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(顔と、口調があってないのよね……なんか、変な感じ)
悪魔ベルゼブブこと、ベルはラアル・ギフトの皮を被った年齢不詳の男……なのか、悪魔だから性別があれか分からないけれど。そんな彼は、私が前の世界で出会った、この世界の理から外れた存在。言わば、イレギュラー。聖女と対となる存在と言っていたけれど、聖女以上にその力は凄まじい。対峙したらきっと勝てないだろう。今の初代の聖女の身体だったとしても。
「よかったあ~覚えていなかったらどうしようかと思ったっす。ほんと、ほんと」
「よくない。というか、いきなり私の侍女を眠らせないで。起きたらどうするの。どう説明するの」
「俺の魔法がそう簡単に解けるとでも?」
ニヤリと笑ったため、私はサッと血の気が引くような感覚になった。人智を越えた存在を相手にしているからか、それが嘘かも知れないと分かっていても、本物に聞えてしまうのだ。もし、このままアウローラが目覚めなかったら。いや、私だって此の男に連れ去られるカノ生だってあるわけで、浅はかだったと思わざるを得なくなる。
「なーんて、冗談っすよ。ほんとただ眠っているだけ。俺の合図で起きるっす。安心して欲しいっすよー」
「信用出来ないのよ」
「悪魔だからね」
「分かってるなら、言わないで。というか……その顔と口調があってないの!何かちぐはぐ!ラアル・ギフトのねっとりとした喋り方だから、その胡散臭い顔があっているのに!」
「胡散臭いって失礼っすね!確かに、顔は綺麗だけど、誉められたもんじゃないかもっすけど!身体は気に入ってるんすよ!?」
「魔力があるからでしょ。それも、変わった毒魔法」
ぷんすこ怒る姿も、ラアル・ギフトっぽくない。中身が違うと、これほどちぐはぐになるのかと、やはり人間は中身が重要なのだと思った。勿論、ラアル・ギフトの外見が胡散臭い男ナンバーワンだから、中に居るベルの陽気な性格とあっていないだけであって、違う人が中に入っていたら、また違ったかも知れない。そんなことないだろうけれど……
「……」
「巡ちゃんも身体取られちゃったんっすね」
「煩い」
「あーひどいひどい。慰めてあげようって、色々手を回してあげてたっていうのに。そんな風にいっちゃうんすか。俺傷ついちゃったっすよ」
「やっぱりアンタが?」
「ああ、気づいていたんっすか」
鋭い瞳が私に向けられ、まるで心の中まで見透かされている感じだった。悪魔だから、心の中も読めると言っていたな、ということを思い出した。
私は、これまでことが上手く進みすぎていた理由をずっと考えていた。モアンさんの村にいたときから、ドレスを貰ったり、見守られているような監視されているような目を向けられていたりしたのは、私の勘違いじゃなかったと。それら全て、この男の仕業だったというわけだ。我ながら鋭い勘をしていると思った。
「アンタのおかげで、私はアルベドと合流することが出来た」
「あーなんでっすかね。彼奴、あそこまでして……」
「アンタは、魔法の影響を受けていないんでしょ。禁忌の魔法であっても、アンタが理の外にいる存在なら……」
「あー何か、世界まき戻っちゃってるなあとは思ったっすけど。そんぐらいっすね。記憶を維持しているのは、対価を払っているからっしょ」
「対価?アルベドが?どんな?」
「本人の口から聞けばいいっすよ。まあ、言ってくれないでしょうけど」
と、ベルはいじわるに笑う。分かってる。何かおかしいことぐらい。アルベドが、何かをして覚えていてくれたことぐらいは知っていた。それをアルベドは一向に教えてくれないだろうけれど。
「その対価って、大きいもの?小さいもの?」
「それなりのものっすよ。まあ、色々……あ~いっちゃおうっかなあ~あの紅蓮すました顔して、かなりのやり手みたいだし?ちょっかいかけちゃうのも面白いかもっすよね-」
「……嫌がることはしないで」
「おっ、浮気っすか?好きなのは、あの黄金じゃないんっすか」
