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(何も言ってくれてない。何も知らない。何それ勝手すぎる……ほんとに、ほんとに)
私が、まき戻った世界にいないかも知れないのに。死ぬっていう苦しみを味わってまで、アルベドは記憶を保持したかったってこと? 私が、この世界に戻ってきたから、またあえたけれど、そうじゃなかったら? エトワール・ヴィアラッテアが偽物だと思いながら接したのだろうか。それとも、誰にも理解されず、理想は理想のままで、一人孤独に生きたのだろうか。考えるだけで辛かった。彼のことを深く知っているつもりだから尚更。
でも、尚更分からない。なんでそこまでして。
「愛っすね」
「愛……」
「紅蓮の感情に名前を付けるならっすよ?それ以外考えられないでしょ」
「恋愛感情ってこと?」
「まあ、それも……でも、もっと大きなものじゃないっすか。自分の片割れとでも思ってそうっすね。いやー運命じゃないって分かっていても、ここまでするっすかね」
「アルベドのこと、悪く言うのだけは許さないから」
おー怖い怖い、なんていいながらベルはヘラヘラと笑っていた。悪魔だから、人の感情は理解できないのかも知れない。だから、そこにおこっても仕方ないのだ。私は、感情に蓋をして、ただ今告げられた真実だけを咀嚼する。
彼の行動を馬鹿だという資格は私にはない。寧ろ、私の為に、どうしてそこまでしてくれるのかと、聞きたいくらいだった。いや、そんなの、無理矢理聞くものじゃないって分かっていても。
だって、死ぬのって怖いんだよ。私だって、断頭台にたったあの時、諦めていたけれど、死ぬのって怖いって思った。それを、自らやったなんて考えただけで吐きそうだった。怖くて、死にたくないって叫ぶし、死ななくていいんだから、死なないっていう選択肢をとるだろう。でも、アルベドはそれを――
「うっ……」
「かわいそー。頑張ったんじゃないっすか。彼なりに」
「分かってる……でも、私、アルベドに、そんな……」
「分かってあげてるでしょ。寂しがり屋なんっすよ。ほら、あの紅蓮の弟だって、寂しがり屋だったじゃないっすか。兄に認められたい、認められないなら死にたい、兄のものを全部奪いたいって。そう感情が膨れあがって、拗れて、ねじ曲がって、歪な愛が出来ていく。でも、元の感情を辿れば自分を見て欲しいってことでしょ?紅蓮だって、自分の他とは違う考えを聞いて欲しかった。理解者が欲しかったんじゃないっすか?」
「……理解者。アルベドの、理想」
「聞いたんでしょ?なら、そういうことっす」
と、ベルは一人納得したように頷いた。
私は頭を抱えながら、アルベドのことを思い出す。
もしかしたら、彼は私から離れたのは、それがばれるのが怖かったから? でも、どうせバレるなら、早くいってくれればよかった。ううん、アルベドは、ベルの存在の事は知らないだろう。だから、バレるなんてことそうそう考えないと思う。アルベドしか、知らないのだから。前の世界の記憶を持っているのは、私と彼だけ。
リセット地点後に死ねば、それは死んだカウントにならない。きっと、ただ死ぬのだけじゃなくて、そのための魔法や道具やらを使って死んだんだろう。でなければ、記憶を保持することは不可能だ。アルベドは、そこまで考えて、計画を練って……何処まで計算していたのだろうか。
「本当に、世界を巻き戻したら、アルベドは助かるのよね」
「助かるも何も、そもそも何もしていないことになるんすから。いや、何もしてない。あの紅蓮は何もしてないッス」
「じゃあ、尚更世界を元通りにしないと……いけない……かも。対価、死だけでいいの?」
「死だけって、怖いこと言うっすね。人間にとって一番の恐怖じゃないっすか。死っていうのは。十分な対価っすよ。それも、この場合、自分の心臓に剣を突き立てるようなそんな行為だしねー」
「……」
