テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(※ツバキの視界が完全に塞がったため、ここから一時的にカエデ視点でお送りします)
──【視点:カエデ】──
「わぁ! ツバキすごーい!」
私は思わず手を叩いた。
ツバキの顔から、極太ビームが出た。
……が、前が見えてない。
ドォォン!!
地面が燃えた。
「んごぉっ!? ごふっ!!」
ツバキが砂埃にむせている。
「今です! 顔の位置調整入りまーす!……ロックオン!」
「ぼーざ!!んぐぅぅっ!!」
(※おそいぃぃ!!)
ローザさんがツバキの顔の向きを無理やり直した。
ビィイイイイイイイイイイ♡♡♡
今度は魔神の手に無事に当たった。
『ぐああ…! ちょこまかと……うっとうしい……!』
魔神の手が左右にちょこちょこ動いてる。
なんか、茹でる前のカニさんみたいだなぁ。
「ぼーざ! あばばばなばばもばばばばば!」
ツバキが口からビームを出しながらモゴモゴ叫んでるのに、ローザさんには言葉がわかるみたい。ローザさん、すごい。
「え、えぇ!? 私……戦闘は……」
ローザさんが慌てふためきながら、
分厚い聖典を抱えて魔神の手に向かって走り出した。
「えいやぁぁぁ!!」
ピョン! ピョン! ガンッ! ガンッ!
跳びながら聖典の角で魔神の手を叩く。
『何だこの攻撃は……!?
何かのカド……? 地味に痛い……!』
「よし! 効いてる!」
私は親指を立てた。
『で、出れ……ぬ……!?
なんだこいつら……空気を読んでくれない……?』
「ツバキ様あああ!
今です! そのまま押し切ってくださいっ!!」
ローザさんがピョンピョン跳びながら、
聖典で魔神の手を叩き続けながら叫んだ。
「おっじゃあばばばばばばばばばーッ!」
(※よっしゃー! 全力だああああああーッ!)
──その時、ツバキの背中に光の粒が集まり始めた。
(BGM:「か・み・さ・ま☆ドーン〜恋はビームで打ち抜け〜」)
私とローザさんが無意識にテンポを取り、
ツバキの魔力が拍に乗る。
そして──ぱぁん、と音を立てて弾けるように、
光の翼が展開した。
ツバキの体がふわりと宙へ!
キラキラ光って、ツバキが空中にピタッと浮いた!
なんだかお祭りの風船みたいだ。
でも、顔がそっぽを向いてるから、
ビームが変なところに飛んでいってる。
「あっ、ちょっと!? まだ顔の位置合わせ中なんですけど!?」
ローザさんが慌ててジャンプした。
手には分厚い『カメリア聖典』。
ローザさんは本を振りかぶると──
ツバキの顔を、べしべし叩き始めた!
「右にもう五度!」
ぴょん! ばしっ!
「あばっ!?」
ツバキの奇声とともに、顔が右に弾かれ、
ビームの向きがギュンッとズレた。
「あごをもう少し上に!」
ぴょん! げしっ!
下から本が入り、ビームが上に上がる。
「ふぐっ!?」
ツバキからまた女子が出しちゃダメな声。
「ぼーば!ぼんぼあどいあいあばあばばばばーッ!!!」
(※ローザ!本の角いたいからあああああ!!)
殴られるたび、ビームが乱高下してる!
花火みたいで最悪にきれい!
「最後、微調整!」
ぴょん! がすっ!
「ひんっ!?」
ツバキの鼻に本がジャストミート。
ビームが止まりました。
──静寂。あ!鳥さんが飛んだ!
「調整完了です! 顔面ロックオン!!!」
ローザさんが何事も無かったかのように、ドヤ顔で叫びました!
「あ!」
ツバキは痛そうに泣いてるけど、またビーム発射。
今度はバッチリ魔神の手に当たってる!
ビィィィィィイイイイイイイイイィィィィム♡
「ツバキ凄い! ウィルソンも追加ああぁ!!」
私はしつこく、石を投げ続け──とっておきのスキル発動です!
「私も全力行くよ!
《スピリットコール:弱風》──出てこい、フーラ!!」
私の周囲に風が舞い、テンション高めの精霊が登場した。
「風の精霊、フーラ参上ッ!! 必殺ッ! 風圧一センチッ!!」
ピュウッ!
魔神の手の甲を──優しく撫でた。
『ちょ……何いまの!? くすぐった……!』
「これが伝説の風圧、感じたかッ!?」
フーラがドヤ顔で叫んだ。
「やった! 効いてる! たたみかけるよ!」
私は謎の手応えを感じながら、すかさず叫ぶ。
私は、手に残った最後の石をそっと見つめた。
「……最後のウィルソン……いってらっしゃい……」
ウィルソンの声が響いた。
『カエデ……今までありがとう。また会えたら──』
「えい!」
ポイッ。
投げた。
ん?まだ喋ってた?
