テラーノベル
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ここのお屋敷の息子?
部屋を間違えたのかな。
なんでコスプレのまま寝ているのだろう?
とりあえず同じベッドはマズいよね。
陽菜は眼鏡を着け、前髪で目を隠す。
そっとベッドを降りようと布団を退けると、綺麗なグレーの眼が開いた。
アレクサンドロと同じグレーの瞳。
つけ耳のコスプレをしている青年はなぜか上半身が裸だ。
「おはよう、ヒナ」
「あ、えっと、あの、アレクサンドロ様の飼い主さん……ですか?」
「アレクサンドロだよ」
犬の名前がアレクサンドロ。
飼い主の名前もアレクサンドロ?
ヒナが首を傾げると、つけ耳のアレクサンドロは笑った。
「食事をしながら話そうか」
「っ!」
ベッドから降りようとしたつけ耳のアレクサンドロは、上半身だけでなく下も身に着けていなかった。
「み、見ていませんっ!」
驚いたヒナが慌てて顔を布団で隠す。
お尻? というかコスプレの尻尾しか見ていません!
焦った様子のヒナを見たアレクサンドロは声を上げて笑う。
「ごめん、ごめん。もう服を着たから安心して?」
もう顔を上げても大丈夫だと説明されたヒナはゆっくりと顔を上げた。
なんで服を着てもつけ耳と尻尾を外さないの?
そんなに犬好きなのかな。
ずっとコスプレ?
それにあの尻尾はどうやって動かしているのだろう?
あんなにふさふさと。
「あの、アレクサンドロ様はどこに?」
「俺だけど?」
「あ、いえ。ワンちゃんの方です」
つけ耳のアレクサンドロは、サイドテーブルに置かれていたヒナのハンカチを手に取ると、クルッと手首に巻く。
場所はヒナが子犬に巻いてあげた右手首だ。
「犬じゃなくて狼ね」
「狼?」
「狼族……知らない?」
つけ耳のアレクサンドロが尋ねると、ヒナは首を横に振った。
狼族?
狼?
つけ耳と尻尾のコスプレ?
どちらもアレクサンドロ?
狼のアレクサンドロがつけているネックレスと似ているネックレス。
狼のアレクサンドロの毛色に似た黒とグレーのメッシュの髪。
同じグレーの眼。
つなぎ合わせると、とんでもない結論に。
「けがの手当てありがとう」
アレクサンドロが手首に巻いたヒナのハンカチに口づけをする。
ヒナは信じられないと固まった。
軽く身支度を整えたヒナはアレクサンドロに連れられて隣の部屋へ。
正面にもソファーがあるのに、なぜかアレクサンドロは隣に座った。
狼の時と座る位置が同じだ。
「これも美味しいよ」
「あ、ありがとうございます」
にっこり微笑み、さぁたくさん食べてとグレーの眼で見つめられる。
イケメンの笑顔は破壊力が満点。
狼の耳も反則だ。
「話をしたかったのに魔力不足で狼だったから、やっと話せるよ」
「あの、魔力って何ですか?」
不思議な質問をするヒナに驚きながらも、アレクサンドロは魔力や狼族について教えてくれた。
魔力は誰でも持っている物。
狼族は魔力が不足すると狼に。
今は半分魔力が戻った状態なので耳と尻尾が残っている。
魔力が多ければいつでも狼と人型に変身できるが、いつも服が困るとアレクサンドロは笑った。
「ここは狼族のヴォルク国。ヒナと出会ったのは人族のチェロヴェ国」
「人族?」
私は人族でいいのかな?
「森の途中で大きな狼に戻った所、あそこが国境」
人族のチェロヴェ国には結界があり、魔力が制限されるので小さな狼の姿だったとアレクサンドロは教えてくれた。
「騎士の攻撃にあって、なんとか森まで逃げたけれど血が止まらなくて」
ヒナのおかげで助かったと言いながらアレクサンドロはステーキ肉をパクッと食べた。
「あんな小さな姿だったのに騎士が攻撃したの?」
あのときは子犬だと思った。
小さくてふわふわで可愛いのに、騎士が攻撃?
「チェロヴェ国は獣が嫌いなんだ。ずっと入れなかったんだけど最近結界が緩んでいるみたいでね。ちょっと入ったら即攻撃」
ひどいよねとアレクサンドロは肩をすくめた。
「ヒナは? どうしてあんな森に?」
「あ、えっと……」
どうやって説明したらいいのだろう?
