テラーノベル
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神野さんが帰ったとき、空は茜色に染まっていた。
結局何か用事があるのかと思ったが、足立さんは定期的に来ているだけと言っていた。
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴った。
低い音だ。
もしかしてまた神野さんが戻ってきたのだろうか。
「あれ、祈ちゃん忘れ物かな」
足立さんが立ち上がって、インターホンの画面を覗く。
そして不思議そうな顔をしてから、すぐに戻ってきた。
「誰もいなかった」
「ガキの悪戯じゃないのか」
「違うみたいだよ。そもそも祈ちゃんはそんな悪戯しないさ」
一瞬訝し気な顔をした白紙さんだったが、こくりと頷いた。
「足立さんが言うならそうなんだろう」
白紙さんは時計を見て、テーブルから立ち上がる。
そしてパーカーを羽織って出てきた。相変わらず全身真っ黒だ。
「白紙さん、どこか行くんですか?」
「バイト」
まるでF1カーのように、音だけ置いて彼は家から出て行ってしまった。
「白紙さんってなんのバイトしてるんですか?」
不意に気になったので、僕は足立さんに尋ねてみる。
「コンビニだよ」
僕はコンビニで働く白紙さんを想像しようとしたが、できなかった。
そもそもあの白紙さんが、働いているイメージがない。
「ちゃんと働けてるんですかね……」
「まあ大丈夫だよ。ああ見えて、真面目なところもあるからね」
足立さんが言うなら、そうなのかもしれない。
僕はそろそろお暇しようと、自分の荷物を片付け始めた。
「そういえば、足立さんって白紙さんの叔父なんですよね?」
「そうだよ」
「白紙さんの家族って……」
足立さんは、答えようとして口を開いた。
しかし言葉が見つからないのか、すぐに口を閉じた。
聞いてはいけないことだっただろうか。
最近一緒にいることが多かったから、調子に乗ってしまったかもしれない。
「あの、無理しなくても……」
大丈夫ですという言葉は、遮られた。
「あいつの両親は、クソ野郎だよ」
足立さんは吐き捨てるように言った。
あの穏やかな足立さんに、クソと言わしめた白紙さんの両親。
この家族には、深い闇があるのかもしれない。
僕なんかが踏み込んでいいことではない。
他人なのだから。
重くなった空気の中に、沈黙が流れる。
何か言わなくては。
そうだ、こんなことを聞いてすみませんと頭を下げるべきじゃないか。
「白紙は」
足立さんが沈黙を破った。
俯いたまま、深く息を吸っている。
「実の両親から呪いをかけられた」
稲妻に打たれたような衝撃だった。
両親とは家族で、愛し愛される存在ではないのか。
世の中に色んな事情がある人がいるのも知っている。
それでも、自分で産んだ子供をまるで——。
「あいつらは白紙を殺そうとしている」
足立さんは僕の考えていることがわかっているかのように言葉を発した。
そう、これは殺人ではないか。
自分で産んで、育てて、殺す。
あまりにも身勝手ではないか。
「それは確かにクソ野郎ですね。僕も許せません」
足立さんの目をまっすぐ見据えて言った。
白紙さんの心は、ここまで来るのにどれほどぼろぼろになってきたのだろう。
僕のできることは本当に小さいものかもしれない。
それでも、僕は必ず白紙さんの味方でいよう。
そう決意した時だ。
ピンポーン
またチャイムが鳴った。
低い音だ。
今度はオートロックではなく、家の前のインターホン。
どうして開錠していないのに、いきなり部屋の前のインターホンが鳴るのだろうか。
そこまで考えて、先ほど白紙さんが神野さんの悪戯と言っていたのを思い出した。
あれからもう三十分経っている。そんな時間をかけて悪戯をするとは思えない。
「はい」
足立さんがインターホンに向かって話していた。
僕も近くに行って、様子を伺う。
カメラには家の前の共用廊下が写っているが、誰もいない。
白い壁と廊下、それから向かいの部屋の黒い扉が見えるだけだ。
もしも悪戯ならば、どこかの死角に隠れている可能性もあるだろう。
いや、悪戯ではなく不審者の可能性もある。
このマンションは見るからに金持ちが住んでいそうだ。
泥棒が目星をつけていてもおかしくはない。
足立さんは躊躇いなく玄関へ向かい、扉を開いた。止める間もなかった。
誰もいない。
開いた扉の隙間から、不審者が入り込んでくることもなかった。
足立さんは扉を閉めて、ゆっくりと戻ってきた。
「悪戯にしてはしつこいですね」
「ああ」
足立さんは生返事だった。
少し何かを逡巡した後、また口を開いた。
「類くん。君は私を勘違いしているようだが、私も白紙を助けなかったうちの一人だ」
コメント
1件
ああ、なるほど...白紙さんの両親、そこまでの闇があったんだな。足立さんの「クソ野郎」って言葉、あの穏やかな人がここまで言うんだって重みがあって刺さったわ。それに主人公の「必ず味方でいる」って決意も熱い。でもラストのインターホン不審すぎるだろ...誰も映ってないのに鳴るってホラーじゃん。足立さんが「私も助けなかった一人」って言い出したところで次回が気になりすぎる🔥
#最後はハッピーエンド予定
#衝撃のラスト
山根利広
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