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田村はシーズン中、自宅に帰ることができないため、2、3日に一度は妻(紀子)に電話を入れることにしている。
そして、田村はいつものように紀子の携帯へ連絡を入れた。
「紀子、元気にしているか?」と田村が言うと、
「元気よ。いつもそんなことを聞かないのに一体どうしたの? 何か変わったことでもあったの?」と紀子が聞いた。
「いや、特にないよ」と田村は言ったが、あの話だけはしようと思った。
田村が病院で出会った少年が白血病と闘っていること、そして、その少年の誕生日にホームランを2本打つと約束をしてしまったことを話した。
「俺にホームランが打てると思うか?」と聞くと、少し間があって、
「今のあなたなら無理かもしれない」と紀子が言った。
「やっぱり無理か」と田村が言うと、
「違うの、もし、あなたが今の気持ちのままだったら、打てないという意味なの」
「どういうこと?」
「今のあなたは、以前のあなたとは違っている。5年前のあの事故の時から、私には二度と子供が産めなくことで、あなたがずっと落ち込んでいたのは分かっていた。でも、私はもっと辛かった。あなたには自信を持って、もっと強くなって欲しかった。あなたなら絶対にできると私は信じてる。あなたが高校生だった頃のことを思い出してほしいの。大地君のためにホームランを打ってね」と紀子が言ってくれた。
「ありがとう。昔のように打って見せるよ」と田村は言って電話を切った。