「まあ、後は本人から聞けばいいっすよ。あーこんな話をするために、呼びつけたわけじゃないんすけどね。俺って、悪魔なのに、優しい?」
なんて自虐をいいながら、ベルは私の手をようやく離した。握られていたはずの手は、全然冷たくて、温度を感じられなかった。ベルは、よかれと思ってやっているのではなく、それがぽろっと言葉に出てしまったから、言い切っただけなのだろう。私を助けるという意味は全くこもっていないと思う。それが、ベルだから。
私は、アルベドが記憶を保持していた理由を知って、彼にどんな顔を向ければ良いか分からなくなった。
ありがとうと言うべきか、何でそんなことしたのと怒るべきか。
いや、きっと、アルベドは「自分がしたいからした」って返すだけだと思う。俺がしたいからした。それが彼の答えだろう。分かってるよ、分かってるから辛かった。それが、「俺がしたいからした。エトワールのために」になるんだから。
(――って、エトワールって今は言って貰えないんだっけ。名前も、身体も、皆も早く取り返さなきゃ)
私は再び気を持ち直し、エトワール・ヴィアラッテアと戦うことを決意する。チャンスを作っていくしかないのだ。
「それで、私を呼んだ本当の理由って何?」
「理由っすか。えーっとっすね。まあ、記憶があるかっていう云々もそうっすけど、単純に顔が見たかったんすよね。喋りたかったって言うか?」
「それだけ?」
「それだけっすよーだって、巡ちゃんと俺の仲じゃないっすか。この世界に召喚されて、初めて興味を持った人間何すから。悪魔の執着って面倒くさいっすよ」
「見た感じそう思うからやめて」
「もう無理っすー巡ちゃんは一生俺に付きまとわれるの刑~」
クシシと笑うその姿は、本当に悪魔そのものだと思ったあ。面倒くさいのに好かれてしまったと、私は溜息が出る。そして、顔と口調があっていないのだけはどうにかして欲しい。
「ああ、やっぱり気になるっすか。もー気にしすぎっすよ。巡ちゃん」
「心読まないで。あと、巡ちゃんじゃないし」
「ステラちゃん」
「……」
私が睨み付ければ、それが嬉しいとでも言うように、彼はゾクゾクと身体を震わせていた。何がいいのか私にはさっぱり分からない。けれど、彼にとっては快感なんだろう。私には一生分からない。
ベルは、人差し指をフッと振ると、彼の身体は妖しい光に包まれ、一瞬にして、一七歳くらいの少年の姿に変化する。服もそれ相応のものに早変わりする。変そう魔法ではなくて、本当に年齢を操作したのだろう。
「そんなことして大丈夫なの?」
「悪魔は、記憶を弄っても大丈夫なんで~これで、ステラちゃんと同じくらいの年齢になったっすね~いや~いいっす~」
「嬉しくないんだけど!?」
「またまた、照れちゃってるだけッスよね!嬉しいの知ってるんすからね!」
と、ベルは私にすり寄ってくる。顔も幼くなったし、口調とあっているような気がして、今のラアル・ギフトの身体なら、私の中のベル像と一致するな、と違和感はなくなった。だが、それによって、引っ付かれるという最悪の事態に発展してしまった。
すりすりと頬をすり寄せられながら、抱きしめられていると、ベルはふと何かに気づいたように動きを止めて指を指した。
「それで、気になっていたんっすけど。その毛玉、変っすよね」
「毛玉……ああ、ルーチャット」
「ルーチャットって、この毛玉の名前っすか。へー、恋人と似たような名前つけて」
「言わなくて良いから!で、何。アンタ、犬アレルギー!?」
全てお見通し、お見通しと、ベルはずかずかと入り込んでくる。今度は、ルーチャットのことが気になるようで、毛玉、と指を指す。そう言えば、ルーチャットも一緒に転移してきたんだよな、と思ってルーチャットの方を見れば、フーッと滅茶苦茶威嚇していた。ベルはそれを不思議そうに見ている。
「ほんと、イレギュラーばっかり起きるっすね。まあ、まあ……俺には関係無いっすけど」
そう言うと、ベルはルーチャットに手を伸ばし、その細くて白い指をルーチャットの口に突っ込んだ。