自分でも何が起きたかわからないのに。
「……言いたくない?」
心配そうな目で見つめるグレーの眼。
この目は反則だ。
優しそうで、強そうで、頼りたくなってしまう目。
ヒナは手に持っていたフォークを置き、俯きながら自分に起きたことを話した。
突然知らない場所に来て、言葉がわからなかった。
自分の他にあと二人いたけれど、自分だけが城から追い出され、雨の中、行く場所も食べる物もなく彷徨ったと説明すると、泣きたくないのにヒナの目からは涙が溢れた。
「今日、出て行きますね」
お礼ができるものを何も持っていなくてごめんなさいとヒナが謝ると、アレクサンドロはヒナの手をギュッと握った。
「ここにいて」
「で、でも」
「ヒナは命の恩人、なにかお礼がしたい。それに知らないところに来たのなら、ここのことを学んでからじゃないと危険だ」
優しいアレクサンドロの言葉がうれしい。
突拍子もない話なのに、この世界じゃない所から来たって信じてくれるの?
頭がおかしい子だって思わないの?
正直、ここにいられるのは助かる。
今の自分はお金の単位も、食べ物の買い方さえわからないから教えてほしい。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えてしばらくお世話になります」
ヒナが微笑むと、アレクサンドロはペロッとヒナの頬の涙を舐めた。
「っ!」
な、舐め、舐めっ!
近い。
イケメンが近い。
イケメンに耐性がない自分が悲しい。
真っ赤になって焦るヒナ。
「可愛い」
アレクサンドロは上機嫌にふさふさの尻尾を揺らしながらニヤリと笑った。
「今、ヒナが一番知りたいことは?」
「えっと、お金? 自分でお金を稼ぐにはどうしたらいいですか?」
お金がなければ食べ物も買えない。
住み込みの仕事があるのか、どんな職業があるのか知りたいとヒナが言うと、アレクサンドロは驚いた顔をした。
「誰かの紹介があれば働けるけど、でも今は仕事があまりないね」
不景気なのかな?
前の世界も、バイトの曜日を減らされたり、時間を短くされたけれど。
「魔力が高ければ仕事につきやすいよ」
「魔力……?」
「ヒナは魔力もよくわからないんだよね? 魔力の練習からしてみる?」
「練習したい! ありがとうアレクサンドロ様!」
嬉しそうにヒナが笑うと、アレクサンドロはヒナの手を握った。
「アレクって呼んで」
グレーの目で真っ直ぐに見つめられ、ヒナの胸がドクンと弾ける。
手をゆっくり持ち上げられ、指にキスされたヒナは真っ赤になった。
魂が抜けそう……。
ここはホストクラブ?
行ったことはないから勝手なイメージだけど。
コスプレホスト。
犯罪でしょ。
「アレク様、少しよろしいでしょうか? 陛下がお呼びです」
扉をノックする音と共にユリウスの声が聞こえてくる。
「あぁ、すぐ行く。一人にしてしまうけれど、ヒナは大丈夫?」
「えっ、あ、う、うん。大丈夫。本、読んで待っています」
動揺する気持ちを押さえながらヒナが本棚を指差すと、アレクサンドロはゆっくりと立ち上がった。
「行ってくるね」
「は、はい。いってらっしゃい」
ひらひらと手を振りながら部屋を出て行くアレクサンドロの頭には三角耳、お尻にはふさふさ尻尾。
狼族?
オオカミ?
狼男?
