「はぁ…」
私今日、何回ため息ついたっけ?
健人くんの事だけで どれだけため息つくんだよ、私。
余計幸せ逃げるっての。
……まぁもう、幸せなんてとっくに逃げてるか。
何とか立ち直ろうとした時、私はふと後ろを振り返った。
木々を見つめ直したかったからだ。
でも、また『ヤツ』と出会ってしまった。
「……(健人くんだ…)」
せっかく立ち直ろうとしてたのに、また辛くなるだけじゃん…
どうせ仁菜ちゃんも一緒だよ。
今年は、仁菜ちゃん隣り合って杉を眺めるんだな…
隣はもう、私じゃ無いからね。
――そんな妄想をひとり繰り広げていると、静かなこの道に、聞き慣れた音が響いた。
「また来たのか。」
「……」
健人くんの声は、鋭い静けさを纏っていた。
隣には誰もおらず、一年の時よりもずっと堂々としていた。
私は声一つも出せず、黙って見つめていた。
次の言葉を 今か今かと待ちながら…
「懐かしいな、この景色。 あの時は夏だったよな。」
「…」
思い出に浸るように話し出した健人くん。
どうやら、機嫌が悪いようでは無いようだ。
少し安心したものの、私は健人くんの仕草一つ一つを、息を殺しながら見ていた。
健人くんは手をギュッと握りしめて、思いもよらない言葉を発した。
「寂しい…」
「……!」
この耳が確かなら、健人くんは今確実に『寂しい』と言った。
仁菜ちゃんが居るのに、何が寂しいのよっ…!
――感情を表そうと眉をひそめた私に、健人くんは二歩近づいた。
その歩みは小さく、目も泳いでいた。
___今日は、いつもの健人くんらしくない仕草が目立つ。
何故か一人だし、寂しいって… どうしたんだろう……
――いや、もう我慢出来ない。
私が話を進めないと、このまま日が暮れそうだ。
私は真っ直ぐ健人くんを見つめ直し、一つ一つの言葉に感情を込めて話した。
「私を必要としてないのに、勝手に感情 暴露しないでくれる?」
「っ…!」
少し間を開けて、息を吸う。
そして、また話し出す。
「もう、戻れないよ…っ!! 戻りたくても、戻れないよっ!!」
私は、涙ながらにそう叫んだ。
でもその声は、杉の木に吸い込まれていくようで…
真正面にいる健人くんには、全然届いていない気がした。
「過去に囚われすぎてるよね、私。諦めれてないんだよ、私。」
「健人くんには関係ないよ、もう。どうせ分かんないでしょ…!」
「…!七葉…」
重く沈む嘆きの声は、私が言ったのに、自分の心にも突き刺さった。
もう重い空気に耐えられなくて、私はその場から走って逃げた。
もう少ししたら並木道は抜け、家も近づいてくる。
やっとここから逃げられる…! そう思っていたのに、なかなか簡単にはいかないもの。
健人くんがずっと追ってきて、だんだん距離は近くなってきているのを感じていた。
「んもうっ! 逃げたいのぉっ…!!」
なんで、なんでそんなに執着してくるの?!
私なんてどうでも良いはずでしょ!!! もういい加減来ないでよっ…!
そう思えば思うほど、走るスピードは落ちていく。
ついに追いつかれ、真後ろまで健人くんが来てしまった。
――どうせ、慰めてなんかくれないよ。
――健人くんなんて、もう信じれないから。
「何?」
息が切れかけてきていた私だけど、ゆっくり後ろを振り返ってそう言った。
たった一言で、健人くんは全てを感じ取ったらしい。
そして何か言おうとして口を開き、また閉じた。
___一体何が言いたいの…?
ただずっと黙っていると、やっと健人くんが言葉を発した。
その言葉は何よりも私に刺さって… そして、ずっと私を離れさせなかった。
―――「俺はもう、新しい恋の道を歩んでる。今を突き進んでる。」
―――「俺、過去なんて嫌いだ。」
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