「……それとこれとは別なの」
「別も何もないっすよ。浮気だー」
浮気だ、浮気、と連呼するので殴ってやろうかと思ったが、その手はあっさりと止められてしまった。力差がありすぎるので、これ以上やったら、本気でやり返されそうだと、私は腕を下ろす。記憶を保持するために払う対価とは何か。想像がつかなかった。ベルの嫌がらせで、アルベド以外から聞くことになるなんてことは避けたかったけれど、ここまで引っ張られてしまったら、聞きたくなるのもしょうがないと。
「教えて、くれるの?」
「聞きたいんすか」
「教えてくれるなら、聞きたい。そりゃ、アルベドから聞けるのが一番だろうけど……でも、教えてくれないのは、分かるから……アルベドが、そこまでして記憶を保ってくれたの、凄く嬉しかったから。今も、凄く助かってるから……だから。私が返せるものはあるかとか、そういうのもあって」
「返せるものねえ……」
「ない……とか」
「ないっすね。あるとしたら、巡ちゃんが、この世界を元に戻すことっすね。世界のまき戻りの基準は、巡ちゃんが死んだ瞬間から。その後に起こったことは全て無かったことになるんで。だから、巡ちゃんが死んだ後に、自殺した奴がいたとしてもそれはなかったことになるっすね」
「……自殺?」
私が聞き返すと、ベルは少し大人びた顔で私を見つめ返してきた。鋭い瞳が答えを教えてくれるようで、それを私は否定するために首を振る。
「死んだ人も……生き返る?」
「生き返るというか、だから巡ちゃんを起点に世界がまき戻ってるんすよ。だから、その後のことはそもそも、紡がれていないわけで。ね、分かるでしょ」
「……」
「巡ちゃんの死を受けて、狂った人はいっぱいいたんじゃないんっすか。だからこそ、心にダメージを受けて、その闇を広げ、覆い隠し、偽物の感情を植え付けられたと。喪失感につけ込んだ、洗脳っすね。よくやると……ねえ、エトワール・ヴィアラッテアは」
「アルベドは」
私がそう言うと、ベルは私の手を握った。何故、手を握ったのか分からなかったが、まるで手錠をされているようで、戸惑ってしまう。私が、離してと言ったが、彼は離してくれなかった。逃げるなと言わんばかりに。
(私が死んだ後も、そりゃ、世界は続いているだろうし、時間は止らないだろうけど……私が死んだその瞬間が、巻き戻しのターニングポイントになるってこと……だよね)
その後に起きたことは全部無かったことになる。もし、私が死んだ後、リースに何かを吹き込んだり、トワイライトに危害を与えられたり、皆が泣いて悲しんで……くれていたことも、それは全て無かったことに。
何となく分かるようで、分からないようで、私はベルに答えを求めるしかなかった。出かかった答えを、引っ張り出して貰おうと思ったのだ。でも、そうして貰わなかった方がよかったのかも知れないと、後から思うことになる。
「まず、残念なお知らせでいえば、巡ちゃんが死んだ後、エトワール・ヴィアラッテアは巡ちゃんの恋人の前に姿を現したっすね。そこで、彼に洗脳をかけた。彼にキスをした」
「な、なんで……キス、なんか」
「嫌がらせでしょうね。それと、深いところまで、洗脳をいき届けさせるために。だから巡ちゃん、一番洗脳をとくのが難しいのは巡ちゃんの恋人だと思った方がいいっすよ」
「そ、それは、分かってるつもり……エトワール・ヴィアラッテアが、離してくれるとは思わないし」
「そうっすね。で、あの紅蓮。あの紅蓮が払った対価は死っすよ」
「……っ」
分かっていた答え。でも、実際言われると、胸が締め付けられて、涙が零れそうになった。痛いのは彼だったはずなのに。
「じゃ、じゃあ、アルベドは……一回死んだってこと?っと、自殺……それとも、何か――」
「巡ちゃんがあの世界で死んだ後っすよ。後追いじゃないっすよ。多分、分かってたんでしょーね。世界がまき戻ることを。だから、まき戻った世界でも、巡ちゃんを探すっていう覚悟で。いるかもわからないのに、よくやると思わないッスか?」
そう言ってベルは嘲笑した。馬鹿だと、阿呆だと、そういわんばかりに――