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「…(過去なんて嫌いだ、か…)」
私だって、好きで過去を見てるわけじゃない。
健人くんの存在があるから、過去を見なきゃいけないんだ。
……私の辛さなんて分からないくせに、その感情を全部「過去」で表現された。
それが一番嫌なことだった。
家に帰った今も、さっきの言葉が離れない。
忘れようとしても、ずっと覚えてる。
だって、健人くんが言いたかったのは「過去が嫌い」という事では無いから…
健人くんが本当に言いたかったのは、
「私と付き合うことは もう無い。」
という事だ。
私が過去に囚われて、自分の事を引きずってほしく無かったに違いない。
婉曲に伝えて、私が傷つかないように配慮してるだけ…
優しいくせに、やってる事が全部 中途半端。
――なのに、なんでこんなに好きなんだろうな、私…
ホント馬鹿みたい。
もうとっくに「彼女」の立場は取られてるし、私を愛してくれるわけ無いのに。
まるで、健人くんに取り憑いてるみたいじゃん!!
___でも健人くん、『寂しい』って言ってたよね…?
あの言葉の意味は、まだ私も分かっていない。
健人くんは彼女の存在に満たされ、最高の未来を見据えてるはず。
寂しいわけ無いでしょ、絶対。
これも、私を傷つけないため…? だとしたら余計傷つくんだけどっ…
――でも、健人くんがそんな嘘つくだろうか?
嘘をついてまで言葉を選ぶような、そんな性格だったっけ…?
私、そんな人好きになれないよ…
もし健人くんが寂しいなら、何に対して言っているのだろう…
それに、彼女を引き連れずに一人で帰っていたのも気になる。
健人くんの家も私と近いから、あの並木道を通ったら遠回りになる。
――自分の思い出の場所だから…?
そう言えば私達、あそこで色んな事したな。
彼氏が出来たら何すれば良いか、とか分からなかったし、まだ異性と話すのにも慣れていない時期だった。
よくあそこを歩いたのは、そんな時期ばかりだったのかも。
あの後は暑さの厳しい夏になり、私達はあまり一緒に出かけなくなった。
それを境に、愛情は淡くなっていくばかりだった…
そして その後3ヶ月も経たない内に、私達は別れる事になったんだ。
その時から、健人くんは私の事好きじゃなくなってたのかな…
――あの厳しい夏の日…
私は、学校のヒマワリに水をやる係で、毎日少し遠い花壇へ行っていた。
大変だけど、健人くんも水やり係だったから、唯一 一緒に外に出る日と言ったらこの日ぐらいだろう。
毎日毎日、大地が溶けるような暑さ。絶対毎日会うこと『は』出来たから。
「…おはよ…」
健人くんは、じょうろを持ちながら ボーっと うなだれていた。
それでも、私の存在には気づいていて、毎日自ら挨拶をしてくれた。
それが嬉しくて、私はあえてゆっくり水やりをしていた。
この日もさりげなく挨拶を返して、他愛のない会話を一人で楽しんでいた。
「今日も暑いね… 死にそうだよ…ぉ」
「だな… 猛暑日って言ってたし…」
「うんうん…」
私達は、会話すらまともに出来ずに水やりをしていた。
額から汗がポトポトと垂れていく感覚は、紛れもなく**「青春」**だった。
そんな夏を感じられるのすらも嬉しくて、自然に笑顔がこぼれた。
それはヒマワリも同じらしく、日光が眩しくて、でも青空が包みこんでくれている快感を感じていたのかも知れない。
__「七葉ー、どこー?」
「あ、リリ…」
私の名前を呼んだのは、私の妹 ――リリ だった。
小学6年生になったばかりのリリは、これまで見たことの無い、自信に満ちた表情をしていた。
そんなリリは 素直で、純粋で、… でも、とても優しくて可愛らしい 自慢の妹だ。
友達も多いようだし、恋もしていないんだろうな…
私が健人くんと付き合ったこと、別れたことも知らないから、こうしていつでも話しかけてくる。
これが良い時もあれば、嫌になる事もあるって事…
恋をしていないリリは、そんな虚しさをまだ知らない…
「お姉ちゃん、何か元気無いね?! どうしたの?」
「リリには関係無いよー。」
私、気付けば健人くんにずっと浸ってた。
失恋したのに、まだ諦めきれてない。
本当馬鹿みたい。
「ねー、ねーったら!お姉ちゃん、どうしちゃった訳???」
「だーかーらっ!あんたには関係無いって言ってるでしょ!」
「…はーい。」
リリはしつこい所あるから、こういう時は余計迷惑だ。
――リリ、きっと好きな人も居ないんだろうな。
恋愛は、楽しいけど辛いものだから…
「はぁあっ…」
今日もまた、発散出来ないストレスが溜まっていくだけだった。
――翌日
今日はテストの日だ。
昨日健人くんに浸っていたせいで、全然対策出来ていない。
勉強と恋愛の両立は難しいなぁ……
いや、恋愛というよりは 『失恋』 か。
「七葉、どうしたんだ?最近何か変だけど。」
「ん? あぁ、春人か…」
朝 机に突っ伏していると、幼馴染の春人が話しかけてきた。
春人は、明るくてよく周りを見てる、結構優しい人間… だと思う。
いつもと違う私に気づいて、すぐ心配して来てくれたらしい。
「春人には関係ないよ。」
昨日妹に言ったことを、もう一度春人に言った。
まだ風が心を吹き抜けたかのような、虚しさが私の奥底に残っていた。
また息を大きく吐いて黙っていると、春人が隣の席の椅子に座って、こちらへと近づいてきた。
一気に距離は縮まり、顔と顔の距離はわずか15cmほどになった。
「ちょ、ちょっと… 近い…」
そう言っても春人は一切動ぜず、真顔で更に距離を縮めてくる。
「何があったか教えろ。」
「っ……」
その真剣な眼差しに、私は逆らうことが出来なかった。
「______という事で…」
「…ふーん。」
春人は、せっかく答えてあげたのに 冷たく言葉をつき放った。
「ちょっと、何か冷たくない?! 全く春人は__」
「あのさぁ。」
「!」
私が呆れながら話していると、その言葉を遮るように春人が話してきた。
誰も居ない教室に、春人の 重い呆れ声が静かに響く。
「お前は、なんでそんな奴をずっと気にすんの?」
「え?」
「だーかーらぁ… なんでそんな冷たい奴をずっと引きずってんの?馬鹿じゃねーの?」
「っ、それはそうだけど…」
春人は更に低い声で、私に近づいてくる。
「そこまでして、健人ってゆー奴に取り憑く必要は無いんじゃねーの?」
「っ… ド正論出たぁ……」
親友だからこそ、こうやって事実を私にぶつけてきている。
それは、私を助けてくれようとしているだけ…
そんなの分かってるよ、春人…
迷いを見せる私に、春人はトドメの一撃をさした。
「お前を使って調子乗ってるんだろ。 もて遊ばれてるんだよ、お前。」
「!!」