テラーノベル
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警戒心がなさすぎるだろう。
ベッドに横になってから10分も経たずに規則正しい息使いが聞こえはじめたヒナ。
男として全く意識されていないということ。
この俺が?
寝顔は幼い。
アレクサンドロはヒナの前髪を退けた。
顔のバランスは悪くなさそうだが、なぜいつも目を隠しているのか。
傷を隠しているというわけでもなさそうだ。
前髪が長く、普段目はほとんど見えない。
黒縁の眼鏡も似合っていない。
髪はいつも後ろでひとつに縛っていて色気もない。
スタイルも普通。
だが、ケガをして足の上で寝たときは温かくていい気分だった。
「……聖女……か」
明日からさっそく魔力操作の練習を始める。
治癒が使えることは間違いないが、知りたいのはどのくらいの魔力を保留しているのか、結界を張るほどの能力があるのか、だ。
あの温かい魔力にもう一度触れたい。
アレクサンドロは窓の外の半月を眺めているうちに、いつの間にか眠りについた。
◇
翌朝、銀髪イケメンが手の甲にキスをするというアリエナイ状況に、ヒナは固まるしかなかった。
「今日から魔力操作を教えるランディです。よろしく、ヒナ姫」
ここにはイケメンしかいないんですか!
やっぱりホストクラブですか!
写真に人気No.1と書かれていそうなランディは大人の色気がダダ漏れだ。
ランディは銀髪なので狼になった時には銀色の毛かもしれない。
「よろしく、お願いします」
やっと返事ができたヒナの手をランディはギュッと握った。
「では演習室へ行こうか」
右手同士はつないだまま、ランディの左手がヒナの腰にそっと添えられる。
腰に手!
そんなのドラマだけじゃないの?
なんかすごく良い匂いがするし!
「無理はさせないでくださいね」
ユリウスがランディに声をかけると、ランディは目を細めて微笑む。
「いってきます」
ヒナがアレクサンドロとユリウスに挨拶すると、アレクサンドロはいってらっしゃいと手を振った。
仕事部屋だから入らないでと言われた部屋は校長先生の部屋みたいだった。
執務机にテーブルとソファー、横にはサイドボード。
広くて綺麗な赤い絨毯の廊下にも驚いた。
花や絵が飾られた明るいアレクサンドロの家は、追い出された暗くて冷たいお城とは全然違う。
アレク様ってやっぱりお坊ちゃん……?
「……何を考えているの?」
ランディのグレーの眼があまりにも近く、ヒナは心臓が飛び出るほど驚いた。
「す、すみません。部屋から出たのが初めてだったので、新鮮で」
部屋も豪華だけれど、廊下もすごいなって。
ヒナが素直な感想を伝えると、ランディは声を上げて笑う。
#子育て
都築七美
357
さぶれ-SABURE-
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さぶれ-SABURE-
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廊下の突き当たりを左に曲がり、少し歩くとすぐにまた曲がる。
煌びやかな廊下が、白くて広い廊下に変わったところで、ランディは握っていたヒナの右手を離し、茶色の大きな扉を開けた。
「はい、ここが演習場」
「……広い」
小学校の体育館の半分くらいはありそう。
高い天井をポカーンと見上げるヒナをランディはくすくすと笑った。
「基礎からって聞いているけれど、それでいいのかな?」
「はい。魔力が何かもわからなくて」
「この手を見て」
ランディはヒナと向かい合うと、右手の手のひらをヒナに見せた。
普通の手なのに、うっすらと手の周りに光が見える。
「何か見える?」
「……手の周りに光っぽいものが」
「うん、それが魔力ね」
ヒナは自分の両手を見た。
でも何もない普通の手だ。
もしかして魔力がない?
ランディは演習室にあぐらをかくと、ヒナに膝の上に座るように手で合図した。
「えぇっ?」
いやいや、ありえないでしょう。
どんなラブラブカップルですか。
「ほら、早く。小さい子はみんなこうやって魔力を覚えるんだよ」
もちろん嘘だが。
ランディはニッコリ微笑み、ヒナを呼ぶ。
ヒナは真っ赤になりながら、渋々ランディの足の上に座った。
「お、重いですよね? すみません」
膝の上に乗りながら、後ろからランディに両手を掴まれたヒナの身体は一気に熱くなった。
膝上バックハグは犯罪でしょう!
No.1ホストのテクニックですか!
「この手を見ていて」
耳元もダメですー!
