嫌い。
大嫌い。
だから私は_あの子が嫌い
明るいあの子が嫌い。
面白いあの子も、優しいあの子も大嫌い。
あの子さえ居なければ。
けど、
そんな事を考える自分が
1番嫌いだ。
「『あの子』に勝ちたい」と。
彼女は言った。
「『白金 椿』に勝ちたい」と。
彼女は言った。
あの後、もう遅いから明日にしようという話になり、一旦解散することになった。
なんで親友なのに勝ちたいと思うんだろう。
分からない。
けどそれなりの理由があるんだろう。
そんな事を考えていると玄関のドアが開いた。
「ただいま〜、優、いい子にしてた?」
「…もうそんな歳じゃないんだけど。」
「お母さんからしたら何時までもアンタは子供よ!!あ、今日はハンバーグ?美味しそ〜」
お母さんが好きなハンバーグ。
俺も大好きなハンバーグ。
今ではもう小さなメモ帳に書かれたレシピを見なくても作れる。
俺が唯一作れる得意料理だ。
「優も料理上手くなったわねー、お母さん感動」
そう言ってお母さんはナイフとフォークを使ってハンバーグを切る。
「ねぇ。母さんって学生の時、親友とか居た?」
なんとなく、お母さんなら俺の疑問に答えてくれると思った。
「え、何よいきなり。まあ、居たっちゃ居たわね。」
「親友に勝ちたいって思った?」
「えぇー。んー、そうね、誰でも自分に持っていない部分を羨ましいと思うのは当たり前の事じゃないかしら?」
「そっか」
そういうものなんだ。
俺には良くわからなかった。
「優だって、小学生の時とか中学生の時とか親友ぐらい居たでしょ?なら分かるんじゃない?」
「…そうだね」
親友…。
俺に居たことなんて。
「あー、もう今では連絡取ってないからなんか懐かしくなっちゃった。あ、ハンバーグありがとね、ご馳走、美味しかったよ」
お母さんはそのままお風呂に行ってしまった。
「では!第一回ユメ部の部活動を始めます!」
「で、なんで裏庭なんだよ」
ハルに集められて、俺と赤花は裏庭に来ていた。
「別に部室でも良かっただろ」
「それはね〜、あの部室は選ばれた者しか入れないからだよ?」
選ばれた者?
なんだそれ。何に選ばれたんだよ。
「ま、厳密に言えばある特定の条件を満たした者って感じかな!」
「それって扉が突然現れたり消えたりするのもそのせいなのか?」
「まあね〜 」
その時黙って話を聞いていた赤花が口を挟んできた。
「ちょっと、私を置いて話さないでくれない!?っていうか何その現実離れした話!!そもそもユメ部って何!?初めて聞いたんだけどその部活!」
「まあまあ、落ち着いてよ。とりあえず僕たちは君の夢をサポートしてあげるって事だけわかってくれれば良いさ!」
ハルが赤花をたしなめる。
「その話自体怪しいじゃない!」
「大丈夫、信じてくれていいよ。なんなら契約書でも書く?」
「はぁ〜…もういいわ、好きにして」
「ありがと〜♪」
どうやらハルの押しに呆れたようだ。
気持ちは分かる。
「終わったか?なら聞かせてもらうが、赤花はなんで白金先輩に勝ちたいんだ?」
「優くん〜案外、部活動に乗り気だねぇ?僕嬉しいなぁー」
賭けに勝つため仕方なくだ。
絶対退部してやる。
「なんでって言われても…。」
「なら質問を変える。何で勝ちたいんだ?勉強?運動?それとも他の物か?」
「…考えて無かったわ。 」
「はぁ?」
考えて無かったのか?
勝ちたいのに?
「ちょっと、そんな呆れたような目で見ないでよ!!…なんでも良いのよ、勝てればそれで。あの子はなんでも出来るから。私はそれに勝ちたいの。」
ふーん、そんなものか。
「うーん、僕も椿さんの事を調べてみたんだけどね?彼女、生徒会長に加えて、成績トップ、運動もこの前部活を大会優勝に導いたらしいよ?」
ハルはいつの間に調べたんだ…。
「そうなると…勉強や運動で勝つのは難しいか?」
うーん、と皆が唸る。
流石は生徒会長。強いな…。
「…あれっ、杏?こんなところでどうしたの?」
突然声がした。
「えっ…!椿!?」
赤花が驚いた声を出す。
そこには、話題の中心、生徒会長本人が居た。
「ここでお花に水をあげていたのだけれど…杏が見えて、つい声をかけちゃったの 」
白金先輩は微笑みを浮かべる。
「…そうなんだ。…椿、今から帰り?一緒に帰ろっか」
「でも、そこのお二人は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。そんなに大事な話してなかったから。」
「…?そうなんだ、なら帰ろう?」
ごめんね、と申し訳無さそうに言って赤花は白金先輩と帰ってしまった。
「目の敵にしている人とよく帰れるな」
そう思ってつい独り言を言ってしまった。
それが聞こえていたのかハルが言う。
「人間関係なんてそんなものだよ。皆、本音は隠して人付き合いしてるんだ。例え相手が嫌いでもね。」
「…。そうか。」
やっぱり俺にはよくわからないと思った。
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