テラーノベル
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翌朝。私はアンナに、金庫から「調査費」を取り出すように命じた。
「アンナ、サファイアを商業ギルドへ持ち込みなさい。これを『魔法複写機(マジック・コピー)』の触媒(インク)にするのよ。……それから、石鹸工房の浸水被害に関するギルド公報をすべて揃えてちょうだい」
金庫から取り出した宝石を掲げるアンナの手が、小刻みに震え出した。
「お嬢様、本気の本気の本気ですか!? これ、一粒で百万ルクは下らない、最高級サファイアなんですよぉ! 複写機のインクにするなんて……機械に入れたら、粉々に砕け散っちゃうんですからね!? もったいない、もったいなさすぎますよ!」
この世界の魔法は王族の特権だが、魔道具を通じて「インフラ」としても浸透している。
攻撃魔法『青狼の炎』を封じた「不滅の魔導ランプ」は、今や一家に一台の必需品だ。また、防御魔法を基礎にした「剛壁の建築法」により、地震でもびくともしない家が建ち並んでいる。
だが、事務処理用の『魔法複写機』だけは別格だった。
インクの代わりに宝石を消費する。安物の屑石では文字が滲むが、高純度の宝石を使えば、原本を凌駕するほど鮮明な写しが得られるのだ。
「いい? アンナ。それだけの価値がある情報ってことよ」
私はアンナを射抜くように見据えた。
「これ一粒で、3000万ルク以上の横領の証拠が掴めるわ。……単純計算でROI(投資利益率)は3000%。おまけに元手は殿下から『もぎ取った』……コホン、頂戴したものだから、私の持ち出しは実質ゼロ。利回り無限大の、完璧な投資じゃない?」
「……っ!」
「ギルドのある地域はスラムが近くて治安もあまりよくないわ。あの金のボタンで最高の護衛と馬車を手配しなさい。……お釣りは全部、あなたの出張費にしていいわよ」
アンナは一瞬だけ目を丸くして固まったが、やがて覚悟を決めたように深く頭を下げた。
「は、はいっ! 承知しました! 私、全力でいってきます!」
「期待しているわよ、アンナ」
慌ただしく部屋を飛び出していく背中を見送りながら、私は再び書類の山へと向き直った。
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