もう無理、無理、倒れる。
「右手から腕を通って左手に何か温かい物が通るイメージね」
せっかく教えてくれているのに、それどころではない。
イケメンに免疫がなさすぎて辛い。
心臓が飛び出る。
ムリです。
もう無理です。
ごめんなさい。
「……です」
「うん?」
「イケメンすぎて無理ですー!」
優しく支えられていた手を振りほどき、ヒナは両手で顔を隠す。
「……は?」
座っている場所から円を描くように吹き荒れる膨大なヒナの魔力に、ランディは目を見開いた。
こんな膨大な魔力は見たことがない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、免疫がなくて無理です!」
顔を隠したまま首を振るヒナの魔力がどんどん上がっていく。
演習室の壁と天井がビリビリと揺れ、吹き飛びそうに。
これ以上はマズい。
「あぁ、ごめん。嫌だった?」
ランディはそっとヒナの頭を撫で、違う方法を考えるねと優しく話しかける。
「立ち上がる?」
ランディが尋ねるとヒナは顔を隠したまま、うんうんと頷いた。
ヒナの腰をサポートし立ち上がらせると、ホッとしたのか魔力が止まる。
「……ごめんなさい。その、は、恥ずかしくて」
「急で驚いたね。ごめんね、ゆっくり頑張っていこう」
ランディがグレーの眼で優しく微笑むと、ヒナは「はい」と頷いた。
今日はここまでにし、ヒナをアレクサンドロの執務室に送り届けたランディは、すぐに演習室に戻った。
録画を終了し、初めから再生する。
そこには全く魔力を感じない状態から一気に吹き荒れた様子が映っていた。
確かに聖女かもしれない。
無意識であれだけ出るということは、本来の力を引き出せば相当だ。
国全体に結界を張るほどの魔力も彼女ならイケる気がする。
魔力は甘くて優しい光。
温かく包み込まれるような魔力だった。
まだ幼く、色気があるわけでもないが、照れて顔を真っ赤にした姿は少し可愛いと思った。
聖女と聞き、実は絶世の美女を期待していたが、男に慣れていない少女を自分好みに育てるのも悪くない。
素顔は見えなかった。
あの変な眼鏡は似合っていないので無い方がいい。
前髪は目が見えないほど長く、後ろ髪もダサく縛っているが、下ろせばそれなりになるのではないだろうか。
腰も抱いてみたが細かった。
か弱そうで小柄。
男物の服ではなく、ワンピースでも着せてみれば良いのに。
国王陛下にはこの国に引き留めることができるのなら手段は問わないと言われたが、本気で口説いてみるか?
聖女を国に引き留めたら褒賞を与えると宰相は言った。
褒賞の内容はどのくらい治癒が使えるか次第だと言っていたが、この魔力なら結界までいけるかもしれない。
「まずは仲良くならないとな」
ランディは口の端を上げると、映像を持ち演習室を後にした。
◇
リビングのソファーに座ったヒナは自分の手を見つめた。
ランディの手からは何か光が出ていたが、自分の手は何も見えない。
何かをすると出てくるのだろうか?
「ヒナさん、紅茶でも淹れますか?」
リビングへやってきたユリウスにヒナは手を見せてと頼む。
「手ですか? 何かありましたか?」
首を傾げながら両手を出してくれるユリウス。
ユリウスの手も、ランディほどではないが何かボヤッとしたものが見えた。
「……魔力が見えます」
「見ることができるようになったのですね」
成長ですねと褒められたヒナは、もう一度自分の手を見たが何も見えない。
「自分の魔力は見えない、なんてことはないですね」
苦笑するヒナにユリウスは紅茶を淹れた。
ユリウスがポットの中にお湯を注ぐと、ふわっとジャスミンの花が開いていく。
「この世界へ来たばかりなので、まだ魔力の出し方がわからないだけでしょう」
ゆっくり頑張っていきましょうと、優しい声で慰めてくれるユリウスに、綺麗な花茶を見ながらヒナは悲しそうな顔で微笑んだ。
「落ち込んでいます」
「初めてはうまくいかなくて当然だ」
自分だって子どもの頃はうまく魔力が解放できなかった。
狼から人の姿に戻れなくなったことは何度もあるし、逆に狼になれなくなった時期もある。
ヒナの様子を伝えられたアレクサンドロは、ユリウスからジャスミンティーを受け取りながら肩をすくめた。
「魔力があることはわかっている。頑張ってもらうしかない」
チェロヴェ国で騎士に攻撃された傷、あれはかなり深かった。
ユリウスには言わなかったが、もう二度と歩けないと覚悟したほど重症だった。
それを治したのはヒナだ。
だから治癒の魔力を絶対に持っている。
「明日は、ディーンが通貨について教えに来ます」
「ディーンか」
ランディとは正反対の人選にアレクサンドロは苦笑した。
文官の中ではかなり人気のある男。
真面目な男だ。
その誠実さが良いと令嬢の間で囁かれていることは知っている。
ランディは武官。
狼族の中では魔力量も多く、しなやかな動きで強い。
一方で女性には誰にでも甘く優しく、泣かされた女は多い。
「極端だな」
アレクサンドロが溜息をつくと、ユリウスもそうですねと微笑んだ。
◇
翌朝、ユリウスから紹介されたのは本を何冊も抱えた眼鏡の男性だった。
「ディーンです。どうぞよろしく、ヒナ嬢」
「よろしくお願いします」
昨日魔力を教えてくれたランディがNo.1ホストだとすると、ディーンは優等生タイプ。
でも、イケメンであることは変わりない。
狼族はみんなイケメンなのだろうか?
「……眼鏡がないと見えないですか?」
黒縁眼鏡をひょいと取られ、レンズを確認される。
急に無くなった眼鏡に、ヒナはワタワタと慌てた。
コメント
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第4話読んだよ!ランディ、サービスがすごすぎて笑ったわw「イケメンすぎて無理」ってヒナが叫んで魔力暴走するところ、めっちゃ可愛かった。膝上バックハグは反則だろ…確実にNo.1ホストのテクニックや。 でも一方で、ランディも「自分好みに育てるのも悪くない」ってなかなか計算高い感じで、今後の動向が気になるな。そしてディーン登場!狼族イケメン率やばすぎない?続き楽しみにしてます🔥