね。今まで誰からも、何からもいないものとしてされてきた魂が、自分を苦しみから救ってくれるただ一人の存在だと思ったら……わかるわよね? しかも人間と違って寿命はないの。それはつまり、逃げ場のない悪意が蓄積していくということよ」
ぞっとした。
この間の女性もそうだ。
あの事件も、いつ起こったものなのかはわからないような古い事件だったはずだ。
つまりそれだけの間、あの女性は孤独の中であの男への憎悪を募らせていた。
――悪霊とは、そういうものだ。
白紙さんの言葉が思い起こされる。
僕はやっと、その言葉の神髄を理解した。
「そして……同行者くん? あなたは、霊から見るとすがりつきたくなるような人間なんだと思うわ。何かが、霊と近いみたい。だからなのか、今もどこかで目をつけられている。縁が繋がっている可能性があるわ」
僕の心に不安が一滴落ちた。水に落とした絵の具のように、じんわりと広がっていく。
「そんな……どうしたらいいんですか?」
「縁を切ることは私にはできない。相手が取り憑くとかしてくれれば、多少のお祓いはできるかもしれないけど」
神野さんは、一度考えてから頷いた。
「うん。だから、そういう場所には近付かない方がいいわよ。コイツがいれば話は別かもしれないけど」
「なるほどな」
白紙さんがまたふてぶてしい笑みを浮かべていた。
きっと僕にとって何か良くないことを考えているに違いない。
「同行者くんは、はっきり言って、こいつとの相性は最悪よ。心霊スポットなんて行かずに、生きていった方がいいわ」
また神野さんの怒りのボルテージが上がっていくのがわかった。
「聞いたか、同行者くん」
「え、なにをですか?」
「お前は霊がすがりつきたくなる人間らしい」
「確かに言われましたね」
「つまり、俺にとってお前は光だ。俺はお前を心霊スポットでただ吊せばいい。そうすれば、光を求めた虫がやってくるわけだ」
「たとえが悪すぎますよ。それに僕が危険な思いをするってことじゃないですか」
「問題ない。俺がいる限りな。それに」
「こんな便利なアイテム、壊すわけないだろ」
白紙さんの方が、悪霊なのではないだろうか。
その後も、神野さんのマシンガンはしばらく止まらなかった。
コメント
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おお、新キャラ・神野さん登場か!ギャル見た目なのに神社の娘で霊能者ってギャップがすごいな。白紙さんとの掛け合いも軽快で笑ったわ。「同行者くん」呼びが定着しつつあるのも面白い。 それにしても、類くんが「霊にすがりつかれる体質」って診断されたのはヤバいな…。白紙さんの「便利なアイテム」発言にもゾッとしたわ。でも弱ってる白紙さんを運ぶシーンとか、足立さんとゲームで朝まで対決とか、日常パートの温かさもあってバランスいいな。次が気になる🔥