ヒナは信じられない状況に、ぽふんとソファーに倒れ込んだ。
「お呼びですか? 父上」
朝からお説教は勘弁してと溜息をつきながら、アレクサンドロはユリウスと共に謁見の間を訪れた。
「勝手にチェロヴェ国へ行ったそうだな」
無茶ばかりするな、万が一があったらどうすると国王がアレクサンドロを叱る。
「だが収穫があった。チェロヴェ国から連れてきた娘は聖女だ」
「聖女だと?」
「あぁ、あの娘の膝の上にいたら怪我が治った」
呼ばれた聖女は三人。
二人は今もチェロヴェ国にいるがヒナだけ追い出された。
この世界のことも、狼族のことも、魔力のことさえ知らない娘。
良いものを拾っただろう? とアレクサンドロは得意げに笑った。
「なぜ追い出された?」
「言葉が通じなかったと言っていた」
チェロヴェ国の言葉はわからず、ここ、ヴォルク国で言葉がわかるとはおかしいけれど。
チェロヴェ国もヴォルク国も同じ言葉、世界共通語を使っているのに。
「嘘を言っている可能性は?」
宰相の問いに「さぁ」とアレクサンドロは答えた。
今の時点では情報が少なすぎて何も判断ができない。
聞き出そうと思ったけれど、まだうまく聞き出せていない。
「しばらく側に置く。ユリウス、逃げられないように協力しろ」
「かしこまりました、アレク様」
追い出されたのがどんな理由だとしても「治癒」が使えるのは貴重。
大地に治癒を行えば、実り豊かな土地に。
さらに結界まで張れれば周辺国からの侵入もなく、安全な土地になる。
人族のチェロヴェ国は今のところ結界があり手が出せない。
鳥族のプチィツァ国、熊族のミドヴェ国、豹族のレパード国とはもう何年もにらみ合いが続いている。
「とりあえず魔力操作を教える約束をした。ユリウス手配を頼む」
「ではベテランの講師を」
「ヒナは男に慣れていない。若くて女の扱いに長けている者にしろ。惚れさせてこの国のために働かせる」
良い案だろう? とアレクサンドロはニヤリと笑った。
「お前に惚れさせればいいんじゃないのか?」
聖女を娶れば国は安泰。
妃にすればいいだろうと言う国王の言葉をアレクサンドロは軽く受け流した。
ヒナは長い前髪と黒縁眼鏡で顔を隠していて、どんな顔かよくわからない。
森の中で一緒に寝たときは温かくて安心するようないい匂いだった。
だが、ここへきてからは全く匂いも温かさも感じない。
「まぁ、がんばるよ」
「おい、待てアレク、話はまだ」
引き留める国王を無視し、ひらひらと手を振りながらアレクサンドロは退室した。
まずはどのくらいの魔力を保有しているか。
治癒はどのくらい使えるのか。
結界を張れるほどの力はあるのか。
確認したいことはたくさんある。
「客室の方がよいのでは?」
「いや、一緒でいい。逃げられても困るし、聖女だとバレれば他国に狙われる」
「ですが、年頃の男女が同じ部屋というのは」
「いっそ既成事実でも作れば国のために働くだろうか?」
好みではないが国のためなら抱くのは構わないと言うアレクサンドロにユリウスは溜息をついた。
「それは最終手段でお願いします」
彼女の気持ちも考えてください。というユリウスに、アレクサンドロは冗談だと笑った。
食事は一緒に食べたが、その他の時間アレクサンドロはほとんど部屋にいなかった。
話し相手もいないし、スマホもないし退屈だ。
そしてなにより問題なのはこの筋肉痛。
たくさん歩いたせいで、足の裏も太腿も、そしてなぜか腰まで痛い。
ヒナは一日中ほとんどソファーでダラダラしながら過ごした。
夜には別の部屋に案内してもらえると思っていたのに。
ヒナはアレクサンドロの「そろそろ寝ようか」の言葉に驚いた。
「あ、あの、アレク様。私、リビングのソファーで寝ますので」
「今朝まで一緒に寝ていたのに?」
「狼族だなんて知らなかったし、そのっ」
真っ赤になりながら手を前でブンブン振るヒナ。
アレクサンドロはくすっと笑うと狼の姿になった。
ブルブルと身体を振り、服を脱ぐ。
ベッドに上がると、枕の横で伏せをした。
この姿なら良いのだろうということだろうか?
でも、もう狼ではない姿を知ってしまったのでイケメンの隣でなんて眠れない!
ムリ!
ムリムリムリ!
部屋が欲しいなんて言わないので、せめてソファーで。
ソファーがダメなら床でも構わない。
どうやって説得しようか考えるはずだったが、狼の姿のアレクサンドロはとても温かく、すぐに布団がポカポカに。
「……寝るか? この状況で」
狼から人の姿に戻ったアレクサンドロは、ヒナの寝顔を見ながら苦笑した。
コメント
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あおいです🕊️ 第3話、一気に世界観が広がってドキドキしました! アレクサンドロが狼族で、しかもあのふわふわ尻尾がコスプレじゃなかった衝撃…。ヒナ視点だと「イケメンが近い…!」ってなるのもわかるけど、アレク視点ではちゃんと計算して聖女を囲い込もうとしてるのがまたニクいです。両方の視点が交互に出てくる構成、おしゃれで好きです。次が気になります!
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