ゴンッ!!
『いでッッ!!』
『──カエデ……ヴァルハラで会おうね』
ウィルソンの声が消えた?
私は荷物のうどんを見ていたから分からないや。
なんだかお腹が空いてきた。
ツバキのホーリービーム♡、ローザさんの聖典の角、
ウィルソン、フーラの風圧が全て命中する。
痛いのか、魔神の手がビクビクしてる。
空のひび割れも、どんどんちっちゃくなってきてるぞ。
『いででででで!!
痛い! めっちゃ痛い!! 集中できない!!』
裂け目の中からかすれた声が響く。
『……ちょ……無理だこれ……想定外すぎる……』
『裂け目が縮んで……手も痛いし……』
しかし、次の瞬間。
低く、禍々しい声が残響のように響いた。
『次は裂け目ごと穿つ。希望もろとも、だ
……次に泣くのはお前たちだ』
(次に泣くのはってことは)
(今、泣いてるのかな?)
(あ、でもツバキは今、本のカドで殴られて痛くて泣いてる……)
バシュゥッ! という音と共に空間が閉じ、
魔神は撤退しました。
*
(※視界が晴れたのでツバキ視点に戻ります)
──【視点:ツバキ】──
静寂が戻る。
「──逃げた?」
私はビームを止め、汗だくで膝をついた。
全身の力が抜けて、ぺたんと草原に座り込む。
「はぁ、はぁ……こわかった……全力拒絶成功ッ……!
我が拒絶の光よ。次は……通さないから……!(※鼻血を拭きながら)」
「……あの、ほんとに……ウィルソンが……効いた?」
カエデは全弾投げ尽くして、荒く息を吐いた。
ローザが私たちに駆け寄る。
「お疲れ様でした!
でも……あの魔神?……また来そうですね」
「……今のうちにうどん食べとこうよ!」
カエデの手にはいつの間にかうどん。
「……それな」
確かに今のドタバタの消費カロリーは異常。
私たちは顔を見合わせ、なぜか笑いが込み上げてきた。
「……次は、熱湯だね」
カエデが決意した表情で言った。
完全に魔神を「茹でる前のデカいカニ」としてロックオンした目だ。
「……うどん、ゆでてから投げよ」
私は鼻血を手の甲で拭いながら、深く、深ーく天を仰いだ。
なんだろう。
「おおお……!
聖女様が下す、灼熱の裁き(ホーリー・ボイル)ですね!
次の戦いに備え、聖典の次巻には防水・防汚加工を施しておきましょう!」
ローザが狂喜しながら、新たなページに『対・邪神用:聖なる釜茹で戦術』と猛烈な勢いで書き込んでいる。
世界の命運を懸けた最終防衛ラインが、完全に「うどんの美味しい作り方」にすり替わっている。
もうツッコミを入れる気力すら残っていなかった。
私はただ、鉄の味がする長いため息を、草原の風に乗せて虚しく吐き出した。
*
風が戻る。
世界の呼吸が、やっと再開した。
「……行こう、カエデ、ローザ。まだ──終わりじゃない」
草原に立ち上がった私は、
汗と涙と鼻血に濡れた顔をぬぐった。
「うどんたくさん買い溜めしないとね」
「はい。魔王を、倒しましょう」
私たちは笑い合い、太陽の下へ歩き出した。
その背中には、もう”聖女”も”勇者”も背負っていなかった。
ただ、”ツバキ”と”カエデ”と”ローザ”のままで。
──私たちの魔王討伐の旅は、まだ始まったばかりだ。
◇◇◇
その頃、異次元の彼方で──
魔神は暗闇の中で手をさすっていた。
『痛い……手がヒリヒリする……』
『なぜあの石がこんなに痛いのだ……ただの石ころのはず……』
『それに聖女の力も想定以上……裂け目まで浄化されるとは……』
『次は必ず……もっと大きな裂け目を最初から作って……』
『熱湯とか言ってたな……ククク……では、真っ先にうどんを消す……』
(つづく)
◇◇◇
《魔神の反省メモ》
・次元移動時は最初から大きな裂け目を作ること
・聖女の浄化能力は予想以上(裂け目まで縮む)
・石の威力を侮るべからず(集中力が途切れる)
・本のカドは地味に痛い
・次は”第三の鍵”が動く前に……潰す。
・最優先排除目標:うどん(熱湯はさすがに怖い)